不信感
…なんなんだ…この男は?
俺は、楠木連という男に対して不信感を抱いた。
連は、自信ありげに俺に向けた目をヒュっと細め笑みを作った。
「10年前も、静は俺に泣きついてきたよ。可愛かったなぁ。今回も同じさ。俺がいればいい。」
確かに、静は10年前の事件から立ちあがって…大学だって通ってた…
だけど…根本の所でずっと立ち止まってる。
「お前に…静は治せない…」
俺は、完全に敵意をこめて言い放った。
「10年前は…味方がいなかったんだ。お前に泣きつきたくて泣きついた訳じゃない。誰もいなかったんだ…傍に誰も…でも俺は静の友達だ。…静だって俺と友達になりたいと言ってくれた。だから俺は、絶対静をこのまま放っておいたりしない。」
「友達…ね」
連は不敵な笑みを浮かべたまま呟いた。
「友達は危険なんだよ…解らないの?それに静はこのままでいいんだ。」
「なんで、このままで良いなんて言うんだよ!良いわけないだろっ」
う~ん、と首をかしげて連は
「だって、フルーツでも肉でも腐りかけが一番美味しいって言うじゃない。」
なんて信じられない事を口にした。
「な…」
俺は連の思考が理解できなくて言葉を失った。
「静は今、一番可愛い。ずっとこのままでいればいいんだ。だから君、邪魔なんだよ。」
連の暗いほほ笑みは…俺の心を一瞬で冷やした。
「何言ってんだよ…お前…」
何考えてんだ…静がこのままで良いなんて…そんなの…良いわけない…
「お前…おかしいよ…良いわけないだろ…」
冷や汗が俺の背中を伝う。
「なんにせよ、静は俺を選ぶさ。」
と連は、俺の肩をポンと叩き、病院へ向かい歩きだす。
「待てよ、まだ話終わってないだろっ」
俺は連の腕をギュっとつかんだ。
だが、パンっと、連に払いのけられる。
「そんなに言うなら…静に合わせてあげるよ。ついておいで…」
と歩きだした。
俺は内心のモヤモヤの行き場を無くし…ギリッと歯ぎしりした。
(なんなんだ…こいつ…こんな奴に静を任せてなんておけねぇ…)
眼光鋭く、哲也は連を睨みつける。
そして病院へ入って行く連の後に続いた。