学年の常識
今日から中学2年生だ。
私はウキウキして登校する。
新しい友達、できるかな?
そう思い軽い足取りで昇降口へと向かう。
昇降口には今年のクラスが書かれている。
ウキウキなんて、嘘。
本当はドキドキしている。
案の定、新しいクラスが書かれた紙の前にはたくさんの人が群がっていた。
背が低い私には全く見えない。
と、少し前のほうに拓海を見つけた。
春休みの間一度も拝めることのできなかった拓海の姿に、私はすごく興奮する。
身長も、かなり伸びている。
1年生の最後と比べて、大人っぽくなった雰囲気が、私の頬を更に火照らせる。
と、拓海が視線を感じたのか、キョロキョロと周りを見渡す。
可愛い!
私は身悶えしながらもぴょんぴょんと跳ねてクラス名簿を見た。
あった!1組だ!
そして拓海も1組だった。
やった!
今年も同じクラスだ!!
私は嬉しさのあまりガッツポーズをした。
私は階段を駆け上がり、2年1組と記された教室に入る。
ほとんど、知らない顔。
ここでもまた女子はグループが作られていて、私は少し戸惑った。
でも心配はいらなかった。
同じ茶道部の友達と話しているうちに、段々とクラスの女子の輪が広がってきた。
私は、学年の中では結構有名人だったらしく、みんな気軽に話しかけてくれた。
どうやったらそんなにモテるの、なんて聞かれていた気がする。
そんな間も、私は思わず拓海の姿を探してしまう。
そういえば、玉木は違うクラスだった。
拓海は誰と話しているのだろう。
見ると、凛という名の背の高い男子と話していた。
凛と拓海は幼なじみらしい。
私はなぜか少し安心して、女子の会話に没頭した。
それから、私と拓海はひと言もかわすことなく生活していた。
同じ班で無い限り、話す話題もなければ必要もない。
私は少し寂しく、残念であったが、拓海の姿を見るだけで十分だった。
そんなある日体育の時間に拓海の走る姿を見ていると、
「ねぇ、梨花って拓海くんのこと好きでしょ?」
いきなり、果歩という私と結構気の合う友達が言ってきた。
「なんで?」
「毎日ガン見してるよね。チラ見どころか、ガン見。」
「えっ。嘘!?」
「本当。梨花と同じクラスになって3ヶ月、毎日思ってたよ。図星?」
「‥‥‥まぁ。」
隠す意味もなかったから正直に言った。
それがいけなかった。
次の日、それは学年全体に広まっていたのだ。
「よっ。拓海。」
男子は私にそうヒューと声を出しながらすれ違う。
女子も、「梨花なら大丈夫!告白しなよぉ〜」と私の肩を叩く。
それを私は無言で見つめ、そしてあぁ‥‥と思う。
果歩を恨む資格はない。
口止めをした訳じゃなかったし、あそこで嘘をつくことだってできたはずだ。
でもしなかった私は、ひょっとしたら少し拓海にこの想いがバレて欲しいなんて思っちゃったりしてたのかもしれない。
だからといって進展があるとは限らないけれど、このままダラダラと過ごすのは少しイヤだと思った。
でもそれがさらに私を傷つける出来事へと繋がった。
私の好きな人が学年の常識となってから、私の周りでは拓海の話でもちきりとなっていた。
ある日委員会の時に、一緒に学級委員をやっている男子が言った。
「なぁ、拓海の好きな人って知ってる?」
その男子は、拓海の幼なじみである凛だった。
「え?誰?ってか、いるの?」
私は自分の顔が赤くなるのに気がつきながら、言った。
拓海は女子には興味はない、と言い続けていると聞いていた分、驚きが大きかった。
ショックも大きかった。
「ねぇ、誰よ。」
私は教室で私と凛の他に誰もいないのを良いことに大声を出して聞いた。
少し、胸が痛んでいた。
そして凛は言った。
「今拓海の隣の席の、千秋。」
千秋‥‥‥。
凛ははっきりとそう言った。
そうだったのか。
拓海の好きな人は、千秋。。。。
千秋は明るくて、声がでかくて面白い女子だ。
顔もまあまあ悪くない。
勉強は出来る方ではないけれど、そんな方が女の子らしくて可愛いのだろうか。
「それ、本当?」
私は震える声で聞いた。
「うん。多分だけど、拓海の初恋。」
私はそれからのことを覚えていない。
気がついたら、家で泣いていた。