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33.最終試験⑧

 俺はズボンのポケットから小型の魔道具を取り出した。

 サバイバル訓練の際にトーキスさんから『持っておくといい』と勧められたため、ドラセナショップで店長から従業員価格で購入した物だ。

 使い道は、所謂チャッカマンのような物。

 見た目は装飾されたただの金属の筒だが、魔石がはめられているため、小さな火を起こすことが可能だ。

 トーキスさんは精霊魔法が使えるため、魔法で火を起こせるが、俺はそうはいかない。

 だからサバイバル道具の一つとして身に付けておいたのだが、大正解だった。


「これで火をつけられるから、ちょっと待ってくれ」


 俺は棒の先を焚き木に向け「着火」と呟いた。


 ボウッ


 棒の先から小さな火花が生まれ、あっという間に木に燃え移る。成功だ。

 俺も随分この島での生活に慣れたよな…と我ながら思う。

 日本にいた時では考えられない生活だ。


「便利だな」


 崇影が感心した様子で見ている。


「あぁ、魔道具ってすげぇよな!」


 俺は答えながら狩った熊の肉を食えるサイズに捌き、適当な木の枝に刺していく。

 少し面倒だが火が落ち着いた所で回しながら焼けば食えるはずだ。

 調味料は…皮肉なことに俺の変化を解くために持ち歩いている香辛料がある。風味はほぼ胡椒だが、塩味(えんみ)もあるため、これ一つで最低限の下味は付けられる。

 飲水については、店長に貰ったボトルに川の水を注いで補充しておいた。

 一先ず命を繋ぐには十分だ。


────


 俺と崇影は並んで倒木に背を預け、焼けた肉を頬張っていた。

 辺りはすっかり暗くなり、小さな焚き火だけが僅かな光源だ。


 ふと、俺は空を見上げる。

 空は満天の星空、というやつだ……こんなに星で埋め尽くされた夜空を見るのは小学生の時に社会見学で行った科学館のプラネタリウム以来だ、と思った。

 いや…正確にはあれは人工物だからな、こんな目を見張る程の星空を生で見るのは初めての経験だ。

 じっと見ていると星が迫って来るような気さえする。

 綺麗だな……


「そういや、何かの物語に書いてあったな、人は死んだら星になるって…」


 何気なく呟いた。

 あまりに夜空が綺麗だったから。

 あんなに美しく輝く星の一つになるのなら、悪くないかもしれないとそんな考えが過ぎった。


「……そうか」


 崇影が小さく返す。


「俺が取り込んだ魂は…星にはなれなかったのだろうな」


「え」


 ヤバ!!


 俺は焦った。

 そうだ、すっかり忘れていた。

 コイツは『自殺した人間の命』を食ったんだ。

 そんな奴の前でこんな話─! 俺は馬鹿か…!


「いや、崇影、俺は別にそういう意味で言ったんじゃ…」

「あぁ、承知している。」


 焦ってしどろもどろになる俺に、崇影は僅かに微笑んだ。


「七戸を責めているのではない。それに、師匠に言われたんだ。俺は『光の実に選ばれた』のだと。」


 僅かな灯りに浮かぶその表情は、どこか晴れ晴れとしている。


「光の実に選ばれた…?」

「あぁ。アイツの魂が、今も俺と共にあると…師匠はそう言った。」


 あれ……?

 俺はふと疑問に思い、口を開く。


「崇影…取り込んだ魂の持ち主って、もしかして…」


「あぁ」と崇影は頷き「話していなかったか」と首を傾げた。

 聞いてない。 何も聞いてないぞ、俺は!

 そんな、重要なこと……不躾に聞けるわけもない。

 訳ありっぽいし、根掘り葉掘り聞いたら悪いと思って聞けずにいた。けど、崇影の反応を見る限り、俺に隠しているという訳では無さそうだ。


「俺が取り込んだ魂…光の実は、俺の(あるじ)崇光(たかみつ)』の物だ。」

「!!」


 もしかして、と思ってはいたが……

 直接本人から告げられると衝撃的な事実だった。


「え、けど…光の実って、自殺した場合にのみ現れるんだよな…?」


「あぁ。…崇光は、自害した。死ぬはずだった俺に『自由に生きろ』と残して…」


 …え、自害?

 って、ちょっと待てよ…切腹、的な…? 

