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MMORPG異世界勇者たちの伝説  作者: アラベ幻灯


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8/8

この商人は勇者ではないが、勇者と同じくらい危険な人物かもしれない。

これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

その男は、剣を握らなかった。


最初から、握るつもりもなかった。


名は、蓮司れんじ。


痩せた身体。

血の気の薄い顔。

呼吸は浅く、長く走ることもできない。


生まれつき、身体が弱かった。


運に左右される人生だった。

体調ひとつで、すべてが崩れる。

努力ではどうにもならない領域が、常に彼の上にあった。


だからこそ、彼は願った。


――支配したい。


運ではなく。

偶然ではなく。


確実に。


自分の手で。


金で。


(現実を、買う)


それが、彼の答えだった。


――


新日本の成立後。


混乱の中で、多くの者が剣を取った。

ある者は戦場へ。

ある者は指揮へ。


だが蓮司は、別の場所に立っていた。


市場。


最初は、小さな取引だった。


魚をまとめて買う。

余剰の小麦を引き取る。

牛乳を保存し、別の形に変えて売る。


ただ、それだけ。


だが彼は、やめなかった。


集める。

管理する。

再配分する。


繰り返す。


やがて、人々は気づく。


「蓮司を通したほうが、安定する」


直接やり取りするよりも、

彼を経由したほうが、確実に手に入る。


食料。


それは、最も原始的で、最も絶対的な資源。


それを握るということは――


人を握るということだった。


気づいた時には、遅かった。


食料は、彼を通らなければ流れなくなっていた。


誰も宣言していない。

誰も命じていない。


だが、事実として。


蓮司は、新日本の食を支配していた。


(ようやく、基盤ができた)


彼は静かに思う。


だが、それだけでは足りない。


供給は、まだ不安定だった。


漁は天候に左右される。

作物は環境に左右される。


完全ではない。


完全でなければ、意味がない。


ある日、彼は耳にする。


空っぽ国々。


新日本と栄光の日本の間に広がる、あの奇妙な地帯。


「何もない」と言われる場所。


だが――


境界付近の土地は、異様に肥沃だった。


理由は分からない。

誰も深く調べていない。


だが、確かに作物は育つ。


(あそこだ)


蓮司は理解する。


あの土地を押さえれば――


供給は安定する。

輸送は短縮される。

生産は拡大する。


そして。


(市場は、完全になる)


自給自足。


依存しない経済。


それはつまり――


外部に揺らがない支配。


(帝国になる)


彼は、静かに決断した。


――


数日後。


新日本の広場。


人々が集められる。


理由は単純だった。


「蓮司が話す」


それだけで、十分だった。


壇上に立つ。


風が吹く。


彼は、ゆっくりと口を開いた。


「諸君」


声は静かだが、確実に届く。


「我々は、自由を求めてここに立っている」


頷きが広がる。


「だが、問おう」


わずかな間。


「自由とは、何か」


沈黙。


彼は続ける。


「選べることだ」


「そして、選ぶためには――基盤が必要だ」


視線が集まる。


「食料」


「土地」


「資源」


一つずつ、刻む。


「それがなければ、自由は幻想に過ぎない」


誰も、否定できなかった。


「今の我々はどうだ」


「不安定だ」


「明日が保証されていない」


ざわめき。


「一方で――」


声が低くなる。


「栄光の日本は、安定している」


「なぜか?」


沈黙。


「土地を持っているからだ」


断言。


「我々の近くにある、あの土地――」


彼は、遠くを指す。


「空っぽ国々」


名前が広場に広がる。


「そこは、本当に“空っぽ”なのか?」


誰も答えない。


だが、疑念が生まれる。


「もし、あそこを我々が掌握すれば――」


「食料は安定する」


「供給は止まらない」


「誰も、飢えない」


言葉は、美しかった。


整っていた。


「これは侵略ではない」


「これは、未来への投資だ」


「我々自身のための選択だ」


拍手が起こる。


最初は小さく。

やがて、大きく。


蓮司は、わずかに目を細める。


(動いた)


人は、理由を求める。


正しさを求める。


だが実際には――


動かすための「言葉」があればいい。


(あの土地は手に入る)


空っぽ国々。


肥沃で、未確定で、誰のものでもない場所。


それを押さえれば――


すべてが繋がる。


彼は壇上から降りる。


歓声は続いている。


誰も気づかない。


その中心にいる男が、


何を恐れ、


何を欲しているのか。


運に支配される人生を拒み、


金で現実を固定しようとする男。


その手は、剣を握らない。


だが――


もっと確実なものを、すでに握っていた。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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