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32.ルール説明すんぞ①

 早朝のカペロ便は予想通りガラガラで、俺達の他に乗客はほとんどいなかった。

 たまに年配の人間やドワーフが乗ってくるが、数区間ですぐに下車するため基本的には俺と崇影(たかかげ)の貸切状態だ。


 日本とオルタンシアの時差はよく分からないが、俺たちがドラセナを出たのは朝の4時半。

 そんな早い時間にも関わらず問題無くカペロに乗車することが出来たのだが…カペロの始発は一体何時なのだろうか?

 これが無料だなんて、マジでサービスが良すぎると思う。日本にもこんな乗り物が欲しい……


 俺と崇影はカペロに揺られながら、試験内容について道中にあれこれと予想を出し合った。

 朝食に店長に貰った堅めのパンを齧りながら。


 試験場が森だから狩り勝負なんじゃないか、とか、森中に罠が仕掛けられてて、それを切り抜ける特訓なんじゃないかとか、それとも二対二の真っ向勝負だろうか、とか……


 けど、正直どれもピンと来ない。

 そもそも真っ向勝負じゃ、俺らがあの二人に敵う筈もないことは火を見るより明らかだ。


 そんな実りの無い話をしているうちに…俺達はカルムの森へと辿り着いた。


 前回より到着が随分早かったように感じるのは、他に客がいなかったため途中で停車をしなかったからなのか、それとも崇影との話が楽しかったからなのかは分からない。


 目の前に広がる木々の群れ。

 カルムの森に来るのは随分久しぶりな気がする。

 

 改めて見ると、やはり大きくて壮大な森だ。

 サバイバル訓練で入った森とは規模も雰囲気も明らかに違う。

 荘厳なオーラがある…と表現すれば伝わるだろうか?

 

 森へ一歩踏み入った所で、ふわりと覚えのある花の香りが鼻を掠めた。


 この香りは………

 

 俺が顔を上げるとそこには掌サイズの妖精…ソラちゃんが嬉しそうな表情で浮かんでいた。


「いらっしゃい二人とも! 朝早くからお疲れ様!」


 久しぶりに見るその可愛い姿に俺は思わず頬が緩む。

 

「ソラちゃん、久しぶり!」

「久しぶりだね、七戸(ななと)!! また会えてソラ嬉しいよ!! それに…前よりカッコよくなったんじゃない?」


 ニコニコと嬉しそうに真っ直ぐ褒めてくれるソラちゃんの言葉に、単純な俺はテンションが上がった。


「マジで? 分かる!? 結構筋肉ついたんだよ」

「うんうん、顔立ちもキリッとした感じ!」

「うわ〜、そう言ってもらえるとマジで嬉しい」


 ソラちゃんのテンポとノリの良い返しについつい調子に乗ってしまう。

 相変わらず良い子だよな、ソラちゃん……コミュ力の高さも相変わらずだ。


「オイ、余計な世間話はそのくらいにしとけ。」


 ソラちゃんの背後から、すっかり聞き慣れたぶっきらぼうな声が響いた。


「トーキスさん! それに…セイロンさん!!」


 声のした方へ顔を向けると、トーキスさんとセイロンさんが珍しく肩を並べて立っていた。


 流石に今日は殴り合ったりはしていないようだ。

 …こうやって見ると身長差的にもカップルに見えなくも無いんだけどな。

 そういうのとは無縁なんだよな…この二人。


 正直…俺は未だにこの二人の関係性がよく分からない。

 ソラちゃんが言うには「すっごく仲良し」らしいし、トーキスさんが崇影の指導をセイロンさんに任せたことからも二人の間に信頼関係があることは間違い無いのだろう。

 けど、じゃあ何でトーキスさんはセイロンさんに攻撃を仕掛けたのか……そこが未だに腑に落ちない。


「ご無沙汰しております、七戸さん。遠いところ来ていただいてすみませんね…」


 少し目を伏せて遠慮気味に言うセイロンさん。

 長いまつ毛が朝日に反射して透き通って見える…相変わらず女神のようだ。


「いえ! またセイロンさんにお会い出来て光栄です!!」


 その神々しさを受けて思わずピシッ、と背筋を伸ばして言った俺の言葉にセイロンさんは笑い、トーキスさんは顔を顰めた。

 

 ……思いっきり引かれてるな。

 セイロンさんが女性じゃないとしても、綺麗なもんは綺麗なんだから仕方無いだろ。

 見つめられればドキドキするのは不可抗力!!

