夢
「夢をみたよ…」
静は、目を瞑ったまま俺に語る。
「ユイに叱られちゃった…」
「なんて?」
俺は、静の手をしっかり握ったまま…問う。
「…いつまで泣いてるのって…」
「…。」
「…いつまでも泣くなって、叱られた。」
「そうか…」
「…てつの言う通りだった。…ユイは……怒ってなんかなかった…」
「ああ。」
俺は、手を伸ばし、静の柔らかな髪をなぜた。
「大好きだから…笑えって…言ってくれた。」
静の目じりが濡れはじめ、
それを隠そうと、静はバッと、布団を顔までかぶった。
「…もう泣かない…」
くぐもった声が布団から漏れる。顔を隠しても、手が震えてる…
「正直…まだ、怖い…僕のせいで…てつに何かあったら…ユイみたいに……って……でも、もう泣かない…」
俺は、その言葉を聞いて…ユイに感謝した。
(…ああ…静は…夢の中でやっと許された…自分を許す事ができたんだ…!!)
俺の目から、耐えきれなくなった涙がぽとりと落ちた。
…静が顔を隠していてくれて助かった。
声を殺して…気付かれないように…
でも、そのわずかな気配を静は感じた。
布団から少し顔を出すと…大きな手で顔を隠し…哲也が泣いている。
「…てつ…泣いているの?」
「…っ、ないてねぇ…」
意地っ張りな声で否定する…哲也。
「泣かないで…」
静が俺の手を握りかえす。
「泣いてねぇって…」
静はゆっくり起きて……哲也を抱き寄せた。
哲也はその行為に驚いたが…
でもこんなに、気持ちが落ち着く事は他にない…
体の力を抜いて静のぬくもりを感じた。
お互いを思い合う…慈しみに満ちた空気…
(…やっと静が帰ってきた…)
(…やっと俺を見つけた…)
俺はうれしくて…ただ嬉しくて…
母の胸に抱かれるように、静にじっと抱かれていた。
(…そういや…俺、静に接触禁止令でてたっけ…)
頭の中で理性が動いた…
(でも…俺が抱き寄せた訳じゃないし…)と目を反らす…
しかし、だんだん気まずくなってくる。
それに…なんていうか…
惚れてる立場からすると…あんまり密着してると…
男の事情が…色々ある訳で…
たぶん…顔も…尋常じゃないくらい…赤い…
俺はなけなしの理性を振り絞って…仕方なく…
「ほら、泣いてないっぜ」
と顔をあげて離れ、ニカッと笑った。
そんな俺につられて静もにっこり笑った。久々に見た笑顔だった。