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白い彼岸花  作者: ばるる
18/42

白い花


静が、眠りについた後、先生は


「君…ちょっといいかな?」


誰も居ないロビーへ、俺を連れてきた。自販機と、窓際にソファーがある。


「コーヒーでも飲むかな?」


「…いえ…」


そうか、と残念そうに呟いてソファーに俺をうながした。

ギュムゥ~と音がして、俺達はソファーに沈むように座った。


「楠木君は…過去にトラウマがあるみたいだね…今回の事件で…触発されたんだろう…」


俺は知っている…静がどんなに過去に囚われて生きてきたか…

俺は暗く「…はい」と返事した。



先生は少し、考えた後…


「君は、しばらく…来ない方がいい」と信じられない事を言った。


「なんで!?あんな静をほっとける訳ないっ…」


ぎょっとして、俺は先生に喰ってかかった。


「その想いが…逆に負担になる場合もあるのだよ…。」と先生は困ったように、


「精神科の先生の意見を聞かねばならんが…おそらく、今のあの子にとって…君と恐怖が重なって見えてしまっているんだ。…君がそばに行くと…きっと苦しみは増すだろう…」と言った。


俺は、固まった。思考がフリーズした。

ショックだった。


「…そんな…なんで…」俺はギリッと歯を噛みしめた。


先生はそんな俺を見つめ…


「君はまだ…彼を背負う覚悟はないだろう…まだ学生だ…これからの事は……親御さんと相談して決めさせてもらう。」


「親って!?静がこんな目にあっても来ないやつに…っ。」


「君には…辛い思いをさせるが…解ってくれないか。」


「…っ。」


静の為だと言われれば…俺は、身を引くしかない。(でも…納得いかねぇ…。)


「とにかく、今日は帰りなさい。また後日経過を連絡するから…」


「経過なんか…」


(そんな…静を…観察動物みたいに…外から見てろって言うのかよ…)


ぐっと口を引き結んだまま…黙る。



「…人生に無駄はない…きっと楠木君も…乗り越えられる日がくる君も、信じて努力しなさい…我慢もいつか実を結ぶ。」


先生はそう言って俺の肩に手を置いた。

俺は立ちあがり、先生に、礼をしてその場を逃げるように立ち去った。



病院からの帰り道…俺は、静と初めて出会った川べりの道へ行ってみたくなった。

駅の反対側だ。

秋の夜は長くて寒い…歩きながら、ダウンジャケットの襟を重ね合わせる。


「さみぃ…なんか…急に冷えてきたな…」


ついこないだまで夏だったのに…。

繁華街を抜け、家々もだんだん少なくなって…

盛り上がった堤の上の川沿いの道に出ると、


そこには…

月光に照らされた、幻想的な…赤い赤い彼岸花群…が広がっていた。


思わず息をのむ。


「あ…そっか…こないだ来た時は冬だったから…」


呆然と、その赤の世界を眺めていると…

端の方に、一本だけ、白い彼岸花が、ユラユラと風に揺れて咲いているのに気付いた。


「白…?珍しいな…」


…俺はその白い花に近づいた。

風にすぐ倒されてしまいそうな、細いひょろっとした茎…その上に大きな頭でっかちの華。


それにもかかわらず…

白い彼岸花は、月光の下、物言わず凛と立っていた。



その姿を見て…


「…なんか、あいつみてぇ…。」とプッと笑った。


そばにしゃがみ、白い花に手を差し伸べる。


「馬鹿だなお前…ひとりぽっちで、こんな端っこで…皆に…迷惑かかると…思ってんのか…」


…ぽとり…と一滴、涙が落ちた。



俺は、不覚にも花をみて泣いてしまうなんて…

まるで思春期の子供みたい…で…恥ずかしく…

だが…溢れる涙を手で覆っても…口から嗚咽が漏れて…


「くっ…そっ…」と意地を張っても…止められなかった…。


(…なんで静ばっかり、辛い目にあうんだ…なんで俺は役に立てないんだ…)


(なんで…なんで…こんなに…あいつに笑ってて欲しいんだ…)




俺は焼けになって、携帯を取り出し中西に電話をかけた。


「中西っ、今すぐ、静っと会った川に、花火もってこいっ。」


「えっ!てっちゃん?…ちょ…」


中西が電話にでて何か言う前に、言いたい事を言ってブチっと一方的に切った。

俺は…白い花の横でうずくまって…川の水が流れる音と、虫の音と、風の音を聞いていた。



小一時間くらいしてから…ガシャガシャとビニール袋のすれる音と、ジャリジャリと砂を踏む足音が近づいてきた。


「お~い、てっちゃん~、どこに居るんだ~」


と大声で近づいてくる中西。懐中電灯の光がグルグルと川べりをてらす。

俺は立ちあがり


「ここだよっ!」と手を振った。


中西が駆け寄ってきた。


「も~なによ~、びっくりするでしょ~」


と、ビニール袋を手渡す。


「お~サンキュ」


俺は袋の中から花火を取りだす。

中西は、ちろりと、おれのそばの白い彼岸花を見た。


「なに~こんな秋に花火すんの?…スーパーにもう一個しか売ってなかったよ」


俺は、ビリビリと袋を破り、中の花火を取りだす。


「急にやりたくなったんだよ。ん」


と中西に手渡す。


「急にってさぁ~」


眉をひそめながら、ライターで火をつける。

パチパチと、花火が弾け、吹き出す炎は、青、黄、赤色と色を変える。


俺はワザと白い彼岸花の横で、花火を点けた。

白い花の花びらは、炎の色に染まって、青、黄、そして…赤になった。



「白って…綺麗だね…どんな色にも染まる…」中西がぼそっと言った。


「あぁ…。一番綺麗な色な」



(…そうさ、静だってこの先どんどん変わる…変われる大丈夫だ。)



「よし!飲みにいこうぜ」と俺は、中西の肩に手を回した。


「え~っ!なんだかなぁ…よしっ!飲むべ」


俺達は終わった花火をかき集め、ビニール袋につっこみ、それを持って、

肩を組んで繁華街へ向かってゆらゆら歩いて行った。


















































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