109.約束の線路
「……理由を教えれば、お前も仲間になるか?」
「いや、それは……内容にもよる、かな……」
俺の目的はこいつらをここから追い出すこと。だから仲間になれるとは思えないが、一先ず頭ごなしに否定をしては話が進まないだろうと判断し、敢えて言葉を濁してみる。
魔族の少年は眉を顰めた。こちらの真意を伺っているようにも見える
「……オレ様はここを拠点に全く新しい自由な国を作る。どうだ、協力するか?」
こいつ、説明下手か……!!
国を作る、はさっき聞いた。理由を説明してほしいって頼んだのに、新しい情報が何も入ってこないじゃないか。
まずはその『これから作ろうとしてる国』とやらについて詳細を聞き出す必要がありそうだな。
何か解決の手掛かりになる情報を引き出さないと……
「興味はあるよ。もう少し詳しい話を聞かせてくれないか?」
なるべく友好的な笑顔でそう返してみる。
すると、魔族の少年の瞳が微かに輝いた。
「そうか! お前、話の分かりそうなヤツだな。いいぜ、聞かせてやるよ!! オレ様の最高すぎる計画を!!」
この変わり身の早さ。子供らしいっちゃ子供らしいが、少し面食らう。
勢いに任せて話を始めようとするその少年に、俺は「ちょ、ちょっと待って!!」と慌てて制止した。
「……なんだよ」
魔族の少年は不満そうに口を尖らす。
「止めてごめん。まず先に名前を教えてもらえないかと思って………俺は七戸。幸木七戸だ。そんでコイツが……」
「崇影だ」
崇影の紹介は俺からすべきかと思ったのだが、崇影はすんなり自分で名乗った。
俺は一瞬ヒヤッとした。
……いいのか? その姿で言葉喋って。
怪しまれるんじゃ──?
「喋った!?」
「まさか、同胞なのか!?」
驚き目を見開いた魔族の二人の反応は、俺が心配したものとは大きく違っていた。
同胞──そうか、モルガン村長も崇影の変化を見て『鷹の化身』だと言った。
魔族から見れば、鷹の妖に見えるのかもしれない。だとすれば、少しは話もし易くなる。
崇影はそれを狙ってあえて自ら喋ったのか……
「名前を教えてくれないか」
否定はせず念を押すように告げた崇影の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「仲間だってんなら、話は早いな……」
「そうね、運命と呼ぶべき出会いかもしれない……妖と共にいるってことは、そっちの七戸って奴も『コチラ側』なんでしょ?」
『コチラ側』──オスクリタ圏の種族、という意味だろうか。
否定したいところだが、今はその勘違いを訂正しない方が賢明だろう。
口元にハンカチを巻いているおかげで、俺の顔は目元しか見えていないわけだしな。
俺と崇影は無言のまま言葉の続きを待つ。
数秒の沈黙の後、赤髪の少年が口を開いた。
「オレ様はバルト。見ての通り気高き悪魔族ってな。そんでコイツは……」
「ウチは雅月。妖……妖狐よ。」
隣の銀髪の少女が続く。
悪魔族のバルトと、妖狐の雅月。
まずは名前の情報をゲットだ。
「それで、バルトと雅月は国を作るって言ったけど……それってどういう話?」
なるだけ刺激しないように……優しい声音を意識しながら二人から距離を保ってその場に腰を下ろした。
崇影も俺の隣で脚を畳んで座る。
「すげぇデケェ話よ。聞いて驚け!!」
「但し、オスクリタの大人達に言わないって約束出来るならね」
興奮している様子のバルトとは対照的に、まだ僅かに警戒している様子の雅月が鋭い視線をこちらへ向ける。
オスクリタの大人達に知られたらマズイ理由があるってことか……
「分かった、オスクリタの住人には言わないよ」
俺がそう即答すると、バルトは嬉しそうに展望を説明してくれた。
彼の話はこうだった。
魔族の村「オスクリタ」では強さこそが正義。
そして強さとは血統の品質によるものと言われている。
