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33.最終試験④

 トーキスさんはどこだ!?

 崇影はトーキスさんを捕らえられているのか!?


 慌てて辺りへ視線を移したその先に─…上空から弾丸の如く落下してくる大きな鳥。

 …崇影だ!!

 だが、それを確認すると同時に、俺の目の前にはトーキスさんの拳が迫っていた。

 いつの間にこんな近くに…!?

 俺は思わず目を瞑る。


 ドカッ!!


 鈍い音が響いた。

 けど、俺に痛みは無い。

 何だ!? 何が起きた!?

 慌てて目を開けると…地に伏していたのは崇影だった。


「崇影!!」

「さっきよか動きが良くなってんじゃねぇか。褒めてやるよ」


 トーキスさんが楽しそうに笑う。


「でもここまでですかね…」


 セイロンさんがふわりと木から降りてこちらへ接近してくる。


七戸(ななと)! 来い!!」


 起き上がり、再び鷹の姿となった崇影にそう言われ、俺はほぼ反射的に魔鏡を取り出して子供化した。

 そのまま飛び上がる崇影の足を掴む。


「逃がしませんよ」


 紡がれた言葉と同時にセイロンさんの腕から無数の蔦が伸びる。


「七戸、撃て!」


 崇影の指示。

 俺はすぐさま何とか左腕一本で崇影の足にぶら下がり…右手で三口銃を構えて風来弾を放った。


 ブォウンッ!!


 同時に、崇影が羽根の間から()()を落とした。

 丸い…爆弾? いや…

 ピンポン玉ほどの大きさのその丸い物体は地上に叩きつけられると、モクモクと白い煙を吐き出した。

 目眩ましの道具か…!?


「七戸、仕切り直しだ」


 頭上から掛けられた崇影の言葉に俺は頷く。

 崇影は俺をぶら下げたままスピードを上げ、その場を離れた。


 白い煙が視界の端に遠ざかっていく…

 大丈夫、今回はまだやられてない。

 あの二人は手加減をしている気もするが、作戦失敗した以上、一旦引いて次の手を考えなければならない。


 トーキスさんとセイロンさんは…追ってこない。

 わざと逃がされたのか、煙で逃げられたのかは分からない。

 けど、今回はまだ終わってない。クリアのチャンスはまだ残っている。何か手を打たなければ…!


 飛行する崇影にぶら下がりながら、俺は改めて森の地形を確認する。大分速度を落としてくれているのだろう。

 恐怖心はほとんど無く、周囲を確認出来るだけの余裕もある。

 何か無いのか…クリアのヒントは。

 俺は必死に森の中へ視線を巡らせながら、もう一度脳を回転させる。

 何か…重要なポイントを見落としている気がする。


◇◇◇


「逃げたな……」


 崇影の放った煙玉から漏れ出ていた白煙が残る中、トーキスがポツリと呟いた。


「追いますか?」

「いや、いい。泳がせてどう出るか見てみようぜ。」

「そう言うと思いました」


 白煙の向こうに、戦場を離れ飛行する鷹の姿が微かに確認出来た。その足には子供化した七戸がしっかりと捕まっている。

 追えばすぐに追い付き、撃ち落とすことは造作もないだろう。

 その二人…いや、一羽と一人をトーキスとセイロンは静かに見送っていた。


「ま、あいつらを潰すのが目的じゃねぇしな」


 そう言い捨て、トーキスは近場の木にもたれて腕を組んだ。


「そうですね。まだ始まったばかりですし…ゆっくり楽しませてもらいましょう。」


 セイロンはその隣に同じようにもたれる。


「タカの判断力は流石だな…引き際も心得てやがる。」

「そうですね、彼は戦闘の仕方をよく理解しています。一体、どこで覚えたのでしょうね…」

「あの動きにあの武器のラインナップだろ、大方予測はつくけどな…」


 トーキスは空を見上げた。

 時刻は、まだ昼間だ。青空の中を飛ぶ鳥の群れが視界を横切っていく。


「それにしても、七戸さんも見違えました。随分場馴れしましたね。」

「あぁ、そうだな…正直、一週間も持たずにギブアップするんじゃねぇかと舐めてたんだけどな。アイツ、俺の指導に必死こいて付いてきやがった。」


 そう言ってトーキスは少し口の端を上げる。


「怖ぇクセに…ビビりながら震えながら全力で着いてくるんだよ、アイツ。マジでそこまでする気が知れねぇ。」


 呆れたようなその言葉と裏腹に、表情はどこか楽しそうだ。

 その様子にセイロンはふふっと笑った。


「随分気に入ってるじゃないですか、彼のこと。」

「野垂れ死なれんのは勘弁だからな…あのお人好し馬鹿。危なっかしくて見てらんねぇよ」


 そこで一度言葉を切り「それに…」と続ける。

「俺がどんな無理難題出そうが、疑わずに一心に挑みやがる。ありゃ一種の才能だろうな」

「ふふ、そのひたむきさ…誰かに似ていますね」


 意味深に言ったセイロンの言葉に、トーキスは「あぁ…」と呟く。


 二人の脳裏には共通して一人の姿が浮かんでいた。

 赤い髪に、赤い瞳。少し勝ち気でいつでも真っ直ぐなハーフエルフの娘。


「確かにな。お人好しな所もそっくりだ」

「…彼女は…エレナさんは元気ですか?」

「あぁ。相変わらずだよ、アイツは。ピーピー文句ばっか言ってきやがる。」

「それは、相手がトーキスだからでしょう? 信頼しているんですよ。」

「どーだかな。」


 二人の間を、静かに風がすり抜けていく。

 サワサワと森の木々が揺れる。

 崇影と七戸は、隠れる場所を無事に見つけただろうか…


「アイツも、強くなりてぇっつってたな…」

「そうですか…」

「俺もだ。まだ足りねぇ…もっと強けりゃ、オマエとソラに違う景色を見せてやれた…」

「トーキスとエレナさんが責任を感じることでは無いですよ。僕は今こうして生きている…ソラさんと一緒に。二人のおかげです。だから、二人には本当に感謝しているんです。」

「だとしても、だ。俺もエレナもまだ納得してねぇんだよ」


 その言葉の響きには、悔しさと後悔が滲み出ている。

 セイロンは、困ったように微笑んでトーキスを見つめていた。

 トーキスは木に預けていた背中を起こし、セイロンへ体を向ける。


「覚悟してろよ…俺は必ずオマエをこの森の中で倒して、森の主の座から引きずり下ろしてやる。」

「諦めが悪いですね、貴方も」


 軽く息を吐きながらセイロンが笑う。

 それに釣られるようにトーキスも小さく笑った。 


「今更だろ」

「そうですね…」


 セイロンは少し視線を落とし「ですが…」と小さく続けた。


「僕も『森の主』として、簡単にトーキスに負けるわけにはいきません」


 強く…だがどこか淋しさの潜む声色。

 返すトーキスの言葉はそれを打ち消すような響きを纏う。


「んなこたぁ分かってる。…安心しろよ、森の中だろーとオマエの全力をぶっ潰せるまで、俺はまだ強くなるからよ」

「それは、楽しみですね……」


 小さく言って微笑み…セイロンは森の奥へ視線を移した。


「そろそろ……再開しましょうか」

「だな…行くか。」


 二人は視線を合わせるわけでもなく、同時に足を踏み出した。

 広い森と言えど、トーキスにとっては庭も同然。セイロンに至っては自ら管轄するホームグラウンドだ。

 ターゲットがどこへ向かったのか、おおよその検討はついている。


◇◇◇  


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