愛とは
目の前でくた~っと、力なく机の上に崩れる中西。
俺は「愛」なんて言葉が、こいつの口から出ると思ってなかったもんだから…
その響きに動揺した。
「…おい、寝るなよ…っ」
一応、言ってはみるが…中西は動かない。
(…人に、こんな意味深な言葉はいといて…こいつは…)
と、軽く睨みつけ…残ってるジュースをちびっと飲んだ。
…愛…ね…、確かに静に対する感情は…こいつに対するような気持ちとは違う。
違うが…「愛」とかそんな名前がしっくりくるものでもない…と思う…
そもそも…俺の中で静の位置づけが…男なのか、女なのか…
なんか性別なんかどうでも良くって…深く考えてなかった。
静は自分が男だと云うけど…どうも俺は…
静が男とも思えない…ような…
かといって、女かと言われると…それもなんか違う。
(…性別なんか…別にどうでもいい事なのか…?)
でも、中西にそんな戸惑いは浮かばない…
ま、中西は男だもんな…考える必要がないもんな…
あれ?…俺、静を抱きしめたりしても…気持ち悪いとか思わないし…
て、ことは…静を女だと思ってんのかな…?
「う~ん…解らん」
俺は頭を抱えた。
そもそも俺の気持ちに名前つける必要ないし…
でも、はっきりしてるのは…
静とこのまま別れるなんて考えるのも嫌ってことで…
…静にあえなくなるのは嫌ってことで…
あえなくなるのが嫌って事は…逢いたいってことか…
確かに逢いたいし…逢ってると楽しいし…静を…可愛いと思うし…あれ?
(俺は…静を…好きなんだろうか………)
好きって…ど…どおいう…え?
あれ?…おれ…
顔が急激に赤くなる…なんだか手が震えてきた。
震える手をコブシにしてみても…止まらない…
段々、動悸が激しくなってきて……
「あら、昌ちゃん、寝ちゃったの?」
ビクッ!!!!!!!
俺はあまりの驚きに、全身雷に打たれたみたいに、ビビッと体を揺らした。
「…あ、ごめんなさい…驚かせちゃったかしら…」
申し訳なさそうに、店長さんが謝る。
「い…いえ…ちょっと考え事をしてたので…」
心臓がバクバクいってる…なんか一瞬にして冷や汗かいた。
店長さんは部屋に入ってきて
「昌ちゃん、起きて」と中西の体をゆすった。
中西は、う~んと答えただけで眠ってしまっている。
「困った子ね…まったく。」
と、俺に向かって笑った。
「仕方ないから、後で車で送るわ。君、悪いんだけど…昌ちゃんを控室に運ぶの手伝ってくれない?」
と俺をみて言った。
「え…置いてって良いんですか?俺、無理やり起こして連れて帰りますよ…」
そう言う俺に、店長さんは首を横に振った。
「いいの。この子ね、昔、眠れなくてね…大変だったの。だから、こんなに良く寝てると…なんだか寝てる所起こすのが可愛そうになっちゃった。」
と我が子をみるような慈しみ深い目で中西をみた。
俺は…なんとなく…そのやり取りを見てはいけないように思って…
視線を落とした。