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99.天光の湯

「七戸くん? 大丈夫かい? のぼせたかな?」


 固まった俺を心配した店長が手を差し伸べてくれる。


「七戸、一度上がるか?」


 隣の崇影も心配そうに俺の顔を覗き込む。


「だ、大丈夫! すみません、店長。ありがとうございます!」


 店長の大きな手を掴んで湯船から上がり、俺は崇影と共に店長の案内する『珍しい湯』へと向かった。


 大浴場の少し奥。

 レンガの壁で仕切られた向こう側に、先ほどの大浴場より二回りほど小さい浴場があった。


「すげぇ……!!」


 その全貌を見て、俺は思わず息を呑んだ。

 隣に立つ崇影も動きを止めて見入っているのが分かる。


 湯が、光を浴びてキラキラと輝いていた。

 メタル? いや、ラメ? どう表現すれば良いのか分からない。とにかくキラキラなんだ!! キラッキラ!

 高い位置にある窓から差し込む陽の光が水面に反射してユラユラと幻想的な景色を創り出している。


天光(てんこう)の湯、と言うそうだよ。希少な鉱石から染み出た成分がこの美しい色合いを作り出している。治癒効果も高いとのことだ。今の君たちにピッタリじゃないかな?」


 高い治癒効果……!

 最終試験の疲れの残る身体には間違いなく有難い湯だ。ただ、出来ればそれだけじゃなくて、俺のこの妙な体質にも効果があってほしい所なのだが……

 そんなうまくはいかないよな、やっぱ……


 などと思いながら、俺はゆっくりその輝く湯の中へと歩を進めた。

 トロリとした湯が体を包み込む。

 体が軽くなったような感覚を覚えた。まるで柔らかいシルクの綿に包まれているような心地良さ。

 見た目を裏切らない極上の癒し風呂だ。


「めちゃくちゃ気持ちいい……寝れそう」


 思わず呟いた言葉に店長が笑う。


「それは良かった」

「七戸、寝たら溺れるのではないか?」


 あぁ、うん……知ってる。

 崇影の相変わらず的外れなツッコミに力が抜ける。

 おかげでマジで溺れてしまいそうになった。


「寝れそう、は例えだからな、崇影」

「……そうか」


 ふふ、と笑った店長が掬い上げた湯を俺の肩にそっとかける。


「これで七戸くんの体質も良くなると良いのだけどね」

「そうですね……」


 俺はポツリと答えながら湯船に視線を向け……ハッとした。

 水鏡に写る自分の姿。

 こんなところに鏡が……!!

 いや、でももしかしたら、温泉の効果で縮まずに……!!

 と思った次の瞬間に訪れる、あの潰されるような嫌な感覚。


 あぁ、やっぱ、現実はそんな甘くないよな……


 はぁ、と溜息を吐き、諦めて顔を上げる。


「七戸……」

「これは……」


「へ?」


 崇影と店長が俺を見つめて固まっている。

 何だ?? その反応……さっきの感覚は間違いなく縮んだ時の物のはず……


 俺は慌てて自分の体を確認しようと視線を落とし……


 あれ??


 水鏡に写ったのは縮んだ俺。けど……


「前ほど縮んでない……?」


 自分の両手を目の前に掲げてみる。

 一回り程小さくなっている。けど、いつもならもっと小さくなっているはずだ。


「七戸……症状が緩和されている」

「やっぱり、そうなのか!?」


 崇影の言葉で確信した。

 縮んだが、いつも程じゃない。

 揺れる水面に写る姿でしか確認が出来ないためハッキリと認識は出来ていないが、崇影から見てもそうなら間違いないだろう。


「そうだね、いつもは幼子の姿になってしまうが、今のその姿は……少年、といったところだ」


 店長もそう補足した。

 マジか!! 温泉すげぇ!!

 胸がドキドキと高鳴る。

 温泉に入って症状が緩和されるのなら、完治も遠くないんじゃないのか!?

 っていうか、もしかして、定期的にこの温泉を利用すれば治る……?


 今まで薬草を調べてみたり、店長と調合した薬を飲んだりしてきたが、一向に治る気配は無かった。まさか温泉に入れば良かったなんて……

 初めて洞窟に入ったあの日、洞窟へ行くより先に温泉に訪れるべきだったのかもしれない。

 なんて、今更考えても仕方が無いけどな。


「温泉、すごいですね!」


 喜び勇む俺に対して、店長は難しい顔で考え込んでいる。


「店長?」

「いや、今の君の姿は、元の姿と、縮んだ姿の中間のように見える。それは単純に症状が軽くなったと考えてよいのだろうか、と思ってね……」


 そうか……言われてみれば、確かに。

 縮む年齢が上がったとはいえ特異体質であることには変わりがない。

 もしかして、体質が変化しただけってこともあり得るんだろうか?


「だとしても、何らかの変化が起きていることは違いないのだろう。その要因は、温泉の成分から来るものなのか?」


 崇影の疑問に店長は頷く。 


「うん、そこも気になる所だね……七戸くん、風呂から上がったら一度この温泉の成分について聞いてみるとしよう。その上で、アリエスとリネットちゃんに相談してみようか」

「は、はい!!」


 さすが店長は冷静な上に判断が早い。

 そうだよな、今日はアリエスさんもリネットちゃんもいる。

 二人に状況を説明し、先ほどの温泉の成分についても情報が分かれば……完治のために何が必要なのかも判明するかもしれない!

 心の中に一筋の光が差し込んだのを感じる。

 

 俺達は急ぎ足で風呂の出口へと向かった。

 大浴場を横切る際にレオンさんとトーキスさんの姿が視界に入ったが、二人は何やら真剣に話し込んでいたようだったので、声を掛けるのは止めた。

 体質の変化については後で報告をすれば良いだろう。

 

 

 

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