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33.最終試験⑤

 崇影(たかかげ)に捕まったまましばらく飛行し、ある程度距離を取った所で俺は崇影に下ろすよう合図をした。


 崇影は頷き、ゆっくりと俺を下ろしてくれる。

 そして人の姿に戻り、俺の隣に立った。


「崇影、怪我は大丈夫か!?」


 俺はすぐに崇影の体を確認する。

 俺がトーキスさんに殴られるハズだったのだが、寸での所で突進して来た崇影に気付いたのだろう。

 矛先を瞬時に変え、トーキスさんは崇影を殴り飛ばした。

 単純な拳打による攻撃だったが、トーキスさんの戦闘力なら相当な威力だろう。無傷で済むとは思えない。

 しかもその状態で俺をぶら下げて飛行してたんだよな…逃げられたことは有り難いが、申し訳なくなってしまう。

 崇影に守られなくても大丈夫だって宣言した癖に、これじゃダメだ…俺がもっと上手く立ち回らないと!!


「打撲程度だ。問題は無い。元より殴られる予想はしていたため急所は避けた。」

「…あの速度でそんなことまで見据えてたのか? すげぇな、崇影…」

「…だが結局は敗走だ。」


 不甲斐ない、と崇影が呟く。

 違う、不甲斐ないのは俺の方だ。

 トーキスさんは直前まで崇影に気付いて無かったんだろ? つまり崇影は『隠れんぼ』には成功しているということだ。


「いや、崇影……色々発見はあった。次はもう少し上手くやれると思う。」


 それに、と続けながら俺はお馴染みになって来た香辛料の瓶を取り出してくしゃみを一発。

 勢い余って飛び出そうな鼻水をずずっと軽く啜りつつ、言葉を続ける。


「今回はブレイクタイム無しで追ってくる可能性が高いよな……崇影、トーキスさんかセイロンさんが来た時に、気配って分かるか?」


 崇影は少し考える様子を見せ、口を開いた。 


「師匠は難しいが、トーキスならある程度は気付ける」

「よし、じゃあトーキスさんの気配に気付いたら合図をくれないか? あの二人は恐らく同時に仕掛けて来る。だから、お前の合図で俺は全力で走り回りながら、全力で反撃する。崇影はまた隠れて隙を狙ってくれ。」

「承知した。」


 崇影は一つも文句を言わず、すぐに鷹へと変化し木の上へと飛び立った。


 我ながら雑すぎる作戦だという自覚はある。

 …けど、今はゆっくり作戦を練り直すほどの猶予は無い。

 こうしている間にもトーキスさん達は確実に迫って来ているはずだ。

 とにかく出来ることをやる。その上で感覚を掴み、どこかに勝機を見出すしかない。何せ十時間倒れないよう凌ぎ切らなければならないのだ。とにかく時間を稼ぎたい。

 俺は弾を込め直し、木の陰に隠れつつすぐに撃てるようにトリガーに指を掛けて構えた。


 ポツン。


 不意に、俺の足元に小さな木の実が落ちる。


 ─崇影からの合図だ。

 トーキスさんが来ている!


 俺は慌てて周囲を見渡した。

 どこだ? どこから来る…?

 いや、先にセイロンさんの蔦が来るかもしれない。


 崇影が気配を察知したということは、恐らく相手側も俺の気配を察知済の可能性が高い。

 相手は一流狩人(プロハンター)のトーキスさんだ。気配を気取られればどこに隠れているかもすぐに見抜かれるだろう。

 これ以上この場で雑に隠れていても全く意味をなさない。

 なら、少しでも狙いを拡散させる!!

 

 俺は思い切り地を蹴った。 

 地面がザッと音を立てる。


 その瞬間─周りの空気がピリッとひりついたのを感じた。

 そして、地面から突如生え出した無数の蔦。

 ぐるぐると捻れながら、空間を掴んだ。


「うわっ!!」


 思わず声が上がる。

 あと一秒遅ければ、俺はその場で羽交い締めにされていただろう。


 ヤバイヤバイヤバイ。

 逃げるのが遅かったくらいだ。

 俺はとにかく全力で右へ左へ方向を変えながら走る。

 その後ろを追いかけるように、地面から次々と生えてくる蔦。

 どちらへ走ろうとも、しつこいくらいに追ってくる。

 けど、ギリギリ全速力なら避けることが出来ている。

 スタミナが切れる前に次の手を打ちたい。けど……

 トーキスさんはどこだ?

 ふと振り返った先に、柔らかそうなラベンダーの髪が揺れるのが目に入った。


 ─そこか!!

 ゴウンッ!!


 俺は全速力で駆けながら咄嗟にトリガーを引く。

 弾は風来弾(ふうらいだん)のままだ。


 一点突破で避けられても、範囲攻撃ならあるいは…!!

 

 少し掠るだけでもいい。

 隙が出来れば崇影がそれを逃さないはずだ。


 たが、俺の風来弾が破壊したのは、発射と同時に目の前に現れた蔦の壁だった。

 俺は今どうやら完全にセイロンさんにロックオンされている。


「くそっ…!!」 


 なら、トーキスさんは!?

 俺は咄嗟に視線を巡らす。


 ─後ろか!?


 微かな息遣いを感じて振り向くと、上空を横切ったのは…崇影!?

 人の姿になった崇影が、空に舞い上がり、竜巻に巻き込まれているのが視界に入った。


 何だ? 何が起きてる…!?


 慌てて状況を確認しようとそちらへ体を向けた瞬間。


 ズルッ。

 突如足元を掬われる感覚。


「しまっ…!!」


 まともに言葉も発せられないまま、俺の体はグンッと宙に引き上げられた。

 見えている景色の天地がひっくり返る。

 くっそ、またこのパターンかよ!!

 俺は急いでまだ拘束されていない手に三口銃を構え…自分の足元めがけて撃ち放った。

 

 パアンッ!!


 軽快な銃声音が響き、俺の足を捉えていた蔦の一部が破損する。

 魔石は解除したため、放ったのは通常弾だ。

 この状況での風来弾は自分の足を傷つけかねないため危険だと判断したのだが、その分破壊できる範囲は狭く、俺の拘束はまだ解けない。

 俺は続けてもう一発。


 パアンッ!! 


 なんとか拘束から逃れることに成功するが…

 蔦で持ち上げられていたため、このままだと地上に打ち付けられる…!!


 どうする? とりあえずダメージを軽減するための受け身の態勢を取るが、それだけでダメージを防げる高度ではない。


 …と思った瞬間。


 ふわり、と何かに受け止められた。


「へ?」


 先程までとは違う、攻撃性のない蔦の揺り篭が俺を受け止めていた。

 セイロンさんが助けてくれた? けど、何で…?


 その揺り篭がゆっくりと俺を地上に下ろす。

 俺は急いでそこから出て…構え直そうとして、ようやく状況を吞み込んだ。


 仁王立ちするトーキスさんの足元に…崇影が倒れていた。

 ピクリとも動かない。ニ度目のゲームオーバーだ。

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