闇
二人っきりになり、改めて静を目の前にすると、
俺はこみ上げる怒りをどうしていいか解らなかった。
「静…ごめんな…怖かっただろう…」
俺は、アイツが危険だって解ってたのに…。
うつむく哲也に、静は動揺する。
(そんな…てつが気に病む必要なんてどこにもない…)
「…てつ…、てつは何にも悪くない…、本当に…僕、本当にてつに感謝してるんだ。僕なんかを…いつも…助けてくれる…」
口を動かすと、頬や喉が痛いが…静は必死で哲也に訴えた。
「こうやって、今ここに…こうして居てくれるだけで…どれだけ救われてるか…本当に…てつは謝る必要なんか…何処にもない…むしろ…」
言いながら、静は青ざめた。
「てつが来なくて良かった…もし…アイツが…哲に何か…したら…僕は…」
ガタガタと身体が震えだす
(…怖い…)
(哲が傷つくのが怖い…アイツがまた来て哲に何かしたら…どうしよう…)
ガタガタと震える静、哲也は静の手をとった…震えが止まらない。
「静…、俺は大丈夫だ、信じろ。あんな奴に負けねぇ。絶対、大丈夫だぜ…な、安心しろ」
ぶんぶんと首を振る、静。
(…そんなの、解らない。アイツが包丁もって来たり、急に飛び出てくるかもしれない…)
(安心なんかできない…僕を刺してくれるならいい…でも…哲が…もしも…)
ユイみたいに…シンデシマッタラ…
不安が不安を呼んで恐怖になる。静は暗闇に落ちて行くような感覚に襲われた。
「怖い…てつ…アイツが来たら、どうしようっ!!…怖い…」
涙があふれ出る。
(神様、どうかお願いします…哲を護って…何でもする…何でもするから…)
「しずっ、しっかりしろ!!大丈夫だっ…俺が守るからっ!!」
俺は、急に号泣しだした静を必死でなだめた。
静はワンワン泣き続ける…「怖い…嫌だ…ユイ…てつ…」
「どうしたんですかっ!?」看護婦が、駆け付けた。
「楠木さんっ、大丈夫ですよ…ここは病院ですよっ!」
誰の声も聞こえない…静は深い闇に落ちてしまっていた。
「先生、至急来てください。患者さんが興奮されてます」無線で連絡をとる。
バタバタと数名が駆け付け
静の腕に鎮静剤が打たれる。静は次第に力をなくし…深い眠りについた。