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第12話 最後のきらめき

風が、止まった。

雪も、霧も、灯台の光さえも、すべてが一瞬だけ静止した。

町は白く、冷たく、しかしどこか柔らかい静寂に包まれている。

雪乃は一人、川沿いに立っていた。

胸の奥の灯は、いまや小さな光ではない。

町全体の呼吸と重なるように、静かに脈打っている。

対岸に、黒いコートの青年が立つ。

有馬は雪乃の少し後ろにいる。

川面には、第8話で見た白い影が揺れていた。

だが今度は敵でも試練でもない——ただ、待っている存在だった。

雪乃はゆっくりと目を閉じる。

頭の中に、ガラスの少女の声がよみがえる。

「守りたいだけだった」

雪乃は小さく息を吸った。

そして、はっきりと言葉にした。

「あなたは間違っていない。

 でも——あなた一人で背負わなくていい」

その瞬間、胸の灯が大きく広がった。

白い光が雪乃の体から溢れ、川へ、町へ、空へと伸びていく。

それは支配ではなく、分かち合いだった。

川面の影が、静かに微笑むように揺れた。

雪が、ふわりと舞い始める。

しかし今度の雪は、冷たくない。

降り積もって世界を縛る雪でもない。

軽く、やさしく、触れれば消える——きらめきの雪だった。

青年が小さく息を吐く。

「……選んだんだね」

雪乃は頷いた。

「止めない。でも、閉じ込めもしない。

 きらめきは——流れていい」

町の雪がゆっくりと溶け始める。

だが消えるのではなく、水となって川へ帰っていく。

灯台の光がやわらかくなる。

遠くで、誰かが窓を開ける音がした。

子どもの笑い声が混じる。

町が、再び動き出した。

そのとき、ガラス工房の方角から淡い光が立ち上った。

割れたガラスの少女が、空へ溶けるように昇っていく。

雪乃はそっと手を伸ばした。

指先に、ほんの一瞬だけ温もりが触れた気がした。

少女は空へ消え、代わりに小さな光の粒が雪乃の掌に落ちる。

それは消えず、静かに輝いた。

有馬が歩み寄る。

「終わったのかな」

雪乃は首を振る。

「終わりじゃない。

 冬が、変わっただけ」

対岸の青年は静かに背を向ける。

振り返らず、雪の中へ溶けるように去っていった。

川は音を取り戻し、風が頬を撫でる。

街灯の下で、雪がきらめく。

雪乃は空を見上げた。

灰色ではない。

白でもない。

淡い銀色の冬空だった。

胸の奥の灯は、もう暴れない。

町と一緒に静かに呼吸している。

雪乃は小さく笑った。

「きらめきは、なくならない。

 見えなくなるだけなんだ」

雪が降る。

きらめきが舞う。

川が流れる。

冬は終わらない。

だが——重くもならない。

静かに、巡っていく。

そしてその夜、町にはほんの少しだけ雪が積もった。

翌朝には溶けて消えたけれど、誰もそれを悲しまなかった。

なぜなら——

人々は、初めて気づいたからだ。

きらめきは、降るものではなく、見つけるものだと。

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