光
俺は、蓮の急な態度に眉をしかめた。
(…何言ってんだ?…王子様って…???)
俺の胡散臭げな目線を受け止めて、蓮がくくっと笑った。
「まぁ、そんな顔するなって。ちょっと出ようぜ」
と妙に嬉しげなのが逆に不安だ。
ガチャッと扉を開けて出て行く。
俺は静が気になったが…眠っている様なので、仕方なく扉の外へ出た。
廊下をスタスタ歩いてロビーへ向かう蓮。
俺がついてくるのが解るみたいに、振り向きもしない。
(ったく…自分勝手な野郎だな…)
俺は険のある目でその後ろ姿を追った。
ロビーに着くと、蓮はどっしりとソファーに座った。
俺はなんとなく一緒に座るのが嫌だったので
離れて立った。
「そんなとこつっ立ってないで、こっちに来い」
と隣の席をボンボンと叩く。
俺はあからさまに嫌な顔をした。
「お前ね、目つき悪いよ。よく言われるだろ?」
蓮がニヤニヤしながら言う。
(…あんただって相当目つき悪い癖に…輪郭だけだ、静と似てんのはっ。)
俺は仕方なく、無言で、むすっと蓮の隣に座った。
よしよしと、蓮が頷く。
「ま、心配すんな。さっきのは静の心を落ち着かせる一時的な暗示みたいなもんだ。眠ったのは薬のせいさ。お前に森で会う前、静は薬飲んでたからな。睡眠薬も混ざってるから、眠いはずなのにあいつはぼ~っといつも起きてやがる。…誰かが来るのを待ってるみたいにな。」
と俺を見た。
俺はムッとして、
「あんたを待ってたって言いたいのかよ…」
と蓮を睨む。
蓮がひょいっと眉をあげた。
「馬鹿かお前。そんな事も言わなきゃなんないのか?…お前を待ってたに決まってるだろ。」
は~っと、溜息を吐きながらつまらなさそうに言った。
「…え?俺?」
顔がカッと赤くなる。(…嬉しい…かも…)
「抜けた奴だな。あんなに静がお前を心配してんのに…なんですぐ来てやらなかったんだよ」
今度はちょっと声が低めで、蓮は怒っているようだ。
「なんで…って…、俺、会うなって言われてたんだぜ?」
「言われても、会いにこいよ」
「んな…むちゃな事言うなよ…会わない方が静が辛くないって聞いたから…」
(…俺だってどんだけ会いたかったか…ずっと…静の傍に居たかった…)
(泊り込んでも、四六時中静の傍に居たかったんだ…)
会えないで、もし静が…生きる事に絶望して、天へいっちまったらどうしようと
何度も思って不安だった。
知らず知らず、想いは募って、ずっと焦ってた。
ぐっと膝の上の拳に力が入る。
「馬鹿なやつ…。お前に会えない方が辛いに決まってんだろ…」
とぼそっと蓮がつぶやく。
俺は頭がグルグル回るみたいに混乱した。なんんだ?こいつ…
(悪い奴ってわけじゃないのか?)
(森での発言は…俺を試したのか?)
(静は本当に俺を待っててくれたんだろうか…?)
「俺…静と話がしてぇ…」
心の底からの願望…
ふっと蓮が笑う。「静だって同じさ。行ってやれよ。」
(でも…医者の許可とらなくて良いのだろうか…でも、会いたい)
心が揺れる。
すぐに動きださない俺に蓮は
「黙ってたけど、俺、精神科医だぜ。ここは俺の病院。」
と地面を指した。
「えっ!!」
俺はのけ反った。…こんな変態が…いや…う~ん…
「失礼な奴だな…業界じゃけっこう有名なんだぜ?」
と蓮が笑う。
笑うと、目が和んで…静の面影を宿す。
「そ…そうなのか…あんたが医者だとは…思いもよらなかったぜ…」
顔が引きつる。
「ふん、試すのに自己紹介してからじゃ、本音が解らないからな。静は大事な甥っ子だ、そんじょそこらの奴に任せられねぇ。ま、お前は…ギリギリ合格かな。」
(…ぎり?)
俺の眉がぴくぴくと動く。
「あんた…性格悪すぎるぜ…」
「仕方ないだろ?俺は今まで静を守ってきたんだ。お前を試す権利くらいあるさ。」
と言うなり、立ちあがった。
「さ、静んとこ行けよ。友達なんだろ?」
…友達…その言葉が俺の心に重くのしかかる。
蓮は何もかも見透かした目で俺をみている。
一瞬…友達でなくてはいけないのかと、蓮に問いたくなったが…
そんな事まで、蓮に許可を取りたくなくて俺は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「あぁ。サンキュ、おっさん」
と俺はソファーから、立ちあがった。
「おっさん?…おいおい…」と文句を言う蓮の声を無視して俺は静の病室へ向かった。
…白い廊下の先に光が見えた気がした…。