過去
家に着いて、俺は母のいるリビングに向かった。
ただいま。と言うと、母は
「おかえり。」
と返事した。
俺は母さんに倒れたことを話そうと思っていたが、やっぱり心配をかけたくなかった。
「どうしたの?」
「・・・なんでもない。」
「そう。」
俺はリビングから立ち去り、自分の部屋に向かった。
自分の部屋に入り、バックをその場に投げて、制服のままベットに寝転がる。
俺が通っている高校のサッカー部は全国にその名を轟かせるほど有名で、インターハイの常連になっていた。
俺はインターハイに行きたくて、この高校を志望していた。勉強はからきしだった俺だが、幸い、中学の時、全国大会で準優勝した功績で、推薦で簡単に入学できた。そして、サッカーの実力も超高校級相手に充分に通用した。
そして、去年の夏。俺は一年生で唯一のインターハイのレギュラーメンバーになった。
レギュラーからはずれた先輩に妬まれる事もあったけど、実力を見せつければ何も言わなくなった。
そして、インターハイの一回戦。俺は試合中に倒れ、そのまま病院に運ばれた。
検査の為、そのまま入院した。
いくら調べても原因が分からず、三ヶ月が過ぎた。
そして、十月の終わりに医者から
心臓の病だと言われた。
治ることはなく、サッカーすることはおろか、走る事さえ禁止された。走ってしまう度に発作が起こり、寿命は短くなるからだ。けど、日常生活に不便は無く、走ることさえしなければ、天寿を全うできると・・・。
母は泣いていた。父も同情していただろう。見舞いに来ていた宏人も必死に慰めてくれた。でも、俺は実感がわかなかった。長い悪夢だと思っていたから。
そして、退院し、久しぶりに高校に行った。
文化祭は終わったけど、今度の球技大会は出ろよ。とみんなそう言った。俺は宏人の制止の言葉を聞かずに、走ってしまった。
発作が起こって、それを宏人が助けてくれた。
宏人に目茶苦茶怒られたのを覚えてる。その時、俺は初めて、「もう、走ることはできないんだ。」と理解した。
それから、退部してからすぐの俺は、サッカー部の活動を見たくなくて、授業が終わったら、逃げるように学校から立ち去った。
学校にもいたくなく、家にも帰りたくなく、やりたい事ができなくなった俺は、なぜか自殺の事ばかり考えていた。
本気で死のうとは思っていなかった。けど、首つりやビルから飛び降りて死ぬ事を想像していた自分がいたのは、本当の事だ。
そして、十二月になり、あのビルを見つけた。秋から建設が中止されていたビルで、内装だけ未完成。なんとなく、そのビルの中を見てみたかった。
建設途中のそのビルには簡単に侵入できた。階段を上り、最上階で見つけたのが、あの拳銃だった。
俺は「死ぬ事」という好奇心で、そこになぜ拳銃があったのか疑問に思わず、銃口を胸に向け、引き金を引いた。
拳銃に実弾は入って無く、空砲だった。
そしたら、馬鹿らしくなってしまった。さっきまで死にたいと思っていた自分が・・・。
それからは死のうとは思わなくなったけど、やりたい事もなく、俺はサッカー部の活動を未練たらしく見るようになった。
昔の事を思い出してみて、なんとも言えない気分になった。まるで、体が空っぽのような。いや、医者に病気のことを宣告されたときから、もう体は空っぽになっていた。
それに、今、気づいただけの話・・・。
「潮ー。」
リビングから母さんの声が聞こえてきた。
「ご飯にするわよー。」
ふと、時計を見ると、もう七時を過ぎていた。
「今、行くー。」
俺はそう言い、ベットから飛び起きた。
昔のことを思い出しても仕方ない。今の俺は、桐沢晶をどうするかと言うことの方が重要だ。そして、それも明日、桐沢晶と話してから決めれば良いことだ。
今日すべきことは、夕飯を食べる事と明日の世界史の予習だ。