32.ルール説明すんぞ②
「俺らは隠れたお前らを探し出して攻撃する。…っつっても流石にハンデは必要だからな。武器は使わねぇ。」
言いながらトーキスさんは両手を広げて『丸腰』アピールをする。
なるほど…道理でトーキスさんがいつも背負っている弓が見当たらないわけだ。
けど武器って…セイロンさんは?
俺はふと疑問に思い、尋ねてみることにした。
「セイロンさんのあの蔦みたいなやつは武器の一つですか?」
俺はセイロンさんの戦闘スタイルをよく知らない。
初めて出会った際にトーキスさんの攻撃を蔦で退けていたのは見ていたし、特訓を受けていた崇影の話によれば蔦による拘束で相当痛めつけられたとのことだ。
ということは、セイロンさんのメインの攻撃は蔦なのではないかと推測しているのだが……
俺の問い掛けにセイロンさんは目を丸くした。
「…これですか?」
セイロンさんの言葉と同時に、突然地面から蔦が生えだし、俺の体を這い上がって来る。
「うわっ!!」
急な出来事に俺は思わず飛び上がった。
どこぞのホラーゲームみたくゾンビの手が地面から生え出たのかと思った……
「すみません、驚かせちゃいましたね。」
セイロンさんがそう笑うと、あっという間にその蔦は解けて地面に帰っていく。
俺の心臓は思いがけない出来事にバクバクと大きな音を立てている。これ、めっちゃ心臓に悪いな……
「これは、僕の能力…体の一部のようなものですから武器には入りません。」
にっこりと微笑んで言うセイロンさん。
つまり…その攻撃は使用可ってことか!?
それ結構チートだと思うんだけどな……怖…
いや、待てよ。
「じゃあセイロンさんの武器って…?」
そういえば見たことも聞いたこともないな、と疑問に思って尋ねると、セイロンさんは懐から長い棒のような物を取り出した。
ガラスのように透き通った、長さ30センチ程度の筒。その周囲には蔦植物が模様のように巻き付き、均一に穴が空いている…多分、横笛だ。
「笛ですか…?」
「俺も、師匠の武器を見るのは初めてだ。」
崇影も興味深そうにそれを見つめている。
「笛って…どう使うんですか?」
素朴な疑問を口にしてみる。武器って言ったら剣とか槍とか…そういう物を想像していたのだが…笛は武器じゃなくて、楽器だよな…?
殴るのか? 投げるのか? それとも超音波?
しかし、俺のその言葉にトーキスさんが妙な顔をした。
「…ソレ聞くのか?」
「え?」
「止めとけ。ドン引きするぞ…」
トーキスさんのその反応…どういうことだ?
ドン引きするって一体……
混乱する俺にセイロンさんは微笑む。
「試しにやってみますか?」
「やめろ、アホ!」
間髪入れずにトーキスさんがツッコミを入れた。
え? 何? 何で??
訳が分からない。
隣を見ると、崇影も不思議そうに二人のやり取りを眺めている。
どうやら弟子である崇影もセイロンさんの笛については何も聞かされていないようだ。
「収拾が付かなくなるだろうが。試験どころじゃなくなっちまう」
「そこは、トーキスが何とかしてくれるんじゃないんですか?」
「勝手に人の仕事増やすんじゃねぇ!」
「勝手に僕に崇影さんの修行を押し付けたのはトーキスですよ?」
テンポの良いやり取り。
なるほど、確かにこのノリは長年の付き合いが無ければ出来ないやり取りかもしれない。
仲良しってのは本当なんだな……
そんなことを思いながら二人の話を聞いていると
「んだよ、テメェ嫌だったのかよ?」
とトーキスさんが小さく尋ねた。
すると、セイロンさんは満面の笑みを浮かべた。
「まさか、むしろ感謝してます。おかげで崇影さんのことをとても好きになりました。」
……え?
……何だって?
今聞き捨てならないフレーズが聞こえたぞ……
俺は勢い良く崇影の方を振り返る。
「崇影…いつの間にセイロンさんとそんな仲に…!」
羨ましいぞ!! 何だ「とても好きになった」って!! 特訓と称して二人で何をしてたんだ!?
……だが、当の崇影本人はキョトンとしている。
「そんな仲とは何だ? 師弟関係のことか?」
……コイツに限って…修行中にイチャイチャするなんてことはないだろ。
冷静な俺がそう突っ込みを入れる。
それに、俺の言わんとすることを全く理解出来ない様子で不思議そうにしている崇影を見て…何だか拍子抜けしてしまった。
「オマエはまたアホなこと言ってんじゃねぇよ!」
俺の頭が冷静になった所で、ボカッとトーキスさんに遠慮なく叩かれた。
「痛!」
この人は毎度突っ込みが強すぎるんだって!!
