朱の鳥居駆け抜け 湯煙目指す
フェリーでしっかり寝て朝になれば別府に到着だ。
まずは別府駅から宇佐神宮へ参拝。特急ソニックで往復。昼まであれば事足りるだろう。昼頃に戻ってきたら、オススメされた鶏天のお店で昼食。で、観光客向けの温泉施設で砂風呂を堪能してブラブラする。……プランは完璧!
温泉セットのバッグを駅前のコインロッカーに預け、電車に飛び乗り宇佐神宮へ。
さて。
電車で行ったことのある人や地元の方ならご存知と思いますが、宇佐神宮ってアクセスが限られている。最寄りの駅からバスも出てますが、本数が少なすぎる。ホントはレンタカーにしようと思ったんですけどね、私の方向音痴を心配した家族に全力で止められました。まぁ、自覚はあるけどさ。でも、別府から国道まっすぐ行けば着けます。普通は行けますよ。私的にはレンタカーがオススメです。タクシーもあるし。
歴史ある境内には、宇佐神宮ならではの刀剣に関する宝物も多く展示されて圧巻だった。もっと知識があれば楽しめただろうなぁ。歴史好きには、たまらん情報量で勝手に興奮してしまった。
とにもかくも、神宮の境内は日本語以外の言葉も飛び交ってました。ツアー客も目に付くし、賑やか。途中でベトナムから来た2人組の若い女性に写真を頼まれついでにお喋りして(片言の日本語と私のカタカナ英語だからいい加減だけど)楽しかったり。うーん。海外からの観光客も多いんだなぁ。満喫して電車に乗り別府に帰る。
が、これは序章だった。
別府駅に着いて早々、知人から美味しいとイチオシされた鶏天の店へ小走りへ向うが、しかーし。駐車場に人が並んでいる。昼時だから、覚悟をしてたけど20人は超える人達が列を成している。うーん、有名店だからねっ。やむなし、次の店!
スマホのオススメを見ながら小走りに路地を進み、次の店に行ってみたものの、また列が長々と連なっている。駄目じゃん!
時計を見て、スマホを見て、暫し悩んだけど方向転換。気をつけてみれば、其処かしこで列が出来ている。さすが観光地だわ。先に温泉を楽しんでからご飯にしよう……と思いつつも。私、日常的に朝ご飯は食べない人なので、さすがに16時間断食だと腹ペコになってきてる。砂風呂入ったら、ドカーンと食べるぞぉおお!
鳴り出したお腹を無視してバスに乗る、と満員じゃん! 車内に飛び交う言葉は韓国語やら中国語やら。車内の日本人、見るからに地元民と数人の観光客(私を含む)だけかも。これは、ひょっとして、京都より海外からの観光客が多いのか? 多いかもしれない、いや、まさか。
吊り革を握る手の平が汗ばむ。嫌な予感。
目的のバス停に着くと、多くの乗客が一斉に降りていく波にドンブラコッコと流され、飛び交う異国語に揉まれて目的の温泉施設に辿り着いた。
あぁ、なんて事!!
温泉施設入口の暖簾の中から伸びる長い行列。明らかにキャパオーバーな外国人観光客達。楽しそうに喋りながら日本の温泉を楽しむ為に辛抱強く並んでいる。そして背後から敷地に入ってくる大型観光バス。怒鳴る警備員。叫び案内の旗を振る添乗員。
駄目じゃん。無理じゃん。これ、絶対に入れないじゃん! この状況で残り4時間程では温泉に入る事は出来ない。
……オワタ。私の旅行、オワタ。
ヨロヨロと敷地内の端に申し訳程度にある小さな足湯に向う。
フェリー使って別府まで来たのに、鶏天食べずここまで来たのに、砂風呂出来ないという事実。疲れと空腹が一気に襲いかかる。ヤケクソで足湯に浸かり溜息。
ここで足を浸けてる数人は、温泉に入れなかった日本人観光客ばかり。
どうしたものか……。ピチャピチャとしてると、お向かいに腰掛けた女性と目が合い、お互いに苦笑いして軽く会釈。混雑した観光地、キャパオーバーな温泉施設の片隅で足湯に浸かっているのだから、お互いに同じ境遇なのは言葉を交わさなくても解ってしまう。目線だけで語り合えるね、同志よ。
「今日は由布院も混んでましたよー」
「宇佐神宮も団体客が多かったですよ」
「こんなに混むなんてねー」
「昨日は奈良を通ってきたんですけど、こちらはアジア圏の方が多いですね」
そんな会話が始まり、苦労を労り合う。どうやら向かいの女性、相当の温泉通のようだ。別府も由布院も何度も通う常連のようで、その彼女も「この連休は特に観光客が多すぎる」と困り果てていた。
「温泉入りたかったんですけどねー。これは無理ですねー」
「……いえ、手が無いわけではないんですよ」
ヤケクソな私の言葉に、彼女が声を潜めて発した言葉に、足湯に浸かってた私達の目が光る。
なんですと?!
「共同浴場って、知ってますか?」
次回 3月6日 更新予定です