希望
静の久々の笑顔に俺のテンションは上がる。
「静、体の傷はどうなんだ?」
「ん…動くとちょっと痛いけど、大丈夫。」
静が白いパジャマの上から肋骨を触る。
心配そうな俺の顔を下から覗きこんで
「…大丈夫だよ…それに、僕、今まで痛みの事なんて…気にしてなかったし…。」
と、へへっと笑う。
(…それだけ心の傷の方が深かったって事だろ…)
俺の釣り上がった眉がなかなか下がらないので静が気を使って話題をそらす。
「てつは…試験どうだった?」
「ん?…中西がノート集めてくれたからな…まぁなんとか。…あいつも心配してたぞ」
俺は、未酔夜の事や、河原で花火した事なんかを話した…。
「そういや、お前の伯父さん、医者なんだな」
「え?…誰が?」
と不思議そうに静が聞く。
「蓮とかいう…」
「…蓮さん?…蓮さんは、医者じゃなくて、画家だよ…美大の助教授…」
「なっ!!まじかっ!!…」
俺は驚いて、ワナワナと震える…
「…あの野郎~ペテン師めっ!」
「…蓮さん変わってるから…」
と申し訳なさそうに静がフォローする。
「あいつ、自分がここの病院の医者だって言ったんだぜっ!!くそ~人の事馬鹿にしやがって…」
俺が去った後、さぞ腹を抱えて笑っていたに違いない(怒)。
はっ!!…て事は…
丁度その時、コンコンと病室のドアが鳴った。
「楠木君、失礼するよ…おや?」
先生が病室に入るなり驚く。
もちろん、勝手に病室に入りこんだ事になってしまった俺を見て…
俺の額に縦線が入る。
先生は険しい顔を作って
「横田君…勝手に入っちゃいかんだろう…」と注意した
だが
「話はすんだかね?」とすぐ穏やかに言った。
「…?、先生…あの…俺、勝手に入ってすみません…」頭をさげて謝ると
先生は頷き、俺達に近づく。
「まぁ、良いでしょう。楠木君も落ち着いている様だし…君を怒らないでくれと、蓮さんが私に詫びていったので…何の事かと思いましたが…。」と苦笑する。
「…まったく彼は、いつも型破りで…振り回されるね…」
「…すみません…」と静が顔を赤らめる。
「でも、身近にああいう心の強い人がいるのは良い事です。ユーモアは大事ですから。ま、…やりすぎは良くありませんがね」
と先生が俺と静に向かって笑う。
「いつもあんな調子なのかよ…」
俺はなんとなくうんざりした。
あんな奴が親戚でしかも静の保護者で…大丈夫なんだろうか…
やはり、俺がしっかりせねばならないと改めて思う。
静の診察をしながら先生は、元気が戻ってきた静に
「楠木君の調子もだいぶ良さそうだし…これからは退院にむけて進んでいきましょう。ゆっくりで良いですから少しずつ準備しましょう。」と言った。
返事する静は嬉しそうだ。俺も嬉しい。
早く、良くなるといい…
退院したら、静を何処か楽しい所へ連れて行ってやりたい…
俺の気持ちも上向きで…どんどん色んな計画が頭の中に浮かんでくる。
今までの不安が一気に解消したみたいに
俺は目先の希望に胸を踊らせていた。