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94.温泉計画、混線中

「ということなのだが、どうかな?」


 不意に店長が商品棚の奥へと声を掛けた。

 へ? 誰かいるのか?

 もしかして、トーキスさんが帰ってきているのかもしれない。

 そう思ってそちらへ視線を移し……俺の心臓がドクンと跳ねた。

 そこに居たのは……


「あの……こんにちは、七戸さん。」

「リネットちゃん!? 来てたのか!?」


 顔を真っ赤にして俯く、白いワンピース姿の女性……リネットちゃんだ。

 ヤバイ、俺、さっき変なこと言わなかったっけ?

 そうだ、女子と一緒に温泉ラッキーとか、あれ……聞かれてた?

 何か上手い言い訳か誤魔化しを、と思考を巡らせかけ……咄嗟にストップした。

 いや、ダメだ。

 今変に取り繕うのは逆効果だ……

 リネットちゃんは、俺と視線を合わせないまま口を開く。


「先ほど……タウラスさんから温泉のお話をお聞きして……」

「!!」


 何!? 店長、先にリネットちゃんを誘ってたのか!?

 そういうことは先に言ってくれ……!!

 俺はドキドキと早くなる鼓動を抑えながらリネットちゃんの次の言葉を待つ。


「あの、私もご一緒しても、いいですか?」

「ま、マジで!?」


 思わず食い気味に答えてしまった。

 やった!! リネットちゃんと一緒に温泉旅行!!

 俺の脳内は一瞬にしてパラダイスになる。

 こんなラッキーイベント、この島に来て初めてじゃないか!?

 いや、何なら俺の人生初かもしれない。

 店長、神だ……!!

 と内心大喜びした、次の瞬間。

 

「勿論私も同行するよ、喜びたまえ!」


 良く響くアルトボイスが耳に届いた。

 この声……


 俺は嫌な予感を抱えながら振り向く。

 

 案の定そこに立っていたのは、金髪の美人医師……アリエスさんだった。

 いつからそこに……!?

 リネットちゃんに気を取られてこの人がいるのに気づかなかった。

 こんなに存在感あるのに!!


「美少年達と一緒に温泉とは、タウラスも気が利くじゃあないか。裸の付き合いで親交を深められそうだね?」


 言いながらツカツカと俺の前まで歩み寄り、顔を覗き込まれる。


「は、裸の付き合い、って……」

「アリエス……温泉は当然男女別だよ」


 戸惑う俺に、店長がスマートな助け舟を出してくれる。


「なに!? そうなのか……」


 アリエスさんは残念そうに肩を落としたが「いや、いい」とすぐに顔を上げてリネットちゃんの方へと擦り寄った。


「ということは、リネット。君とじっくりゆっくりお風呂タイムを楽しめるということだ。それも良い……そうだろう?」

「せ、先生……!!」


 リネットちゃんの顎に長い指先を掛けて上を向かせ、唇が触れそうなほどの距離で囁いたアリエスさんに、リネットちゃんはゆでダコのように真っ赤になってしまった。


 アリエスさん……相手が男でも女でもノリは変わらないんだよな……

 前にもこんな光景を見せられた気がするが、相変わらず掴めない人だ。

 いや、けど……アリエスさんはカッコイイ。

 男の俺から見てもそう感じるのだから、リネットちゃんも例外ではないだろう。

 元々リネットちゃんはアリエスさんを崇拝しているようだし、もしかしたらこの二人は既に付き合っているという可能性もあるのかもしれないな……多様性、というやつだ。


 そんなことを考えた俺の胸の奥が、どこかチクリと痛んだ気がした。

 ……いや、なんでこんな気分になってんだ、俺。

 そもそもリネットちゃんは俺が『子供化する男』だから仲良くしてくれているだけであって、それ以上の感情は無い。

 さっきの距離でそれはよく分かったじゃないか。


 そんなことを悶々と考えていると……


 ガチャ、と店の扉が無遠慮に開かれた。


「……なんだ、密度高ぇな。鬱陶しい。」


 吐き捨てるような言葉。

 そこに立っていたのは、泥まみれのトーキスさんだった。

 登場から安定の口の悪さだ。

 すっと辺りを見渡し……その視界にアリエスさんの姿を捉えるとあからさまに嫌そうな顔をした。


「げ……アリエスいんじゃねぇか」


「おや!! 久しいね、弟くん」


 アリエスさんはニンマリと笑い、ヅカヅカとトーキスさんへ近づくと顔を寄せて強引に肩を組んだ。

 トーキスさんの服は泥まみれだが、汚れることは一向に気にしていない様子だ。


「元気かい? 今日も狩りをしていたのかな?」


 トーキスさんは顔を背けて眉を顰める。

 

「離れろ、変態」

「おやおや随分な言い草だ。女っ気の無い君にサービスをしてあげようというお姉さまの親切心を無下にするもんじゃないよ?」

「いらねぇ世話だ。求めてねぇよ」


 鬱陶しそうに拒絶の姿勢を見せるトーキスさんに、アリエスさんは「へぇ」と目を細めた。

 そのまま顔をトーキスさんの耳元に口を近づけるアリエスさん。


 ……これ、このまま見物していていいものなのだろうか……

 何となくイケナイ物を見せられているような妙な気分になり、ドキドキしてしまう。

 

「いい男なのに勿体ないねぇ……どうだい、一日くらい私とデートでも」

「テメェみてぇな変態に褒められても嬉しくねぇっつーの」

「あぁ……いいねぇ、その釣れなさがまた堪らない」

「離れろ、変態」

「そのフレーズはさっきも聞いたよ?」

「だから何だっつーんだよ、離れろ!!」


 トーキスさんは一向に靡く様子が無いが、アリエスさんも引かない。

 先程アリエスさんの姿を見た瞬間に嫌そうな顔をした理由がよく分かった。

 毎度こんな絡まれ方をしていては疲れるだろう。それも、あのトーキスさんが。

 


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