もう少し加減してほしいんだけどな……
「すみません、話が逸れてしまいましたね……僕の武器は、所謂マインドコントロールを行う物です。笛の音で他の生き物を操ることが出来るんです。」
仕切り直してセイロンさんがそう教えてくれる。
「マインドコントロール……それって、生き物なら何にでも効くんですか?」
だとしたら確かに危険だ。怖すぎる。
セイロンさんは「誰でも、とはいきません」と笑った。
「相手の精神力次第ですね。トーキスには効かない。でも…」
そう言いながらセイロンさんが俺にそっと近付き、俺の顔を覗き込んだ。
「七戸さんになら、効くと思いますよ?」
「……っ!!」
破壊力抜群の美しさと可愛さ。
そんな仕草で「洗脳しちゃうぞ」宣言はズルいだろ!!
俺は思わずたじろいで数歩後ずさる。
「遊びすぎだ、セイロン。幸木もコイツに翻弄されてんじゃねぇよ」
トーキスさんがセイロンさんの腕を掴んで強引に引き戻した。
セイロンさんは「すみませんね、つい」と楽しそうに笑っている。
洗脳の笛が無くても既に俺はセイロンさんのペースに呑まれている気がする……
怖い……森の主、マジで怖すぎる……
「本題に戻すぞ。この森の中でのダメージや怪我に関してはセイロンが治療すっから心配はいらねぇ。っつっても、全てのダメージを無かったことには出来ねぇし、死んじまったモンは復活出来ねぇから肝に銘じとけ。」
「死…!?」
「承知した。」
動揺する俺を気にする様子もなく崇影は二つ返事だ。
マジかよ……
え、試験って、もしかして実質殺し合い?
いやいや、まさか。
けど…そのくらいの覚悟で挑まなければ命を落とす可能性があるということなのかもしれない。
「オマエらがクリア出来るまで何時間でも、何日でも付き合ってやるから有り難く思えよ。ちなみにオマエらもどっちかが潰れた時点でゲームオーバー、そこで仕切り直しな。何度でも挑んで来い。」
「えぇ!?」
ちょっと待て……そんな話聞いてないぞ!!
つまり、今日中に帰れない可能性もあるってことか!? いやむしろ、今日中にクリア出来ない可能性の方が高くないか!?
下手したら俺はクリア出来ないままこの森でミイラに……いやいや!! それはダメだ! 絶対にクリアするしかない。
「あの、隠れ鬼って言っても、この森の中にいる以上…森の主さんに見つからないようにって不可能じゃないんですか!?」
「不可能、ではないですよ」
俺の問い掛けにセイロンさんが意味深に微笑む。
崇影が隣で「なるほど…」と呟いた。
って、何がなるほどなんだよ!? 俺には全然分からないんだが!!
「ま、隠れてもまず見つかると思って心の準備はしとくこったな。俺らとしても隠れんぼだけで終わらせちゃ面子が潰れっから、全力で見つけてやるよ。せいぜい時間を稼いでみろ」
時間を稼ぐっっつーか…トーキスさんかセイロンさんを倒すなんて、普通に考えて無理ゲーだろ……!
「頑張って下さいね」
セイロンさんがにっこりと微笑む。
とりあえず、この笑顔に癒されてる場合じゃないことだけは確かだ…可愛いけど!!
女神の顔した小悪魔だ、この人は!!
「大丈夫だ、七戸。勝機はある筈だ」
「崇影……」
肩に置かれた崇影の手が妙に頼もしい。
勝機……勝機か。そうだよな。
さすがのトーキスさんも不可能な課題を持ちかけはしないはず。
「ソラも、参加はしないけど陰ながら二人を応援してるよ!」
説明の時には一切口を挟まずニコニコしていたソラちゃんも、側へ来てそう励ましてくれる。
「試験の間は、ソラがセイロンの代わりに森の見張りしてるから森のことは心配しなくて大丈夫! 二人とも頑張って!!」
「ありがとう、ソラちゃん」
「全力を尽くそう」
俺と崇影がしっかり頷いたのを確認すると、ソラちゃんはフワリと空へ舞いそのままスウッと森の中に溶けるようにして姿を消した。
そうだな…ここで弱気になってる場合じゃない。兎に角全力を尽くして挑むのみだ。
「…絶対合格してみせます!!」
俺はトーキスさんとセイロンさんを正面から見据えて、そう高らかに宣言した。
これは自分への覚悟でもある。
「そう来ねーとな」
トーキスさんがニッと笑う。
「それでは、僕たちはここで十分程度待ちますから、お二人はその間に隠れて下さいね。」
セイロンさんが穏やかにそう告げる。
俺と崇影は顔を見合わせて頷き、同時に地を蹴った。
一先ず鬼のいるこの場から出来る限り離れなければ。
いよいよ本番、スタートだ。