 これは年頃の男として自然な反応だ!


 トーキスさんは、はぁ…と呆れたため息を一つ吐き、腕を組んだ。

 

「時間勿体ねぇから、さっさとルール説明すんぞ。」


 来た!!


 遂に最終試験の内容が明らかになる。

 一体どんな無理難題を押し付けられるんだろうか?

 俺はごくりと生唾を飲み込む。


 だが、発せられたのは意外すぎるお題だった。


「一言で言うと、アレだ。『隠れ鬼』」


「…へ?」


 思わず間抜けた声が出る。


 聞き間違いか?

 

 そう思って次の言葉を待ったのだが……


「隠れ鬼って、知ってますか?」


 そう言ってセイロンさんがにっこりと笑った。

 どうやら聞き間違いでは無いらしい。


 …いや、隠れ鬼って…子供の頃やったアレか?

 隠れて、鬼に見つかったら逃げる。追いつかれてタッチされたら負けってやつ。

 子供の遊び…だよな?

 この島でも一般的なんだろうか…


「知らないな…そういう修行があるのか…」


 隣の崇影は難しい顔でそう呟いている。

 まぁ…そりゃそうだろうな。鷹は隠れ鬼なんてやらないだろ。けど決して修行の名称ではないぞ……

 突っ込もうか悩んでいると、トーキスさんが説明を続けた。


「ルールは簡単。俺とセイロンが鬼、オマエらは隠れて俺らに捕まらないように凌げ。俺らはお前らを見つけたら潰しにかかる。その際の反撃は許可する。」

「潰し…っ!?」


 どうやら俺の知っている隠れ鬼より随分過激で恐ろしい種目になっているらしい。


 分かりやすく隠れ鬼の名を借りているだけで中身は本気のやつだ……

 安心したような、逆にガッカリしたような…複雑な心境に包まれる俺。

 だがそんなことを考えているのは俺だけのようだ。

 話はどんどん進んでいく。


「手段は何でもアリだ。頭フル回転させて動け。武器もガンガン使って構わねぇ。オレらを殺すくらいのつもりで来いよ」


「は……?」


 その言葉に俺は思わず息を呑む。

 殺すつもりって…そんな物騒な…

 だがそんな俺の不安などお構いなしにトーキスさんは続ける。

 

「そんで、オマエらの勝利条件だが……」


 勝利条件。一番大事な部分だ。

 動揺している場合じゃない。しっかり聞かなければ!

 おれは口をきゅっと結んでトーキスさんを見た。


「七時間どちらにも見つからずに隠れ切るか、凌ぎ切ること。ただし…鬼である俺かセイロン、どちらかを『無力化』出来た場合はその時点でオマエらの勝利とする。」

「えぇ!?」


 俺は思わず大きな声を上げる。

 七時間って…簡単に言うけど……


「成る程、厳しいな…」


 隣の崇影も眉を顰めて何か考え込んでいるようだ。

 七時間耐久戦、もしくは鬼の無力化…トーキスさんもセイロンさんもめちゃくちゃ強いだろ? それを、たった三カ月特訓しただけの俺が倒せる筈もない。

 それは、かなりの無理難題に思えた。


 倒せないのだとすれば、七時間隠れて見つからずに過ごす? この二人を相手にそんなことが可能だろうか…?

 それもそれで無理難題に思える。


 これってまさか…クリアさせる気無い感じなのか!?

 いや、さすがにそんなことは無いよな…

 トーキスさんは厳しいが、本当に無理なことは要求しない。

 それは二ヶ月間共に過ごしてきた俺が一番よく理解している。

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