85.誘いの気配
そこから、俺達は今まで自分達が立てた作戦とその結果、手応えや問題点を出し合い、お互い今までどのような特訓をしてきたのかについても改めて情報を共有した。
現状、俺達の攻撃は二人にほとんど防がれている。
どちらかに集中攻撃しようにも二対二である以上、有利に状況を運べない。
…とはいえ、限られたこの三十分では出せる手札に限界がある。
その上で、俺達が次に打つべき手は……
「崇影、トーキスさんを引きつけられるか?」
俺の言葉に崇影が顔を上げて視線を合わせる。
「…不可能では無いが…」
そう言って一時停止する。
何かを考えている時のコイツの癖だ。
俺は言葉を続けた。
「あの二人を同時に相手するのは、ぶっちゃけ無理ゲーだ。だからどちらかを孤立させたい。けど、セイロンさんを撒くのは多分キツイだろ?」
「それは、そうだな…この森の中にいる以上、師匠の目から逃げ切るのは難しい」
即答で頷く崇影。
「となれば、可能性があるのはトーキスさんだ。崇影はソロなら速く飛べる。その速度でトーキスさんを引きつけて撒いて、俺の元に戻って来られないか?」
「…なるほど、トーキスを遠ざけておいて二対一で師匠を狙うと。」
さすが、コイツは理解が早くて助かる。
どこまでも優秀な奴だ。
俺はさらに説明を続ける。
「あぁ。セイロンさんは蔦とカウンターが相当厄介ではあるけど、トーキスさんみたいな体術を積極的に使うタイプじゃない。ってことは、通常弾による攻撃と、直接攻撃なら上手く連携すれば追い詰められるんじゃないか?」
「…やってみる価値はありそうだ。」
先程崇影から修行内容を聞いたが、セイロンさんと殴り合いのようなことはしていない。
セイロンさんとトーキスさんの戦闘スタイルには明らかに違いがある。
もしかしたら…もしかしたらの可能性でしかないが、セイロンさんは近接戦は得意ではないのかもしれない。
「問題は、上手く二人をバラけさせられるか、だけど…」
「気配を消す訓練がどこまで通用するか試す良い機会だ…やる価値はある」
俺と崇影は顔を見合わせて頷いた。
今回は、一時的に別行動になる。
崇影はトーキスさんから逃れて俺の元へ、俺は崇影が合流するまでセイロンさんを相手に持ちこたえなければならない。
◇◇◇
「さーて、次はどう来るか…」
俺は幸木とタカが去っていった方へ視線を向けたまま呟いた。
昨日は行き当たりばったり感が否めなかったが、恐らく昨夜の野営で話し合ったのだろう。今日の出方は正直面白かった。
特に二回目だ。
隠れるために用意された十分間を奇襲に充てる…考えたじゃねぇか。
真面目な幸木にしちゃ奇策だ。…タカの入れ知恵かもしんねぇな。
そんなことを考えていると
「楽しそうですね、トーキス」
隣に立っていたセイロンにそんなことを言われた。
ふふ、と笑みを零している。
「それはオマエもだろ、セイロン」
そう返すと、セイロンは微笑んで素直に頷いた。
「ええ、楽しいですよ…とても。まさかこうしてトーキスと『教える立場』として肩を並べられるなんて、願ってもいませんでした。」
「ま、それは同感だな」
「彼ら…この試験の『本当の狙い』に、気付くと思いますか?」
「さぁな。気付けねぇならそこまでっつーこったろ。」
ため息を吐きながらそう答えた俺に、セイロンはますます笑う。
何なんだ、マジで楽しそうだな、コイツ…
俺は思わず眉を顰めて隣を見た。
「相変わらず素直じゃないですね、貴方は…」
「んだよ、何が言いてぇ?」
含みのある言葉にイラッとして睨みつけるが、セイロンの表情は一切変わらない。
「いえ、別に。さ、そろそろ時間ですよ。…行きましょう、トーキス。」
「チッ…相変わらずなのはテメェもだな」
ハッキリしないコイツの物言いは今に始まったことじゃない。気にするだけ無駄だ。
俺は小さくため息を吐き、顔を上げる。
俺とセイロンは同時に動き出した。
幸木とタカが向かった方へ。
隠れたのか、それとも奇襲をかけるつもりで構えているのか…
どちらにせよ見つけ次第潰すだけだが、少しは楽しませてくれよ─
この広い森の中…本気で隠れりゃ七時間隠れ通すことも不可能じゃねぇ。つっても、それは『隠れるスキル』を身に着けていれば、の話だ。
タカはともかく、幸木にそんなスキルは無い。
つまり、まず狙うのは幸木の気配を探ること─…
と思ったのだが…
俺はふと足を止めた。
見られている。
このあからさまな気配、幸木か? いや…それにしちゃ異様だ。
まるで「見ている」ことをこちらへ訴えかけているようだ。
わざと『殺気』を放っているとしか思えない。
「トーキス?」
セイロンが足を止めた俺の様子に首を傾げた。
セイロンはこの異変に気付いていない…とすれば、俺を誘ってやがるのか。
面白ぇ、受けてやろうじゃねぇかよ…!
俺は気配の元を探り、小さく精霊を呼んだ。
「Sylph」
両足に風を纏い、一気に駆け出す。
この俺を視線で挑発とはいい度胸だ。望み通りぶっ潰してやる!!
◇◇◇
「…本当に、楽しそう。」
トーキスが風の速度で走り去った後を見送り、セイロンが呟いた。
「崇影さん、気配の使い方が本当に上手になりましたね……あのトーキスを引きつけられる程に。」
ふぅ、と一息吐き、セイロンは両手を組んで伸びをする。
「さて…僕も動きましょうか。七戸さんはどこに隠れたかな?」
そう言い、ゆっくりとその場で一回転。
そして…ある一点を見つめ、セイロンは微笑んだ。
「なるほど。今回お二人は別行動というわけですか…」
小さく呟くと同時に歩を進めていく。
カサリ、カサリ…
落ち葉を踏む音を隠そうともせずに、ゆっくりゆっくり…じわじわ追い詰めるかのように、セイロンは迷わずある場所を目指していた。
◇◇◇