 どういうことだ?


 俺が初めてコイツに会ったあの日……崇影は大怪我をしていた。店長の話によれば、光の実を取り込まなければ死ぬことが確定している状況だったとのことだ。

 コイツは一体…どこから来たんだ?

 

「えっと、崇影…ごめん、俺全然ついていけてないんだけど…その、崇光さんって人は、武士とかなのか?」

「ぶし…?」


 崇影が首を傾げる。

 通じないか……

 コイツ古風な所あるし、主人が武士だったって言われても納得出来るんだけどな…


「崇光については、詳しくは言えない。ただ、アイツは常に死と隣合せの生活をしていた。だから…俺はいつか殉死すると笑っていた。」


 殉死……

 つまり死ぬ可能性が高い、危険な仕事をしていたということか…


「崇影も、一緒に仕事をしていたのか?」

「あぁ。俺は鳥だから、人と同じことは出来ない。だが移動、伝達は有利だからな。常に近くでアイツをサポートしていた。」

「だから崇影は強いのか……」


 俺の頭の中でようやく今までの崇影の行動が繋がった気がした。

 俺がネブラで死にかけた時、珍しく感情的になったのは、その崇光さんと俺を重ねていたんだな…


「崇影の名前を付けたのは崇光さんなのか?」

「あぁ。光と影は対になる。二つで一つだと、そう言ってくれた。1人では未熟者でも、俺が一緒にいれば一人前だと。」


 光と、影…なるほど、その名付けからも、崇光さんがいかに崇影を大事に思っていたかが伺えるようだ。

 けど…引っかかる単語が聞こえたな。


「未熟者…って?」

「あぁ…崇光は、とても小柄だった。七戸より恐らく八インチ程度背が低かっただろう。『成長出来ない体質』なのだと…そう聞いたが、そのお陰で俺はアイツを飛行して運ぶ事が出来た。」


 八インチ…って確か一インチが二.五センチくらいだから、二十センチくらいか…

 俺が百六十九センチだから、崇光さんは…だいたい百五十センチくらいってことか!?


 それは確かに…男にしては大分小さい。

 『成長出来ない体質』か…それも大変だな…

 けど、だからこそ崇影と連携が取れてたってことなんだよな。何だか皮肉な話だ。


「ちなみに崇光さんの年齢は…?」 

「歳はハッキリと認識していなかったが、少なくとも七戸よりは年上だろうな。」


 そうか…大人の男で百五十センチは珍しいサイズだ。

 だから『未熟』だと言っていたのだろうか…


「今…崇影の中には崇光さんの魂が入ってんだろ? ってことはさ、崇影。今は一人で完全体ってわけだ。最強じゃないか?」

「!!」


 俺の言葉に崇影が息を呑んだ。

 あ、ちょっと…軽く言い過ぎたか?

 どう弁解しようかと逡巡する俺に、崇影は「…は…」と小さく笑った。


 初めて聞く崇影の笑い声に、俺は驚いて顔を上げる。


「はは…っ、七戸…お前は、いつも俺の感覚を狂わせる。」

「え? ごめん、崇影…俺、何か変な事言ったか…?」

「いや……七戸、感謝する。」


 感謝をされるようなことを言った覚えも無いんだけど。

 俺が困惑していると、崇影が静かに口を開いた。


「俺は、半端物だ。他者の魂を食らったグリーズは、一般的には歓迎されない存在。だと言うのにお前は…」


 そこで一度言葉を切り、俺をじっと見つめる崇影。


「七戸。俺はお前に救われている。初めて会った日から、ずっと…」

「いや、助けられてんのは俺の方なんだけど…」

「お互い様、だろう?」


 それは俺がネブラから生き延びて崇影に叱責された際に俺がコイツに掛けた言葉だ。


「あぁ、そうだったな。崇影…あんたは俺の最高の親友だ」


「…ふ…」


 再び崇影が小さく笑い声を上げた。


「ははっ…」


 俺もつられて笑う。


「じゃ、俺らの最強のコンビネーションで、トーキスさんとセイロンさんにぶちかまそうぜ! 今夜はがっつり作戦会議だ!!」

「承知した」


 俺と崇影は、そこから試験突破のための方法をあれこれと話し合った。

 明日こそ、明日こそは何とか結果を出したい─…


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