33.最終試験③
「どう思う? 崇影」
俺は、小走りに森の中を駆けながら隣を走る崇影に尋ねてみた。
「……厳しいな」
「だよな。」
分かっちゃいたことだが、戦力差がありすぎる。
予想以上に瞬殺だった。もう少し粘れるかと思っていたのだが、俺ではトーキスさんの足元にも及ばない。
けど、無理だと嘆いた所で何も進まないことくらいは分かっている。
何か打開策を見出さなければ……
「俺らの勝利条件は……あの二人のどちらかを倒す、だったっけ?」
「間違ってはいないが、『倒せ』とは言われていない。『無力化』だな」
それって、同じことじゃん……と密かに崇影の言葉に突っ込みつつ、俺は考えを巡らせる。
トーキスさんか、セイロンさんのどちらかを無力化か……
となると、ターゲットを定めて対策を練ったほうが効率が良さそうだ。
「カルムの森ではセイロンさんは最強だろ? だったら狙うのはやっぱ、トーキスさんの方だよな?」
俺の言葉に崇影は少し首を傾げつつ「そうだな…」と答えた。
「ただ、好戦的なのはトーキスの方だ。狙った際の危険度は高い。」
「確かに……」
先程もセイロンさんに拘束されたが、直接的な攻撃を仕掛けてきたのはトーキスさんだ。
「けどさ、それって逆手に取れないか? 俺が囮になって、その隙を付いて崇影がトーキスさんを仕留めれば……」
「発想は悪くないが、師匠がそれを見逃すとは考え難い。」
「そりゃそうか……」
何せタッグ戦だ。
あの強すぎる二人に対してどう動けば隙をつけるのだろうか…
俺は考えながら走る足を緩め、周囲を見渡した。
そろそろ隠れる場所を決めなければ…このまま走り続けても体力を消耗する上に即行で見つかってしまう。
あの二人からある程度距離は取れただろうか?
…いや、距離を十分取った所であまり意味は無いのだということは薄々気付いている。
例え森の端まで行けても、精霊を纏ったトーキスさんのスピードなら一瞬で追い付かれるだろう。
そんな簡単に行くはず無いよな、とため息が漏れる。
相手が一人ならまだしも、条件は二対二。ターゲットを絞った所で簡単に討ち取れる状況にはならないだろう。
けど、何か…何か策はある筈なんだ。俺は脳をフル回転させる。
「隠れ鬼ってことはさ、隠れるってのも一つのポイントなんだよな?」
俺の言葉に崇影はしっかり頷いた。
「そうだろう。俺は師匠から気配の消し方について学んだ。まだ完全な習得には至っていないが」
「崇影、そんなことしてたのか!?」
「あぁ」
だからさっき…木の上にコイツが隠れた時、俺には気配を感じられなかったのか…
「すげぇな、崇影! ってことは、隠れ鬼にしたのはそのためか……」
って言っても、俺にはそんな芸当はとても出来ない。……ならどうする?
思いつくのはやはり、『囮作戦』だった。
「俺はまず見つかるだろうし、見つかった場合、またセイロンさんがあの蔦で拘束してくると思うんだよな。さっきは逃げられなかったけど…次は何とかして少しは凌ぐから、崇影はその隙にトーキスさんを探してくれないか?」
「…承知した。」
少しは凌ぐ、と豪語したものの…実際言うほど簡単ではないことは承知の上だ。
それでも俺の言葉を真っ直ぐに信用してくれる崇影の言葉が有り難い。
何としても凌がねばという良いプレッシャーになる。
「あっちとしても、俺か崇影のどちらかを潰せば良いわけだから、崇影が姿を現さなければ二人とも俺を狙う筈だ。崇影はスピードも早いから、トーキスさんが俺に攻撃を仕掛ける瞬間を狙って、潰しにかかってくれ」
「…なるほど。」
崇影は少し難しい顔をしていたが、俺の目を見て「承知した」としっかり頷いた。
「七戸、師匠の蔦は強力だ。場合によってはそれだけで体を破壊される可能性もあり得る…気を付けてくれ。」
「え」
崇影はそう言い残して鷹の姿へと変化すると、木の上へと飛び去った。
ちょ、怖い言葉残して行くなよ……マジかよ…
てっきりあの蔦は拘束のみかと思っていたのだが…絞め殺すって戦術もアリってことかよ…怖ぇよ、セイロンさん…
いやでも、俺が決めた作戦だ。
崇影も了承してくれたわけだし、とにかくまずは全力でセイロンさんの蔦から逃げるしかない!!
今回は見つかることを見越して動き易い場所に陣取っておきたいところだ……
俺はホルスターから三口銃を取り出し、すぐに使えるように構えた。
そのまま、近くの木の陰に身を潜める。
息を鎮めながら周囲の動線を確認。
開けた場所というわけではないが、比較的木の密度は低く、逃げ道は確保しやすそうだ。
トーキスさんは耳も良い。物音を立てればある程度距離があっても気付くだろう。
加えてセイロンさんに至っては、神出鬼没すぎてどこから現れてもおかしくはない。
体を動かさぬまま、視線だけで周囲を見渡す。
些細な音の変化にも気付けるように聴覚を研ぎ澄ます。
カサ…
ほんの微かな音。
けど、風じゃない!!
俺は反射的に木の陰から飛び出した。
何となくだが嫌な感じがする…十中八九、俺はもう鬼に見つかっている!!
そのまま一先ず全速力で走る。
チラリと後方を見れば、先程まで俺が隠れていた場所に捻れた蔦がドリルのように生えていた。
何だよあれ…直撃したら身体に穴空くんじゃねぇのか!?
天へ向かって生えたその蔦が、グニャリと方向転換をし…俺を追ってくる。
マジか!!
何で植物と追いかけっこしなきゃいけないんだよ!!
俺は走りながら後方へと銃を向け、トリガーを引いた。
パァンッ!!
軽快な音と共に追って来た蔦の先端が飛び散る。
銃撃は有効だ!!
なら!!
俺は風来石をセットして、再び狙い撃った。
ゴウッ!!
カマイタチによる範囲攻撃で、俺を追っていた蔦がバラバラに引き裂かれる。
よし! いい感じだ!!
と思ったのも束の間。
目の前に突如現れた、土の壁。
「ぶっ!!」
全速力で走っていた俺は勢いを止められず激突する。
けど、止まっちゃダメだ!!
俺は状況を把握するより先にその壁を蹴りつけて方向を変え、再び走り出す。
しかし前方から、新たな数本の蔦が迫って来た。
「くっそ!!」
俺はさらに方向を変え、蔦目掛けて風来弾を放つ。
蔦はセイロンさんの力、さっきの土の壁は恐らくトーキスさんだ。
だとすれば、2人に俺を狙わせるという作戦は成功だ。
崇影、頼む─トーキスさんを止めてくれ!!
俺は走りながら脳内で強く祈る。
セイロンさんとトーキスさんのターゲットは今俺に集中している。
崇影の姿がまだ見つかっていないなら、チャンスはあるはずだ!!
と思った刹那……
足が何かに絡め取られた。
しまった!! 蔦が真下に!!
足元を見ると俺の両足に無数の蔦が巻き付こうとしていた。
俺は咄嗟にサバイバルナイフを取り出し、乱暴にそれを切り裂く。
が、振り上げた右手も蔦に捕らえられた。
全力で引き千切ろうとするが、びくともしない……
顔を上げると、木の枝に腰掛けたセイロンさんの姿が確認出来た。




