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114.交渉決裂

 そして、現在──


 「破壊って、そんな簡単な話じゃないだろ!? 嘘つくにしたってもう少しマシな嘘つけよ!!」


 バルトが顔を真っ赤にしてそう捲し立てる。

 どうやらまだ状況を理解してもらえていないようだ。


七戸(ななと)は嘘をついていない」


 崇影(たかかげ)がそう加勢をしてくれるが、バルトの態度は変わらない。


「どうせオスクリタの大人達に何か言われたんだろ!? それでオレ様達を何とかオスクリタに帰そうと苦し紛れの嘘をついてんだ!」

「そういうこと!? 見損なったわ!!」


「……これは、守護者(ガーディアン)の判断だ」


 ポツリと言った崇影の言葉に、二人は動きを止めた。


「何だって?」


「俺達個人の意見ではない。守護者(ガーディアン)がこの鉱山を閉ざすと判断を下した。俺達はそれを報告するため、ここに来た」


 淡々と告げる崇影の声が静かな坑道内に響き渡る。


 バルトと雅月(がげつ)は先ほどまでの勢いが嘘のように押し黙り、目を見開いていた。

 守護者(ガーディアン)の存在は、オスクリタでも相当な影響力を持っているらしい。


「バルト、ヤバイって……さすがに守護者(ガーディアン)相手じゃ勝ち目は無いわ」


 焦った様子で雅月がバルトの裾を引っ張る。


「今ならまだ間に合うから、二人ともオスクリタに戻ろう」


 俺の言葉に、雅月は僅かに頷く。

 その瞳は恐怖と不安に揺れていた。

 よし、これで二人を傷つけることも無く逃がせる! 二人がいなくなれば、ミタール鉱山も破壊されずに済む!

 そう安堵したが、俺の方へ歩み寄ろうとした雅月の腕をバルトが掴んで止めた。


「待てよ、雅月」


 低く呟いたバルトの声。

 それは、およそ子供とは思えぬほど敵意のある鋭い音だった。


「バ、バルト?」


「お前は、オレ様と七戸、どっちを信じるんだ?」


 雅月を睨むバルトの瞳がギラリと光る。


「どっち、って……」


 雅月が戸惑い俺とバルトを交互に見た。


「ウチは、バルトが好き。バルトを信じてるよ。けどさ、七戸が嘘をついてるとも思えなくない? ……だからバルト、オスクリタに帰った方が良いって」


 そう言って雅月が白い手でバルトの手を包み込む。

 バルトを見つめる雅月の表情もまた……子供とは思えぬほど妖艶で、俺は思わずドキリとした。

 だがバルトはそんな雅月の手を振りほどいた。


「っザけんなよ!!」


「バルト……?」


「オスクリタに帰る!? 帰ったら今までと何も変わんねぇだろ!! 何のためにコソコソここまで逃げてきたと思ってんだよ! 簡単に帰れるわけねーよ!!」


「けど、このままじゃウチら殺されちゃうから!」


「雅月はそれでいいのかよ!? 結局……結局お前の覚悟はその程度かよ!!」


「バルト、雅月はあんたと一緒に生きるために一緒に帰ろうって言ってるんだ。雅月を責めるのは違うだろ?」


「うるせぇ! 口挟むなよ、七戸! そもそもお前が来てからおかしくなったんだろ!! 全部お前らのせいだかんな!!」


「え、ちょ……それはさすがに……」


 八つ当たりが過ぎるだろ、と思ったが、バルトの怒りは一向に収まりそうにない。

 魔族特有のプライドの高さがそうさせているのだろうか?

 

 俺達の話を理解し冷静さを取り戻した雅月に対して、バルトは説得しようとすればするほど余計に炎上していく。

 もしかしたら、魔力や戦力の高さとプライドの高さは比例しているのかもしれない。


「七戸、戦闘出来るよう構えておけ」


 崇影が俺にだけ聞こえる声でそう呟いた。

 バルトの周囲に、黒い霧のような物が生まれているのが見えた。

 戦闘経験のほとんど無い俺でも分かるほどの闘気……いや、もはやこれは殺意だ。

 いつ襲いかかって来てもおかしくない。

 けど……狭いこの場所では俺も崇影も元の姿で立ち回ることが出来ない。

 完全に不利だ。

 ただでさえ相手は魔族で……それもどうやら子供にしては強い部類に入るらしいというのに。

 

 こんな所でくたばる訳にはいかないからな……

 俺は周囲を見渡した。

 数メートル先に古そうなトロッコが置いてあるのが視界に入った。

 何ヶ所も()()ぎされており、恐らく今はもう使われていないのだろう。

 だが、動かないことは無さそうだ。


「崇影……もし、バルトが戦闘態勢に入ったら、あのトロッコで一旦退避だ。この狭さでは俺らに勝ち目は無いと思う」

「承知した」


 小声で呟いた俺の言葉に、崇影はしっかりと頷いた。

 『勝てない戦闘に挑まない』それは先日の試験の際にトーキスさんに教えてもらった最重要事項だ。この狭い空間で無理して戦うような無謀をしたとなれば、トーキスさんから大目玉を食らいそうだ。

