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第5話(下)好きって言ったら魔王軍にファンクラブができていた

 



「せいじょさまに、会えた……ほんとうに、実在してた……!」



「ほっぺたつねったら、痛かった!現実です!本物です!むしろこっちが夢です!!」


「ありがとう世界……ありがとう生命活動……生まれてきてごめんなさい、ありがとうううう!!」





 魔王軍、限界オタク化。



 村の外で整列したまま礼儀正しく土下座していた彼らだったが、聖女が「みんな来てくれて、ありがとう……」と微笑んだ瞬間、


 その理性の大半が蒸発した。




「尊い……! 尊いが概念になった……!」



「すごい……瞳が、マナの泉より澄んでる……罪深い……いや救い……」


「嗚呼……声が……声が……鼓膜に優しすぎて鼓膜が溶けたぁあ!!」



「だれか……だれか録音して!!一生聴くから!!」





 その頃、天界観測室。


 コロネ神様は、スクリーンの前で正座していた。



「……はいはいはいはい、またか。今回は魔王軍がオタク。うん、わかってた、うすうす感じてた。でも言わせて、一言だけ。“仕事しろォォォ魔族ゥゥウウ!!!”」



 彼らは本来、世界を征服する立場の者たちである。


 だが今、彼らは“聖女推し”として、平和的かつ熱狂的に村に滞在していた。




 その熱意は、周囲の村人たちも圧倒していた。



「お、おい、あれ……魔族って、もっとこう、爪が長くて、ガハハーッて笑ってるやつじゃなかったか?」



「なにあの“推しタオル”!?自作!?刺繍入り!? レベル高すぎ!?」


「うちの娘より可愛いフラッグ作ってて、悔しい……!」




 そして村の中心に、即席の祭壇が設置された。



 中央には「聖女ご尊顔ありがたや絵巻」と書かれた垂れ幕。


 脇には魔族が手作りした「推し愛ノート」が設置され、今日の感想が書き込まれていた。



 ---


 推し愛ノート


 ・「初めて人間に恋をしました。しかも宗教的な意味で。」


 ・「彼女の一声で、心が洗われすぎて骨まで透明になった気がします。」


 ・「次元を越えて愛してます。生まれ変わっても推します。」


 ・「魔王軍辞めます。ファンクラブ入ります。」



 ---


 これには、さすがのコロネ神様も白目になった。



「もーだめだこれ……世界の敵、世界のファン化現象。ねぇなに?これ進行形の人類補完計画か何か??」




 一方、聖女は村の広場で、

 魔族のひとり――ぬいぐるみ職人を兼ねた魔族兵から渡された人形を手にしていた。


「これ……わたし、なの……?」


「は、はい!せ、せいじょさまの慈愛と優しさをイメージして……そ、その……! 」



 彼の顔はすでに色が変わるほど紅潮していた。



「かわいい……だいじに、します……ありがとう……」


「……ッ!!!(崩れ落ち)」





 彼はそのまま泣き崩れた。


 後続の魔族がそっと肩を抱き、列を整理した。



「よかったな……お前の努力が、報われたな……」


「推しに“ありがとう”って言われる人生……俺も、欲しかった……」


「次の聖女さま語録は“だいじにします”、これ……グッズに使えるぞ……!」




 村の子どもたちは、それを見てはしゃいでいた。


「魔族さんたち、みんなすごく真面目ー!」


「なんかね、お土産にステッカーくれたよ!」


「こっちは缶バッジだよ! “ご加護に感謝”って書いてある!」




 ……完全にイベントだった。




 夕方、村の広場で、聖女は魔族たちにお茶を淹れていた。


「たくさん来てくれて……ありがとう。こわいとか、そういうの……思わなかった。みんなの顔、すごくうれしそうだったから……」




 その言葉に、魔族たちは一斉に――




「「「推しに生き方を肯定された……!!」」」




 そして、失神者が3名、涙を流す者が5名、理性が帰宅した者8名という犠牲者を出し、魔族オタクたちは、満足げに順序よく村をあとにした。




 翌朝、聖女は手紙を受け取る。


 ---


 魔王軍より公式文書


 尊き聖女様へ。

  この度の巡礼につき、我々一同、大変感激と感涙の渦に包まれました。

  今後、魔王軍聖女ファンクラブは正式非戦闘団体として登録されることとなりました。

 >なお、次回の定期参拝日は「満月の日」とさせていただきます。


 ---



 ──その日、天界の観測室は静かだった。

 コロネ神様は、冷めたお茶を見つめて呟いた。



「……ねぇ、そろそろ魔王様本人も“ファンです”って来る気がするんだけど、どうする?」






 ──つづく!


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