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|蹂躙《じゅうりん》の夜

【武装の再構築】

那古野(なごや)城に夜が降り、静寂が部屋を支配する。

昼の広間(ひろま)で信長に投げつけられた「持ち物」という言葉。その際に覚えた(わず)かな硬直を、帰蝶(きちょう)は暗闇の中で必死に「一時的な戸惑い」へと塗り替えていた。


(……落ち着け。不意を突かれ、少しばかり言葉を失ったに過ぎぬ)


震えそうになる指先で、懐中(かいちゅう)の短刀を強く握りしめる。冷たい鉄の感触は、彼女を「美濃の刺客」という本来の役割に引き戻してくれる唯一の楔だった。


(私は、完成された傑作。この程度の城、私に扱えぬ道理はない。あの男の無作法も、底の浅い威圧も、すべては私の知略という網で絡め取って見せる)

そう自分に言い聞かせ、自らの優越を再確認し、心を落ち着ける。

そうしてから、帰蝶(きちょう)は暗闇の中で、明日の朝にはいかなる言葉を投げ、いかにしてあの男の懐に入り込むか。自らを奮い立たせるための策を、幾重にも練り上げていた。


だが、その策謀は、音もなく開かれた(ふすま)の音によって無残に断ち切られた。


【不測の侵入】

そこには、灯りも持たず、寝巻(ねまき)一つを無造作に羽織っただけの信長が立っていた。

昼の広間(ひろま)での強烈な「重圧」が、夜の闇によってさらに密度を増し、物理的な暴力となって部屋の中に溢れ出す。


「お、織田殿。夜分に何のご用でしょう。まだ、婚礼(こんれい)の儀も――」


帰蝶(きちょう)は咄嗟に立ち上がり、磨き抜いた所作と理知的な拒絶の壁を築こうとした。

だが、信長はその言葉を、羽虫の羽音でも聞くかのように一顧だにしない。


「言ったはずだ。お前は私の持ち物だと」


信長の歩みには迷いがない。

詰め寄られるたび、帰蝶(きちょう)が先ほどまで必死に整えていた「知略」という名の武装が、紙細工のように無力化されていく。


彼女は反射的に短刀に手をかけようとしたが、その手首は、信長の鋼のような指によって、呼吸をするのと同じほど自然に、かつ無造作に押さえつけられた。


「……あ」


抵抗の隙すら与えられない、圧倒的な力。

信長は、帰蝶(きちょう)の目に宿る殺意と拒絶の色を見逃さなかった。いや、彼はそれを、獲物が放つ心地よい刺激として、楽しむかのように薄く笑った。


蹂躙(じゅうりん)される身体】

畳の上に押し伏せられた瞬間、帰蝶(きちょう)の視界は激しく揺れ、信長の重みだけが全身を支配した。


「やめ……離しなさい、不届きな……っ!」


その喉から漏れる言葉さえ、信長は求めることはなかった。

彼は、帰蝶(きちょう)の絹の装束(しょうぞく)を、自らの獲物の皮を剥ぐかのように、無慈悲に、かつ愉しげに暴いていく。

そこに愛撫のような温もりはない。ただ、手に入れたばかりの新しい「道具」を、自分の好き勝手に検分し、使い倒すという残酷な悦びだけがあった。


抗うために伸ばした帰蝶(きちょう)の爪が、信長の背を強く掻く。

だが、信長はその痛みすら愉悦の糧にするかのように、さらに深く、容赦なく彼女の肉体を蹂躙(じゅうりん)した。

押し付けられた胸の厚み、彼女の細い腰を容易に折らんとする腕の膂力。

自分がどれほど知性を磨こうとも、どれほど高貴に振る舞おうとも、この男の前では、ただの「柔らかい肉」としてしか扱われない。


信長は、帰蝶(きちょう)の目に浮かぶ屈辱の涙を、自らの支配を証明する最良の恩賞(おんしょう)であるかのように眺めていた。

彼女が声を殺し、必死に保とうとする最後の自尊心を、彼はわざとらしく、執拗に、時間をかけて踏みにじっていく。

その指先、その口唇が触れるたび、帰蝶(きちょう)の身体は本能的な恐怖に戦慄し、絶望的な敗北感を肉へと直接刻み込まれていく。


(……やめろ、触れるな! 私は美濃の、斎藤道三が娘。貴様のような粗野な男が、その無礼な手で触れて良い器ではない!)


心は叫び、呪詛を吐き、信長の喉元を食いちぎる方法を必死に探る。

しかし、肉体は無残に裏切り、信長が一方的に与える激しい熱と重圧に翻弄されていく。

信長という圧倒的な「個」の支配が、彼女の皮膚から、筋肉から、骨へと染み込み、強制的に彼女の存在を「信長の所有物」へと書き換えていく。


それは、一人の人間としての輪郭を、暴力的な愉悦によって徹底的に解体される、終わりのない夜であった。


【刻印された屈辱】

夜が明ける頃、信長は一度も言葉を交わすことなく、嵐が去るように部屋を出ていった。

その去り際、彼はまだ息を乱している帰蝶(きちょう)を一度だけ振り返り、満足げな、底冷えのする笑みを残していった。


一人取り残された帰蝶(きちょう)は、乱れた装束のまま、動くこともできずに板の間に横たわっていた。

全身の節々に、信長の力によって強引にこじ開けられた痛みが残り、肌の至る所に、彼が自分の「物」であることを記した手の跡が、醜く赤く残っている。


「……殺してやる」


唇を噛み切り、血を滲ませながら、|帰蝶《きちょう】は独り言ちた。

心はまだ屈していない。殺意はさらに鋭く研ぎ澄まされている。


しかし。

(わず)かに震える指先で、自らの喉元に触れたとき。

そこには、昨夜までになかった「所有の感触」が、脈動とともに深く食い込んでいた。

どれほど知略で立ち回ろうとしても、どれほど殺意を燃やそうとしても、彼女の身体は、あの男の支配に、どうしようもなく反応することを覚えてしまった。


那古野(なごや)城の冷え切った闇の中で、帰蝶(きちょう)は、自らを定義していた高貴な自負が、一人の男の所有物という泥濘に引きずり込まれ、一歩ずつ心が削り取られていく底なしの屈辱に、ただ戦慄せざるを得なかった。

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