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白い彼岸花  作者: ばるる
19/42

未酔夜

中西は、良い所があると、俺を「未酔夜ーMISUIYAー」という洋風居酒屋に連れてきた。

お洒落な、落ち着いた雰囲気のある店だった。

扉を開けると、店長らしき女性が一人いた、中西を見つけ


「あら、昌ちゃん…もう二十歳になったの?」とニッコリ笑った。


中西は少し照れた風で


「うん。だから追い出さないでね、美樹さん」と言った。


(…知り合いの店?)


しょうがなさそうに、女性は笑った。

綺麗な人だ。長い髪は艶やかで、優しげな憂いを含んだ顔をしている。


「お友達も、未成年じゃない?」


俺にいきなり話が振られたので、どぎまぎした。


「え…あ…」俺はとっさに上手い嘘なんかつけない。


口ごもる俺に、女性は


「あ、まだ未成年だな?いけないぞ…」とめって顔をした。


「じゃ、こいつ酒のまないからさ…ね?」


すかさず、中西が手を合わす。


「絶対よ。責任の持てない子供にお酒はださない主義よ」


と女性は念を押す。


「は~い。絶対です。ここしかないんだ…追い出さないでよ。」


中西が頼み込む。


「いいわ。信じる。じゃ奥の部屋へどうぞ。」


そう言って、部屋を指し示す。


「やった。よし、行こう!」とまるで冒険を始めるみたいに


中西は俺を引っ張った。




奥の部屋は、こじんまりとしているが、照明など凝った造りで、

なにより壁に描かれた夜桜の絵が独特の雰囲気を醸し出している。

焦げ茶の木目、品の良いテーブルとイス。

まるで…花見に来たみたいだ。


「良いだろ、ここ」


中西は自分の秘密基地をこっそり紹介している子供みたいに得意げだ。


「なに?知り合いの店なのか?」


「うん。兄貴の友達なんだあの人。綺麗だろ」


と言って、椅子に座った。


「へ~お前、兄貴いたんだ?」


「うん。…もう居ないけどね。死んじゃったから。」


「…。」


俺は、さらっと言った中西の言葉に動きを止めた。


「え?」


「ま、俺の兄貴の話は置いといて、今日は静ちゃんの話でしょ?」と


中西が流す。


「う…」


(…何でこいつ…まぁ…そうだけどさ…)


そこへ、さっきの女性が御水と、お手ふきを持って来た。


コトリと、机の上に置く。

浅黄色の綺麗なガラスに透明の水がゆれた。


「ご注文はこちらのメニューで。」と、黒い手書きのメニュー表を差し出す。


「あ、はい。」と俺は受け取った。


女性はにこりと笑って


「昌ちゃんの、大学の友達?」


「そうです。」


「そっか…。昌ちゃんちゃんと勉強してる?」


「え…」


内心焦った…真実を伝えたらまずいだろう…


「も~美樹さん。してるって。俺、成績良いの知ってるでしょ」


中西が割って入る。


「成績が良くても、実にならなきゃ意味ないのよ…」と優しく言う。


なんだか、ついこないだ単位争奪戦をしてた自分には耳が痛い。


「…やらされて勉強してるようじゃ駄目よ。自ら知を欲してね…君も」


と俺達の頭にぽんと手をおいて、ぐりぐりとなぜた。

完全に子供扱いだ…


「じゃ、こっちがノンアルコール。決まったら昌ちゃんが自分で取りにきてね」


と出て行った。



メニューを見て、中西が「決まったか?」と聞いた。


「ん~ノンアルコールだからなぁ…カシスコーラにすっかな」と言うと


「持ってくるから、待ってて」と席を立った。



しばらくぼ~っと壁の、夜桜を見ていた。

店内はジャズのような音楽が小さくかかっている。

外国みたいで、日本ぽく、現実みたいで、異世界みたいな…不思議な店だ。


中西がお盆に何かいっぱい乗せて帰ってきた。


「なんだ?そんなに?」


美味しそうなオムライスに、焼きそば、お菓子…


「うん、美樹ちゃんのおごりだって。ほい、カシスコーラ」


と、俺に渡した。


「なんか…わりぃな…」


「大丈夫、大人になったら御贔屓にしてねだってさ。青田買いってやつ?」


ふふっと笑う。


「あ~。あんな美人に買ってもらえるなら光栄だぜ」


とコーラを口に含んだ。



中西は銅のマグカップに入ったモスコミュールを飲んでいる。


「俺さ、将来バーテンになりたいんよ」真剣な目をしていた。


「へ~ここで?」


「もち。でも、ここに連れて来たのお前が初めてよ。光栄に思いたまえ」


と偉そうに笑う。


「へ~、へ~。じゃ、いつか静も連れて来ていいか?」


「静ちゃんならいいよ~美人は大歓迎」


とカップを高く上げ乾杯のしぐさをした。



俺達は、大いに飲み、喰い…

そして俺は、中西に静の置かれた状況を話始めた。


中西はけっこう、色々飲んでたのでちょっと…かなり酔ってはいた。


「いつの間にか静ちゃんと仲良くなってたからさ~、良い傾向と思って見守ってたのよ~俺は~陰ながらさ~。」


「なんで陰に隠れんだよ…」


「ん~~なんて言うかなぁ…迂闊に近づくくらいなら、近づかないほうがいい…って言うか~」


「あぁ?」


中西はグルグルと目の前のカクテルをこねまわす。


「ん~目の前の泥濘から引っ張り出せる力が俺にはないからなぁ…俺もおれで精いっぱいでさ~でさ~お前みたいなのが、グイっと行くのを待ってたんよ~」


「はぁ?」


酔った中西はグダグダと


「だからぁ、お前は凄いって言ってんだよ~。だからさ~ずっと静ちゃんのそばに~居るべきなんだよ~お前~覚悟なんか~言葉なんか~迷うな~」



言いたい事は解るような…解らないような…


「いや、でも…医者が来るなっつうし…」


「来るなって、言ったんじゃないでしょ~覚悟があんんのかって事でしょ~」


「なんだよ、お前今覚悟なんかって言ったじゃねぇか」


「言った、わりぃ…違うんだよ~そうじゃなくてだな~、あれ、なんだっけ…」



は~っと俺は溜息をついた。


そうして、眠りそうになりながら、中西が言った言葉に俺はドキッとした。




「だから~大事なのは…お前が静ちゃんを…この先も…ずっと…愛していけるかって…」




…愛?だって?










































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