そのため、悪魔は悪魔同士、妖怪は妖怪同士で番となり子孫を残すのが暗黙の掟なのだそうだ。
だが、バルトと雅月は、互いの種族の違いも認識出来ぬ頃から交流があり、成長するにつれて互いに惹かれ合うようになった。
オスクリタでは他種族との交流は認められても婚姻は認められない。
周りに大反対された二人は、オスクリタを出て自分たちの力で「新しい文化」を作ろうとしているのだそうだ。
「オレ様たちがこれから作る国ではな、種族に関わらず交流が出来るんだ。当然結婚もな! 最高じゃね?」
「純血でないと弱いなんて、ただの迷信よ。それをウチらが証明するの。ウチとバルトで番になって、誰よりも強い混血児を育ててみせる」
「な、なるほどな……」
色々と突っ込みたい要素は山盛りだが、一先ず話に納得したフリをしておく。
下手に逆上されてはかなわないからな。
にしても──
番、結婚……か。
俺は改めて二人の姿を見る。
薄暗くてはっきりとは見えないが、外見だけなら俺よりも幼く見える。
いや、今は縮んでいる俺の方が幼いだろうけど……
悪魔と妖の寿命はどのくらいだったか──普段関わりが無かったため調べた内容があやふやだ。けど、少なくとも人間の倍以上は生きるはず。
と考えれば、この二人も実質俺よりは長く生きているのかもしれない。
二人の表情から察するに子供のおままごと恋愛、というレベルでは無さそうだしな──
けど……どうしたらいいんだ、こういう場合は……?
「あの、さ……とりあえずここはドワーフ達の仕事場なんだろ。自分たちの街を作るのなら、別の場所を探した方がいいんじゃないか? 別にここでなきゃいけない理由は無いだろ?」
遠慮がちにそう提案してみる。
だがその言葉にバルトは眉を吊り上げた。
「はぁ!? ドワーフの仕事場だから別の場所探せって? 貴様はとんだ腑抜け野郎だな! 欲しいものは力で奪う。それがオスクリタのやり方だろ? 返してほしけりゃ力で奪い返せばいい。それが出来ねぇってんなら、ここはオレ様が勝ち取ったも同然!」
「えぇ……」
至極普通の提案をしたつもりだったんだが。
どうやら洞窟の向こうとこちらでは価値観に随分と違いがあるようだ。
バルトに続いて雅月も口を開く。
「それにね、ここはウチら好みの陽の光が届かない場所。一から場所を作るより、ある物を上手く利用する方が効率がいいでしょ?」
「いや、だからそれはドワーフの人達がこの場所を作り上げたからで……」
「七戸」
俺の言葉を遮ったのは崇影だった。
「お前の主張はもっともだが、オスクリタの住人にその意見は通じない。下手に口論になる前に一度報告に戻った方がいい」
耳元でそう助言され、俺は小さく頷いた。
そうだな……オスクリタ、魔族達についての知識が乏しい今の俺に容易に解決できる問題ではなさそうだ。
ここは下手に踏み込まず、一度店に戻り店長に相談すべきだろう。
「とりあえず、バルトと雅月の言いたいことは分かったよ。今日の所は一旦帰ることにするけど……あんたらはしばらくここにいるんだろ? もう少し話聞きたいから、また遊びに来るよ」
動揺は隠し、努めて友好的に軽く紡ぐと俺は立ち上がった。
「変な奴ら……別に来たけりゃ勝手に来れば。オレ様は寛大だからな。お前達もバルト王国の国民として歓迎してやるよ」
どこか誇らしげに言うバルトの声色は穏やかだった。
さっき声を荒げたばかりだというのに、こうも感情が一瞬で変わるものなのか……
彼が子供だからなのか、魔族の特徴なのかは分からないが、何とも掴みにくい。
俺は脳内のメモにバルトと雅月の様子を書き込み、崇影と並んで線路の上を戻ることにした。
一旦モルガン村長と合流して、早々にドラセナショップに戻りたい。
解決のためには状況を店長に報告。そして、作戦会議が必要だ。




