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白い彼岸花  作者: ばるる
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あいつ

あの奇妙な出会いから、数か月俺は希望大学に無事受かることができた。神様はやっぱり俺が良いことをしたと判断したに違いない。あれは人助けだったはずだ。命を救ったのだから、良いことに違いない。

しかし何故か夜な夜な、あいつが夢に出てきて俺を殺しそうな目で睨み付ける悪夢にうなされる日が続き、合格発表の日まで寝不足に陥るはめとなったが、晴れて合格すると

あんなセンター試験の日も、まぁ良いではないかと気楽な気分になってくるから不思議なもので、あれも、青春の1ページと思えば、悪夢もみなくなった。


4月になり、入学式のため大学講堂へ。俺はあんまり目が良くない。本を読むからな。目が良くないが、講堂の最前列にいるあいつを見つけちまった(汗)。


「ひぃっ…同じ大学っ!?」俺は身震いをした。


まさか、学部は違うだろ?嫌な汗がスーツの中に流れる。

入学式典が始まり、校歌やら学園長の挨拶やらが続き、生徒代表の挨拶。教頭が高らかに声を張り上げ、生徒代表の名前を読んだ。


「代表、楠木静くすのき しず


すると呼ばれあいつが「はい」と立ち上がり壇上へ。幾分、小さなどよめきが起こる。中には、「おい、あいつ」なんて声も。

俺はスーツの中がもはやずぶ濡れなくらい冷や汗をかいていた。


(め…メガネをかけて来て良かった)


幸い、あいつの強烈なインパクトのお陰で、俺を覚えているやつはいなさそうだ。

汗をかきつつ、あいつに目が吸い寄せられる。


しずなんて、男なのか、女なのか解らない名前だ。

なんだってもっと解りやすい名前を親は付けないんだ。あいつの親は~沸々と怒りが沸く。


俺なんて哲也なんて男らしい名前ついてんだぞ。

あいつが、圭介とか友三とかもっと解りやすい名前だったら、こんなにも動揺しない。男だったんだなと納得して終れたのに。俺はあの日、メガネかけてなかったし、きっとアレがないのは、見間違いだったんだなと、処理できたのに。


「くそっ」小さくうめく。


(静なんてどっちつかずの名前大っ嫌いだ)


式典がつつがなく終わり、俺は今すぐ帰りたい気持ちで一杯だったが、指定学部の教室へいかねばならない。今後の授業選択の説明を聞く必要が有るからだ。



とりあえず、庭にでて一服。煙草をふかす。

スポーツマンな俺だけど、煙草くらいはたしなむ。隠れモクだけどね。悪い事なんか何もないみたいな、青空を見上げながら、俺の吐く白い雲がたなびく。あの時は寒くて白い息さえ怨めしく思ったが。


「煙草なんか吸うなよ」


といきなり、横から怒鳴られ、煙草を奪い取られた。

むっとして、顔をむけると、楠木 静様が、あの可愛らしい大きなお目めで、俺を見上げ睨んでいた。


「げっ」


俺は、一歩、いや二歩退いた。その分、ずいっと近寄る静。


「……何か……ご用でしょっか…?」


と妙な言葉遣いをしちまった。これでは召し使いみたいだ。静は俺の言葉など鼻から気にしてない風で、ずいっと俺に向かって封筒を差し出した。


「これ」


と静は、早く受け取れと言わんばかりに、その封筒を俺の手に無理矢理掴ませた。


「え!?」


何の封筒だろうと恐る恐る中身をみると、1万円札が入っている(つ、つまり俺って、ばれて……る???)


「な、なんだろ?このお金は?」

っとワザとらしく、問うてみた。


「要らないのかよ」

むすっとしたまま静が言った。


「え?い、いる……かな」

恐る恐る、俺は万札を受け取った。


受け取ると、静はプイっと俺が入る教室へ入って行った。


「うげぇ」学部も同じかよ。


(メガネ、意味ねぇじゃん。)


物凄い脱力感が一気に襲いかかる。(あぁ帰りたい。)



仕方なく俺は、あいつの入って行った教室の扉を開け、なるべくあいつと離れて座った。

しばらくして、随分よぼよぼ、もとい、お年を召した教授が入ってきた。


「え~皆さま、今日はご入学おめでとうございます。私は経済学部学部長の長沼です。え~これから、皆さまは当大学の大学生となり学園生活を送る訳ですが……」


長沼教授の話も上の空。俺は非常に窮地にたっていた。

隣の席の奴が


「ねぇ、君、センター試験の日、あいつ助けた奴じゃない?」


なんて小声で話しかけてきたから!!。









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