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あと970万ガルド

「ちょっと失礼して、見せていただいても?」


アン様が頷いたので、ハンカチを取り出してからそっとつまみ上げる。

キンキンキラキラの宝飾が眩しい。センターの石のカットが素晴らしい。それを囲む周りの石もそれなりのカラーストーン。台座は金??

「凄いね、、、」

さすがのハル様も驚いている。

「そうですねえ、このセンターの石がダイヤモンドだとしたら、3億ガルドくらいですかね?学生に買える金額には思えません。家に、、侯爵家に代々伝わる家宝?にしては、加工が新しいような気がします。え、と、、うちのルーを呼んでもいいですか?」

「かまわないわ。」

「僕が、呼んできますよ。学生協でしょ?」

ウィル様が部屋を出て行った。


間もなくやってきたルーにハンカチごとネックレスを渡す。

「それでは失礼して、拝見させていただきますね。」

「・・・・・」

アン様が不安な表情を隠さない。まあ、びっくりするよね。

「これは、、、」

「これは?」

「センターの石は水晶だと思います。周りのカラーストーンは本物ですが、加熱してあるように思われます。台座の金が本物かどうかは、、ただ、少し本物にしては白っぽいかと。」

「ルーが売るとして、いくらくらい?」

「私が、売るとしたら、、、、20万ガルドくらいでしょうか?台座の金が本物としてのお値段ですが。ただ、、、このセンターの石のカットが、、、」

「そうなのよ。石は水晶としても、、、カットの技術は本物だわ。」

「イミテーション、てことか?」

「そこなんです。問題は。この宝飾品には鑑定士協会の鑑定書が付いているんです。さっき箱の底に見つけました。」

「つまり?」

「つまり、石は本物のダイヤであると鑑定士協会が認定した『本物』である、ってことです。」

「・・・これが本物のダイヤモンドだとしたら、、、3億ガルドは下りませんね。きちんと専門家に再鑑定をお願いしたほうが良いかと。」

ルーはいぶかしげな表情でそっとネックレスを箱に戻す。


「そうなのよ。石はいいとして、この技術、本物よね。」

「おい!石はいいのか??」

「鑑定士協会は、物凄く厳しいんです。父の代から少しづつ宝石工房を整えてきましたが、父も兄も協会の評価が厳しいのでよく泣いていました。ですから、少なくても、この鑑定書を作ったときにはセンターの石はダイヤモンドだったのかと思われます。」

私の話に隣のルーもうなずいている。

「どういうことだ?わかりやすく説明してくれ」

「これは実はよくある手口なのですが、もちろん私はやってませんが。

本物の石で鑑定書を取って、同じようなカットで同じような大きさで作ったイミテーションをはめて、売るんです。鑑定書付きなので、これがまた売れるんです。

売るときにはこういうんですよ。本当なら3億ガルド位の品なのですが、高貴な方の注文がキャンセルになって手数料も頂いているので、そうですねえ、500万ガルド位で格安でお譲りしますよ。ただ、キャンセル品なので、、そこのところを加味して、まあ、ご内密に。ふふっ、、、って、感じですかね。」

「詐欺か?」

「うーーーん、詐欺、ねえ、、、鑑定書をつけてしまったことが、そうなのかも。ただ、買った人が満足してれば家宝とかになって何年も明かされないだろうし。アン様は違和感を持たれたのかもしれませんが、贈られた人によっては、天にも昇る思いになるのかも。次男とはいえ侯爵様、その方にこんなにでかい宝石を頂いたわ!もうこれは結婚ね!!ってことになりますね。ふつうは。」


「・・・・・」


ウィル様の顔が暗いなあ、アン様が騙されそうになったので、心配なんだろうなあ。お母様がいとこ同士で、幼馴染なんだ、って言ってたし。

アン様は心底嫌そうに顔をゆがめている。それでも、彼女は美しいな。

ハル様は難しそうな顔をしている。

「で、これを寄こしたブースを連れてきて、絞ればいいか?」

「それは、、、悪手ですね。何も解決しませんよ。多分。買った本人も本物だと思っているでしょうしね。今頃、泣いて喜ぶアン様を想像して、ほくそ笑んでいる頃ですかね。」

「おい!」

「あ、、、すみません。まず、ハル様の預かりとさせていただいて、、、

ハル様のお母様はモーガン商会のお得意様でいらっしゃいますでしょ?あそこは手堅い商売をする、信用のおけるところですので、そこに、ハル様のお母様に直接持ち込んでいただきましょう。もちろん、鑑定書付きで。あとは大人が何とかしてくれます。学生が首を突っ込める組織ではありませんので。

アン様は、、、近々、ブース様から探りが入ると思いますので、、、沢山お誕生日プレゼントを頂いたので、順番にお礼の手紙を書いているのですよ~とぬらりくらりと時間を稼いでください。

どちらにしろ、結構な金額が動いているはずなので、ブース様本人より、候爵家自体の問題になると思いますね。」

「わかったわ、、ハル様、ハル様のお母様にもお手数をおかけしてしまいますが、お願いできまして?」

「ああ、早いほうがいいな。これから出る。」

「よろしくお願いいたします。」

ハル様はドアの外に控える従者に声を掛けると、出かけてくれた。

ご自宅が遠いのでおばあさまの屋敷から通っているらしいので、時間がかかるのかな?

アン様が見送りに玄関まで付き添ったようだ。


「お茶でも入れましょうね。ウィル様、顔色がいまいちですね。ルーも座ってて。」

一息ついてくれるように椅子を勧めて、お茶の用意に控室に入る。


「あの、、ウィル様、こんな時に何なのですが、、」

ルーが、持ってきたかばんから、きれいにラッピングされた包みを出す。

「注文いただいていたイヤリングと指輪が出来上がってまいりました。」

「ああ、、、、、、、、、ありがとう。」

「先日、ネックレスをつけられた様子を拝見させていただきました。とてもあの方にお似合いでございました。」

「うん、、、、、ありがとう。」

「このようなことを、私から申し上げるのもおこがましいのですが、、、

プレゼントは金額の問題とは、、限らないこともありますよ。」

「・・・・・」

「私が今まで頂いて一番うれしかったのは、大好きな方に作って頂いた花冠です。

その方とは、いろいろあって、離れ離れになってしまいましたが、最後に、、、大好きだったと言えればよかったと、、、今でも思います。昔のことですが。」

「・・・ありがとう、ルーさん。」

「・・・・・」


茶葉の蒸らしは、そろそろいいだろうか。

控室に入る日差しが少し傾いてきた。貴族社会は何かと面倒だな、と思う。


     


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