 

「雅月……お前は、どっちの味方だ?」


 バルトがドスの利いた声で尋ねる。


「う、ウチ……ウチは……」


 雅月の声は震えていた。バルトには敵わないと分かっているからこそ、逃げたくても逃げられないのかもしれない。


「雅月! 俺達はあんたら二人を見捨てない。無事にここから逃がしたい。頼む、一緒に行こう」


 俺は戸惑う雅月にそう声を掛ける。


「な、七戸……」


 雅月の瞳が揺れる。

 逃げたい、生きたい、とその瞳が語っていた。

 恐らく雅月のバルトへの想い、それも本物なのだろう。だからこそ、自分だけ逃げるという選択は雅月には出来ない。

 だが雅月のその苦しさはバルトには伝わらない。


「バルト、七戸達はウチらを助けようとしてくれてるんだよ、一緒に行こう……ウチらの国をどうするかは、帰ってから考えればいいじゃん?」

「甘ぇんだよ、お前は」


 雅月の必死の説得も、バルトは聞く耳持たずに一蹴する。


「帰ってから考える? 帰ったら引き離されるに決まってんだろ。もうチャンスなんて来ないんだよ」

 

「でもこのままじゃあんたら二人ともここで消されるかもしれないんだぞ!?」


 俺の言葉に「ハッ」とバルトが笑う。


「そんな脅しに屈してたまるかよ。オレ様は誇り高き悪魔。そんなにここから連れ出したきゃ、力づくでやってみろってんだよ!!」


 バルトの周囲の霧が一気に増殖する。


「崇影!!」

「承知した!」


 俺の呼びかけに、崇影はすぐさま飛び上がる。

 この高さでは崇影は思うように羽ばたくことが出来ない。

 それでも──崇影は無理やり翼をはためかせ、両の(ひづめ)でトロッコを掴んで線路の上へと運んだ。

 バルトは、集めた黒霧を両手で凝縮させ、こちらへ向けて投げつけた。

 

 ──ちょっと待て。

 雅月を巻き添えにすることに対する迷いとか躊躇(ちゅうちょ)とか無いのかよ……!!


 俺は全力で雅月を横抱きに持ち上げ、崇影の待つぼろトロッコへと飛び込んだ。


「きゃぁぁっ!?」


 突然の出来事に雅月が悲鳴を上げるが、今はそんなことは気にしていられない。


 飛び込んだ俺の勢いで、トロッコが線路の上をガタゴトと動き出す。


 ゴォォン……!


 先程まで俺と雅月が立っていた場所の壁が、バルトの放った霧砲によって破壊され、パラパラと天井から石の欠片が降って来た。


「逃げんのかよ!!」


 バルトの叫び声がトンネル内にこだました。

 俺と雅月を乗せたトロッコは少しずつスピードを上げていく。

 前方でそれを引くのは、崇影だ。

 鷹にしてはデカい崇影の翼が、坑道の壁を擦って羽が辺りに舞っている……

 ごめんな、崇影……こんな場所で無理やり飛ばせて……

 俺は言いようのない気持ちで前方を飛ぶ崇影の後ろ姿を見つめた。

 恐らく、あいつの両翼(りょうよく)は傷ついてしまうだろう。


「待てよ!! オレ様と戦え!!」


 後ろからバルトの叫ぶ声がする。


「七戸……どうする気? こっちは出口じゃなくて採掘場なんだけど。行き止まりだよ」


 雅月が不安げに俺を見上げた。


「分かってる。けど、こっちに逃げる方が早く広い場所に行き着ける」

「広い場所……? まさか、バルトと闘うつもりなの!?」


 雅月が信じられないといった様子で息を呑む。


「バルトがそれを望んでるんだろ? けど、俺らはこんな狭い場所じゃ動けないからさ……せめて動ける場所まで来てもらう」


「ば……馬鹿じゃないの!? だって、あんたも弱耐症(じゃくたいしょう)なんでしょ!?」


「違うよ。雅月……俺は()()だから」

「は?」


 雅月の動きが停止した。

 

 崇影に引かれてガタゴトと大きく揺れながら、猛スピードで走るトロッコ。

 木造の継ぎ接ぎのボディがギシギシと軋み、今にも壊れそうだ。


 けど……

 俺は前方に視線を向けた。

 青白い光が見える。

 あそこがゴールだ。


 ドワーフ達の採掘場の一つ。

 今までの坑道とは比べ物にならない程広く、天井もある程度の高さが確保してある。

 ミタール鉱山の構造は前もって調べておいたため、ここならば、俺も崇影も元の姿で立ち回ることが出来ると踏んで、ここまで一旦退避したのだが……

 バルトは追って来るだろうか?


 俺はもと来た線路の先の闇へと視線を向けた。


 もし来なければ、この先にある非常出口から外へ出て、店長に報告をすることになる。

 そうなれば……バルトとは、もう二度と会えなくなるだろう。


 バルト、来い……!

 勝てる自信があるわけでは決して無い。

 それでも俺はそう願わずにはいられなかった。 


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