表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/85

33.最終試験⑦

 カルムの森に日が落ちる。

 鬱蒼(うっそう)とした木々が僅かな陽の光を遮り、思った以上に暗くなるのが早い。

 風も強くなっている。

 これは…一晩過ごすには厳しいな、というのが正直な感想だ。

 目下必要なのは…


「どこか、風を凌げて一晩過ごせる場所を確保しないとだな…」


 俺の呟きに、崇影は辺りを見渡し…俺の方へ顔を向けた。


七戸(ななと)、俺が上空から探そう。」


 そうか…崇影(たかかげ)なら上空から広い範囲を捜索することが出来る。

 無駄に歩き回って体力を消耗するよりずっと効率的だ。

 結局崇影に頼り切ってしまっていることに気が引けるが、選択を間違えば生死に関わる以上そんなことも言ってられない。


「悪いな、崇影…助かる」

「あぁ、すぐ戻る。」


 大きな羽根を広げて飛び立つ崇影。

 全く俺は何一つ役に立てていないな…と思わずため息が漏れた。

 アイツは凄い。気配を消せるのもそうだが、こうして必要な時に即座に自らの能力を活かした判断を下せる。

 初めてアイツと出掛けた時もそうだった。

 俺が盗まれた商品をあっという間に取り返してくれた。


 俺は…何かアイツのためにしてやれているだろうか?

 足を引っ張っているだけではないのか?


 三カ月様々な試練をこなし、随分強くなったつもりだったが、それは思い上がりだったのかもしれない。

 

 現に今も…俺がいなければ、アイツはこの森で一晩過ごすのに苦労はしないはずだ。何せ鷹なのだから。

 くそ、せめて俺のこの妙な体質がもう少し使える部類の物だったら良かったのにな…


 などと考えていると…ふと背後に妙な気配を感じた。


 この感覚、知っている。

 『獲物として狙われている』感じだ。

 サバイバル訓練の時に何度も死にかけたため、感覚が染み付いている。

 

 俺はそっと三口銃を取り出し、トリガーに指をかけた。


 ガサッ…


 背後の低木が不自然に揺れる。


 来る─!!


 俺は迫り来る『危険な気配』に向かって振り向きざまトリガーを引いた。


 パァンッ!!


「グガッ!!」


 そいつがくぐもった声を漏らして仰け反った。

 弾は背中に命中。ダメージはでかい。

 だが致命傷には足りない。


「グアァァァァ!!!」


 痛みに激昂したその獣が勢いよく飛び掛かって来る。

 ─熊だ。サイズは俺と同じくらいか。

 接近されると危険だ。殺される…!!

 俺は視界に獲物を捕らえると急所を狙い、もう一発。


パァンッ!!


 銃声が森に響く。

 弾丸は真っ直ぐに熊の首元に吸い込まれ、熊はビクンッと大きく痙攣し…ドサリ、と崩れ落ちた。


「…ふぅ。」


 俺は安堵の息を吐き、銃をホルスターに納める。

 そして代わりにサバイバルナイフを取り出した。

 今日の食料はこれで十分確保が出来そうだ。

 そう思った時。


「…凄いな、七戸。」


 背後で崇影の声がした。

 突然のことに俺はビクリとして、慌てて振り向く。

 熊に集中していたせいもあるだろうが、崇影の気配には全く気付けなかった。


「崇影、戻ったのか。…もしかして、見てたのか?」

「あぁ。見事だ。七戸…強くなったな」

「強く…なれてんのかな? 俺」


 思わずそんな弱気な言葉がこぼれ落ちた。

 崇影は少し首を傾げ、俺の顔を覗き込んだ。


「どうした、七戸?」

「いや、何でもない! いい場所あったか?」


 俺は慌てて笑顔を作り、努めて明るく崇影に尋ねた。


「あぁ、この先に大きな倒木がある。前方の視界も悪くない。一先ずそこが良いだろう。」

「そうか、ありがとな、崇影! 今仕留めた奴の処理だけするから少し待ってくれ。」

「承知した。」


 崇影は少し心配そうに俺を見ていたが、俺はそれに気付かないふりをして熊の血抜き処理を済ませた。

 崇影の強さに嫉妬して卑屈になっているなんて…コイツに言えるわけがない。カッコ悪すぎるだろ、俺。

 そもそも崇影(コイツ)の隣に並べるなんて本気で思ったのがおこがましいと言うものだ。

 崇影は強い。そんなの初めから分かっていたことだ。

 卑屈になる暇があったら、どうしたら隣に並べるかを考えた方がずっと建設的だ。


 そう自分に言い聞かせ、俺は弱気な考えを強制的に追い出した。

 すっかり捌き慣れた獣肉を手頃な木の枝に縛り付け、それを肩に担ぐ。


「行こう、崇影。店長の料理とは比べ物にならないけど…今日は俺が飯をご馳走するよ。」

 

 俺の言葉に、崇影の表情が微かに緩んだ。


「七戸…そんな技術まで身に着けていたんだな。感謝する」

「あぁ、トーキスさんにみっちり扱かれたからな。少しは頼ってくれ」

「無論だ、頼りにしている。」


 真っ直ぐに俺を見る崇影。その裏の無い言葉に、俺の不安はかき消された。


 …そうか、そうだったな…


 崇影と自分を比べて落ち込む必要なんて最初から無かった。

 コイツは、俺を頼ってくれている。無償で俺を信じてくれている。ごちゃごちゃと余計なことを考えるのはもう止めるべきだ。


 俺と崇影は並んで暗い森の中を歩き始めた。

 崇影の情報によれば二キロ程先に大きな倒木があるとの話だ。

 風を凌ぎ、背後からの危険を避けるには都合が良い。

 テントのような物があると なお良いのだが、残念ながらそこまでの用意はしていないため、最低限の環境で休息を取るしかない…


 崇影が案内してくれた場所は、確かにこの森の中にしては珍しく前方が開けた場所で、一晩休むには最適な地形だった。

 倒木は想像していた以上にでかく、背中を預けるのに十分な太さ。加えて緩い傾斜になっており、倒木にもたれて座るとほとんど風の影響を受けない。

 これだけ前方が開けて隠れ場所が無ければ獣もあまり近寄ってはこないだろう。


 俺達は乾いた落ち葉を集めて倒木の前方に敷き詰めクッションの代わりにして並んで腰を下ろした。


残りの落ち葉と枯れ木を集めて組み上げ、焚き火の用意を整える。


「火はどうするんだ? 俺は生肉でも食えるが…」


 真面目な顔で崇影が言う。


「その姿で生肉は止めたほうがいいぞ、崇影…」


 思わず突っ込む。鷹は確か猛禽類だから肉食。

 確かに鷹としては生肉を食らうのは普通のことなのだろうが、人の姿で生肉を食らう姿はビジュアル的にもよろしくない。

 それに、姿に合わせて体質も変化しているのだとすれば、生肉を口にするのは危険だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