若い竜と老いた竜が生まれた夜
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
春樹とその部隊は、マコトを連れて夜の草原を進んだ。
目的地は、外部からは見えぬよう慎重に築かれた臨時キャンプだった。
そこに集まっていたのは、
かつてサラリーマンであり、
かつてOLであり、
そして今は――
社会から使い潰された者たちだった。
誰もが同じ目をしていた。
疲労、怒り、そして、かすかな期待。
「ここは安全だ」
春樹は静かに言った。
「今、外で集会が開かれている。
……皆、君を待っている」
マコトは言葉を失った。
自分が、
何かを始めたという実感はなかった。
ただ、耐えきれなくなっただけだった。
ただ、押し返しただけだった。
それでも――
彼は、壇上へと導かれた。
松明の光に照らされた簡素な広場。
即席の演壇。
そこに立った瞬間、
歓声と拍手が嵐のように沸き起こった。
「マコトだ!」
「彼が始めたんだ!」
「英雄だ!」
マコトは、理解できなかった。
なぜ、自分なのか。
なぜ、彼らは自分を見上げるのか。
その隣で、春樹が一歩前に出た。
彼の声は、静かで、しかし確固としていた。
「諸君。
今夜、この地で我々は一つの決断を下す」
ざわめきが収まる。
「我々は、もう“会社”ではない。
もう“部下”でもない。
そして、彼らの秩序に従う理由もない」
春樹は、夜空を指した。
「この地は、
抑圧されたサラリーマンとOLが、
初めて自らの意思で集った場所だ」
一拍置き、彼は宣言した。
「ゆえに、本日をもって――
この地を 新日本 と名付ける」
歓声が爆発した。
新日本。
それは国家ではなかった。
だが、理念だった。
マコトは、その中心に立たされていた。
一方、数キロ離れた場所。
重厚な建物に集う、社長と部長たち。
彼らの顔には、怒りよりも焦りが浮かんでいた。
その場で、一人の男が立ち上がった。
名は――
国橋 正典。
年齢、六十。
地球にいた頃、
彼は日本企業の社長であった。
低く、よく通る声。
長年、人の上に立ち続けてきた者の声だった。
「諸君」
場が静まる。
「私は、戦後の日本で育った」
彼の目は、遠い過去を見ていた。
「焼け野原の中で、
我々は“子供”ではなかった。
国の未来そのものとして育てられた」
“皆の子”。
そう呼ばれた世代。
「我々は、
個人の自由よりも、
国家と社会の再建を優先した」
国橋は、拳を握った。
「今、若者たちは秩序を壊そうとしている。
だが、無秩序の先にあるのは自由ではない。
崩壊だ」
彼は断言した。
「この世界で築いた産業社会は、
我々が守らねばならぬ成果だ」
そして、提案した。
「よって、
我々の社会を、
**栄光の日本**と呼ぶ」
それは、過去への誇りであり、
同時に、若者への宣戦布告だった。
その夜、
二つの日本が誕生した。
一つは、
抑圧から生まれた 新日本。
もう一つは、
秩序と過去に縛られた 栄光の日本。
どちらが正しいのか。
どちらが生き残るのか。
その答えは、
もはや言葉ではなく――
戦争によって示されることになる。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




