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玉木の告白

好きだよ。拓海が好きだよ。

私は呪文のように心の中で繰り返していた。

私は拓海のことが好きだ。

泣きながらハンカチを抱きしめる。

ここまで至るのには、数分前のできごとがあった。

今日の社会の時間は、自分の住んでいる地域についてのレポートを班員に見せることだった。

通常4人いるはずなのに3人しかいない私たちの班は、当然早く終わり、無駄話をしていた。

「つかさ、この3人でよかったよね。」

ふいに玉木が言う。

「なにが?」

拓海が不思議そうにいった。

「班だよ。だってさ、‥‥‥分かんないけど、なんかバランスとれてるよな。」

私もそう思う。

ここにもう一人女子がいることなんて想像がつかない。

私のクラスはめったに席替えをしない。

単に先生が面倒くさいという理由だが、私はそれが気に入っていた。

かれこれこの班になって5ヶ月。

私は拓海と同じ班のまま中学1年生を終えたかった。

多分それは叶うだろう。

なんといってもあと1ヶ月ほどでクラス替えなのだから。

でも首を締められて以来、なにも進展、というか、そういうことはない。

ただただ、毎日が軽く、だけどすごく楽しくすぎていく。

1秒1秒が楽しい。

そう心から思えることって人生であとどれくらいあるのだろう。

私は思いをめぐらせていると、拓海が口を開いた。

「バランス、ねぇ‥‥‥確かに。俺玉木も梨花も話してて楽しいからな。」

私は思考が停止した。

拓海にそんなこと言ってもらえるなんてこの上ない幸せだ。

女子として見てくれてるわけではないことなんて分かっている。

でも単純に嬉しかった。

「私も、楽しいよ。」

満面の笑みで拓海を見る。

そんな私を玉木が複雑な顔で言った。

「なぁ、梨花って、拓海のこと好きなの?」

「な!」

私は幸せの絶頂から一転。いきなりの問題発言に慌てふためいた。

「そ、そんなわけないじゃん。」

「マジで?好きな人いないの?」

「だからなんでイキナリそういう系の話になるわけ」

「いや、別に。」

すると玉木は少し顔を赤くしてうつむいた。

そんな玉木を拓海が肘でつつく。

私はそれを見て、あっ‥‥と思った。

少し、ズキンと胸が痛んだ。

それを振り払うように大声で言う。

「あぁ〜眠いなぁ〜」

しかし玉木は私を無視して真面目な口調で言った。

「梨花のことが好きなんだけど。」

私はキター‥‥と内心思いながらも驚いた様子で目を開いた。

こういうことは初めてではない。

むしろ結構多い方だ。

中学に入ってから、私はなぜかやたらと告白されるようになった。

それは他のクラスの話したことも無い男子だったり、先輩だったり、クラスの男子だったり。

でも私はその全員を「好きな人がいるから」と断ってきた。

実際そうだった。

私は潤が好きだったから。

でも今は違う。

今は拓海が好きだ。

潤ではない。玉木でもない。

「玉木‥‥‥そんな風に言ってくれてありがとう。」

少し顔が紅潮してしまう自分が悔しい。

横から私と玉木を見ている拓海が悔しい。

そしてそんな拓海のことが大好きな自分が悔しい。

すると玉木が口を開いた。

「俺、梨花のことが好きだよ。‥‥だから、付き合ってください。」

顔を真っ赤にして言う玉木の横で、拓海は満足そうに笑う。

そんな拓海の様子に少し傷つきながらも、

「ごめん!玉木のことは好きだけど、でも‥‥他にもっと好きな人がいるから‥‥‥」

私はちらりと拓海を見て言った。

「そう‥‥‥。」

玉木は残念そうに、でも笑って言った。

「まぁ、言えて良かったよ。だから、梨花もちゃんとその好きな人に伝えろよ。」

そう諦めたように、でも前向きに玉木はちゃんと私の目を見て言った。

この人は強い人だな、と思う。

多分、玉木は私の拓海に対する想いに気づいているのだと思う。

でもそれを知ってて、あえて今私に告白したのだと思う。

それも、拓海に相談して。

好きな人の好きな人である拓海に相談して。

それがどれだけ悲しく、虚しいことであるか私には想像がつかない。

どれほどまでに玉木が傷ついているのか想像はつかない。

でも、私だって傷ついている。

拓海は私の想いに気づいていない。

というか、果たして拓海に「恋」という感情があるかどうかも不安だ。

でも、今日のことではっきりと、明確に、拓海は私のことは何とも思っていないということに気がついた。

応援するくらいなのだから。

玉木と応援するくらいなのだから、拓海は私のことは何とも思っていない。

拓海と付き合いたいなんて願望があるわけじゃないけれど、でも胸が痛い。

でも、私はそんな鈍感で女子の気持ちなんて全然分からない拓海が好きだ。

好きだよ。

涙がでるよ‥‥‥

「えっ。ちょっと梨花!泣くなよ!ってかなんでお前が泣くんだよ!」

玉木が慌てて言う。

拓海は「なんで?!」と言いながらハンカチを差し出す。

私はそんな拓海のさりげない優しさにますます涙がこぼれ落ちて、柔らかくていい香りがするハンカチに顔をうずめて泣いていた。

そして、心の中でずっと「拓海好きだよ、好きだよ」とハンカチに願いを込めていた。

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