心
酔っ払った中西を控室に運び、俺は未酔夜を後にした。
もう夜中だ。腕時計を見ると11時が過ぎていた。
だがまだ終電には間に合う。
俺は火照った頭を冷やす為ゆっくりと駅に向かって歩きはじめた。
(…中西の奴もなんかいろいろあるんだな…)
(ノー天気で何にも考えてないみたいに思ってたけど…そういや…最初から静を随分気にしてたもんな…
ちゃらいけど…良い奴だよ、あいつは…)
そこでまた、中西の言葉がぽっと頭に浮かび
俺の頭から首筋まで火照りが降りて来て…体がカッカしてきた。
(…夜中で良かった)と、ホッと溜息をはく。
(なんか…無性に静に会いたい…あって…ムギュ~っと抱きしめてぇ…かも……俺って変態…)
「あ”~~っ」と片手で頭を掻き毟る。
そんな事より…静の不安をなんとかしないと…
(…あのくそ野郎をぼこり倒して、静の前で土下座させてぇ……まぁ…もう逮捕されたのだから…何らかの法的社会的罰は受けるだろうが…)
それにしても…なんで日本にハムラビ法典がないんだ…とムカムカする。
あいつも同じめにあえば、ちったぁ、人の痛みが解るのに…
俺が神なら倍返しだ…
はぁ…とまた溜息。
(…でもきっと…あいつをボコボコにしても…)
(…静の深い心の傷はなおらない…)
好きだった奴を自分の過失で失って…ずっとずっと自分を責めて生きてきた…
せっかく…前を向いて立ちあがった時だったのに…
あいつは、また自分を責める…
ずたぼろの魂で…いつまでも闇に囚われる。
「どおすりゃ良いんだよ…」
俺は…どうすれば…
消化しきれない怒りと不安と戸惑いが…俺の腹の中でゴチャゴチャ揺れ動く。
俺は暗い夜道…駅の明りを目指して足早に歩き出した。