あなたは魔王を殺したので、私たちはあなたを勇者として選んだのです
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
若きサラリーマンとOLたち、そして年老いた社長たちや部長たちの間に、
もはや修復不可能な緊張が走っていた。
部長と社長たちは声を揃えて主張した。
――マコトは処刑されるべきだ。
上司への忠誠。それは日本的労働社会の根幹であり、
それを破る行為は、単なる殺人ではなく禁忌であった。
ましてや、部下が部長を殺すなど、
それは秩序そのものへの反逆に等しかった。
「彼を生かしておけば、次は誰が上司を殺すかわからない」
そうしてマコトは拘束され、
厳重な監獄へと送られた。
しかし――
その瞬間から、事態は彼らの想定を超えて動き始めていた。
その名は、組神 春樹。
彼もまた、マコトと同じく若きサラリーマンであった。
地球にいた頃から、
そしてこの異世界に来てからも、
彼は日本的過労社会――過労死を前提とした企業文化に
強い違和感と嫌悪を抱いていた。
だが、春樹は知っていた。
一人では、何も変えられないことを。
声を上げれば潰され、
逆らえば孤立し、
沈黙すれば生き延びられる。
彼はそれを、ずっと選び続けてきた。
――マコトが、その部長を殺すまでは。
春樹は理解していた。
マコトが英雄ではないことを。
彼が革命家でも、思想家でもないことを。
それでも春樹は、あえて宣言した。
「マコトは英雄だ」
「彼は殉教者だ」
「日本企業の暴力に、初めて血で抗った男だ」
それは事実ではなかった。
だが、それは必要な物語だった。
長年、沈黙を強いられてきた若者たちにとって、
マコトという存在は、
初めて現れた象徴だった。
――「俺たちも、反逆していいのだ」という証。
若きサラリーマンたち、
若きOLたちは、
次第に牧人へと共感を寄せていった。
「彼は俺たちの代わりにやっただけだ」
「いつか、誰かがやるはずだった」
恐怖は怒りへ、
怒りは連帯へと変わっていった。
春樹は静かに、しかし着実に動いた。
志を同じくする者たちを集め、
小さな武装集団を組織した。
彼らの目的は、ただ一つ。
――牧人を解放すること。
夜。
監獄への潜入は、驚くほど容易だった。
なぜなら、
看守の多くもまた、
かつて過労に苦しんだサラリーマンだったからだ。
扉は開かれ、
鎖は外され、
マコトは解放された。
彼は呆然としていた。
自分が英雄視されている理由も、
人々が命を賭してまで救おうとする意味も、
理解できずにいた。
だが、春樹は言った。
「君が望もうと望むまいと、
もう後戻りはできない」
「君は、火をつけた」
「そしてこの世界は、もう燃え始めている」
こうして、
一人の平凡なサラリーマンの名は、
時代の象徴となった。
それが希望なのか、
それとも破滅への第一歩なのか――
その答えを知る者は、
まだ誰もいなかった。
だが確かなことは一つ。
この瞬間から、
日本企業社会の模倣に過ぎなかったこの異世界は、
内戦という名の歴史を歩み始めたのである。
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