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23.はじめての休日

 その日、自室に帰った俺はオルタンシアのマップとパンフレットを取り出し、ベッドの上で広げていた。


 なぜそんなことをしているかというと……実は先程、店長から明日はオフにしてもらえるという話を貰ったのだ。

 貴重な休日。無駄な時間は過ごしたくないからな。

 どこへ行くか計画を立てて有意義に過ごす。それが、今の俺のミッションだ。


 ――数分前……


 風呂を終え自室へ向かっていた俺は、店長に呼び止められた。

 ──と言っても、この島では家庭で湯船に浸かる風習はないらしく、毎日の風呂はシャワーのみなのだが……

 


七戸(ななと)くん。毎日お疲れ様」

「店長、お疲れ様です。」

「カルムの森へ行ったり、慣れない知識を学ばされたり、毎日忙しくて疲れているのではないかい?」

「いえ、大丈夫です!」


 と答えたものの、本当は慣れないこと続きで物凄く疲労は溜まっている。

 そんな俺の内心を見抜いてか、店長は笑ってこう言った。


「明日、七戸くんは休日にしようか。仕事の都合上、なかなか崇影(たかかげ)くんと一緒に休みにしてあげることは出来ないが、休息は大切だ。それぞれ休日を取れるように調整しておくよ」

「え、いいんですか!?」

「あぁ。部屋でゆっくり過ごしても良いし、自由にどこかへ出掛けても構わない。まだ少しだがアルバイト代も渡しておこう。リフレッシュするといい」

「ありがとうございます!」


 俺は店長から初めての給料袋を貰った。

 オルタンシアでの初給料。

 日本の給料袋のような紙袋ではなく、皮の袋。

 まだ日数も少なく大した額ではないはずだが……とても重く感じた。


 そして俺はその袋を大事に両手で抱えて足取り軽く自室へと戻り、今に至る──というわけだ。


 少し久しぶりに北斗(ほくと)さんから貰ったガイドブックも取り出してパラパラと眺めてみる。


 島に来る前に貰ったこのガイドブックは、入国の際の案内や代表的な料理、島の気候などについては記載されているが、エルフやドワーフ等種族についての情報や、詳しいマップは見当たらない。


 大事な情報が抜けてるんだよな……そこがまた北斗さんらしいと言えば北斗さんらしいんだけど。

 そもそも北斗さんは、この島のことをどの程度知っていたんだろうか? 

 人間以外の種族がこんなに住んでいることも把握していたんだろうか? 

 知っていたら、行く前に説明くらいありそうな気もする……となると、やはり北斗さんもオルタンシアに来たことは無かったのか?

 ──いや、深く考えるのはやめよう。北斗さん(あの人)の頭の中のことは多分俺には一生理解できないのだから。


「お! 温泉施設あるんだ?」


 適当に開けたページで『島唯一の温泉施設』という文字が視界に飛び込んできた。

 いや、このガイドブックはあてにならないからな……と思い、島のマップと案内所でもらったパンフレットも開いて見比べ、確認をしてみる。


「温泉、温泉……あった、ここか。」


 どうやら温泉があるのは本当らしい。

 マップによると、この前トーキスさんに連れられて行ったカルムの森は、街を出てひたすら北へ向かった先。

 そして図を見る限り、あの森の面積は想像以上に広い。この前俺達が歩いたのは、森のほんの入り口付近だったのだろうということが予測できた。

 セイロンさんは、この広さの森を全て管理しているのか……? 改めてその壮大さに感服だ。

 俺が探している温泉は──それとは真逆とまでは行かないが、南西方向にあった。

 カルムまで行くのに数時間かかったことを考えると、この距離だとカペロに乗れば一時間ちょいで行けそうだ。


「せっかくの休日だし、行ってみるか……」


 近くに乗り場のマークが記載されていることから、カペロでの移動が可能だろう。

 一人でカペロを利用して移動するのにも慣れておきたい。

 マップ上を辿ると、温泉施設の少し手前に図書館があるのに気付いた。


「こっちは図書館があるのか……図書館も寄ってみたいな……」


 リネットちゃんに教えてもらった調合学の知識の補完に本を借りてみるのもいいかもしれない。

 俺は指で、ドラセナショップから図書館、温泉までの道筋を追ってみる。


「……あれ?」


 温泉より少し西の奥に『ネブラの洞窟』という表記があるのを見つけた。

 ネブラの洞窟──最近どこかで聞いた響きだ。


 どこだっけ……?

 記憶を辿り──思い出した。

 リネットちゃんが追加で欲しがっていた資材が採れる場所だ。


「図書館、温泉からなら歩けない距離でもなさそうだな……」


 店長はトーキスさんに採りに行かせる、と言っていたが、トーキスさんはまだ帰っていない。

 それに──採りに向かったとしても、いつ帰ってくるか分からないのなら、俺が少し足を伸ばしてゲットして来た方が早いんじゃないだろうか?

 帰りしなのリネットちゃんの言葉を思い出す。


『追加で頂きたい物があるんですが……鍾乳(しょうにゅう)石晶(せきしょう)と、炭苔(すみごけ)ってありますか?』


 必要なのは鍾乳石晶と、炭苔。

 名前から想像するに、鍾乳石晶……は普通に鍾乳洞とかにある鍾乳石のようなやつだろうか?

 炭苔……は炭みたいな見た目の苔?

 残念ながら今の俺の知識ではネブラの洞窟へ入った所で採取は不可能そうだ。

 今回は諦めた方がいいだろうか……と思いかけて、ふと気付いた。

 いや、待てよ。図書館に図鑑が置いてあるんじゃないか?

 図鑑で鍾乳石晶と炭苔について調べ、それぞれの特徴をメモしてからネブラの洞窟へ行けば、採取も可能かもしれない……


 ──うん、このプランはアリだな。


 いつも良くして貰っている店長への恩返しにもなるだろうし、リネットちゃんもきっと喜んでくれる。

 リネットちゃんともっと仲良くなるキッカケにもなるかもしれない。

 かなり良い計画なんじゃないか?

 そう考えるとワクワクしてきた。

 よし、明日はこのプランで動こう。店長には内緒で採取して、驚かせるんだ!


 俺は採取のための道具として、大きめのジップロックを数枚鞄に入れた。

 それから念の為、軍手とビニール手袋。

 鍾乳石晶の硬度が不明のため、素手で採取が出来なかった時のために小型の果物ナイフも忍ばせておく。

 洞窟ってことは、暗い可能性が高いな。コンパクトな懐中電灯も持っておこう。

 それから、温泉に入るための着替えとタオル。そうそう、忘れちゃいけないのがメモ帳と筆記具だ。

 マップとパンフレットもサイドポケットへ収納。


 一通りの準備を終えて満足すると、急に睡魔が襲ってきた。

 俺はそのままベッドに横になり、明日の行動をもう一度脳内シミュレーションしながら……そのまま夢の世界へとトリップするのだった。

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