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33.最終試験②


 ちょっと待て!!

 見つかったら反撃って話だったけど、これじゃ反撃なんてとても無理じゃないか!!

 俺は慌ててホルスターから三口銃を取り出そうとするが、そんなに甘くはない。

 捻れた蔦は枝分かれして、俺の両腕を拘束した。


 …崇影が言ってた、『縛られて絞め上げられた』って、コレかよ…!!

 どうしろってんだよ、これ!!

 逆さまなまま宙ぶらりんで両手両足を拘束されて…初っ端から酷い醜態だ。


─七戸!!


 崇影の声が頭に直接響いた。


 見上げた上空から、大型の鳥が滑空してこちらへ向かうのが見えた。

 捕らえられた俺の方へ一直線に流れ落ち、俺の目の前で人の姿となってクナイで俺を縛る枝を切り裂く。


「サンキュ、崇影!! 助かった!!」


 俺は蔦から解放され、何とか地面に着地するが……

 着地した地面が突如沈んだ。


「なっ…!?」


「おら、さっさと反撃して来いよ。」


 聞き慣れた挑発的な声が後方で響く。

 この地面の変化…トーキスさんの精霊魔法か!!

 

「くっそ……!!」


 俺は慌てて三口銃をそちらに向けるが、足を泥で捕らえられていてその場から動けない。

 半分ヤケクソでトーキスさんに向けて発砲した。


「ビビらず撃てたのは褒めてやるが、ちゃんと狙えよ、幸木(さちのき)


 俺の弾道を読んだトーキスさんはふわりと飛び上がって(かわ)し、一瞬で距離を詰めて俺の背後に立つ。

 ヒヤリ、と背筋に嫌な汗が流れた。


「七戸!!」


 崇影が再度こちらへ援護に向かおうとするのが視界に入るが、崇影が放った鎖分銅(くさりふんどう)はセイロンさんの操る蔦に絡め取られ、トーキスさんまで届かない。


「崇影さん、まず自分の状況を確認しましょうね…」


 セイロンさんが優しく諭すように呟くのが聞こえた。

 この緊迫した場にそぐわない程の穏やかな声。

 ……それはむしろ不気味な響きだった。


 セイロンさんは崇影から鎖分銅を奪い取ると、掌を崇影へ向け…旋風を巻き起こした。


「─っ!!」


 鳥の姿へ変化してこちらへ向かおうとした崇影は、急激な激しい向かい風に翼を取られて体勢を崩す。

 その背後から迫る、無数の蔦……

 崇影は咄嗟に姿を人へ戻し、クナイで迫り来る蔦を切裂くが、数が多すぎて追いついていない。


「崇影!!」

余所見(よそみ)してんじゃねぇよ!」


 背後でトーキスさんの叱責が響き、後頭部にドスッと重い衝撃を感じた。


「あ…っ!!」


 何だ、殴られた…のか…!?

 景色が歪み、視界がぼやけた。


「七戸っ!!」


 崇影の声が耳に残る。

 こちらへ駆けてくる気配。

 ダメだ、崇影……こっちに来たらお前までトーキスさんにやられる…!

 そう伝えたいのに、声は出ない。 


 耳に届く全ての音が遠ざかっていき……俺の意識はそこで途切れた─……


◇◇◇


 サワサワと木々が揺れ、葉が擦れる音が耳を擽る。

 川だろうか…水の流れる音も聞こえる。


「どんな様子だ?」


 聞き慣れたぶっきらぼうな声。


「大丈夫、間もなく目を覚ますと思いますよ」


 答える声は優しく心地よく、穏やかな響きだ。

 瞼に感じる光の温度、頬に当たる風……


「……っ」


 俺はゆっくりと目を開けた。


 …眩しい。


 目の前に水色の人影がぼんやりと見えた。

 陽の光を受けてキラキラと輝いている。


 あぁ……天使だ。天使がいる……

 やっぱり天使って、キラキラしてて綺麗なんだな……


 俺はそのキラキラした物へ手を伸ばした。


「おはようございます、七戸さん」


 天使は俺の手を取り、そう言って微笑んだ。


 ……ん?


「セイロンさん!!」


 俺は慌てて飛び起きようとして、上から頭を押さえられた。


「急に起き上がるんじゃねぇよ。またぶっ倒れんぞ」

「……トーキスさん…」


 ようやく直前の記憶が戻って来た。

 そうだ、まともな反撃など出来ないまま、俺はトーキスさんに一瞬で気絶させられたんだ……

 情けない……


「七戸、大丈夫か?」


 崇影が、トーキスさんに押さえつけられて横になったままの俺の顔を覗き込んだ。


「崇影は無事だったんだな……」

「あぁ。」

「七戸さんが戦闘不能になったので試験を中断しました。どちらか片方が潰れた場合はそこまでというルールですから」


 頭上から降ってくる心地良いセイロンさんの声。

 …ん? あれ?


 俺はようやく自分の置かれた状況に気付いた。

 物凄く寝心地の良い枕だと思っていたが、これって…セイロンさんの…膝枕だ!!


 俺の視線の先で微笑んでいるセイロンさん。


 この人は女性じゃない。女性じゃないけど…男性でもないし、やっぱり眩しくて綺麗だし……

 そんな人の膝枕!!

 いや、その前にこの人森の主なんだった!!

 俺は何て畏れ多いことをしているんだ…!!

 

 と思うが、一方でもう少しこのままでいたい…という淡い願望も顔を出す。

 気持ち良いんだ、この膝枕……


「起きられそうですか?」


 顔を寄せてセイロンさんが俺に尋ねた。

 長いまつ毛がキラキラと光を纏って見える。


「は、はい!! 大丈夫です!!」


 俺はドキドキしながら早口に答えた。

 すると目の前に手が差し出された。

 崇影の手だ。


「七戸、無理はするな」

「あぁ、ありがとう、崇影。」


 俺はその手をしっかり掴んでゆっくりと上体を起こした。

 特に体に支障はない。立ちくらみも大丈夫そうだ。

 欲を言えばもう少し膝枕を堪能していたかった……

 

「えっと、試験は……」


 訪ねた俺に、トーキスさんはため息を一つ。


「仕切り直して再スタートだ。」


 呆れたように腰に手を当てて俺を見下ろすトーキスさん。


「もっと頭使えよ。瞬殺されてどーすんだ…話になんねぇ」

「す、すみません…」


 身も蓋もない言われようだが、自覚はあるためぐうの音も出ない。


「もう少し粘って下さいね? でないと僕達も張り合いがありませんから」


 可愛い笑顔でキツイ事言うな、セイロンさん…


「七戸、今のままでは何度やっても同じだ」


 崇影が俺の目を真っ直ぐ見つめてそう紡ぐ。

 それは、俺も同感だ。


「だな…作戦会議だ。」


 崇影と俺は視線を合わせて頷き合う。

 それを見たトーキスさんが「なら少し時間取ってやるよ」と意外にもサービスタイムを提案してくれた。


「次に俺ら『鬼』が動くのは20分後。それまでに話まとめて対策してみろ」

「楽しみにしてますね」


 トーキスさんとセイロンさんにそう言われ、俺は崇影に手を引かれて立ち上がった。

 現状、怪我はしていない。問題無く動けそうだ。


「行くか…七戸」

「あぁ!!」


 俺達は並んで駆け足でその場を離れた。


 再挑戦だ。

 行き当たりばったりは通じない。

 先程の反省を活かして何か有効な手を考えなければ……

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