お菓子の国の魔法
目を開けるとそこは巨大なお菓子の世界が広がっていた。
大好きなケーキもクッキーも、ジェリービーンズもすべて自分の身長よりも大きい。
「わあ!素敵!」
スカートをひらひらとはためかせながらお菓子の間をすり抜けていく。
すると小さな妖精が近づいてきた。
「かなちゃん、ようこそお菓子の国へ。ここにあるお菓子はすべて食べていただいて結構ですよ。」
「ほんとにいいの?」
いつもは食べ過ぎるとお母さんに怒られてしまうのに、今日はいくらでも食べていいという。
かなちゃんはうれしくなってくるくると再びその場で回った。
「何から食べようかなあ?」
近くにあったケーキをぱくり。口の中に甘い香りが広がり、あっという間に幸せな気分にさせてくれます。
大きなクッキーも口いっぱいに頬張るとバターの香りが口に広がります。
「なんて幸せなの?私ずっとここにいたい!」
しばらくいろんなお菓子を食べながらにこにこと幸せに包まれていました。
お腹が満たされると今度は眠たくなってきました。
「どこかで眠れるところは…」
辺りを見渡すと、スポンジの上で気持ちよさそうに眠っている妖精を見つけました。
「私もそうやってみよう!」
スポンジの上に寝転がるととても柔らかく、ほんのり暖かくすぐに眠たくなりました。
甘い香りを嗅ぎながらいつの間にか眠りについていました。
どのくらい経ったでしょう?
目が覚めてもかなちゃんはお菓子の国の中にいました。
かなちゃんは段々と不安になってきました。
お母さんもお父さんもお友達もいません。
あんなにいいと思った甘い匂いもお腹がいっぱいの時には不安になるばかりです。
「おうちに帰りたい…」
そう呟くとすぐに妖精が飛んできました。
「なにを仰いますか。ずっとここにいたいと言っていたのに。まだまだ食べていないお菓子も準備してあります。さあ、行きましょう!」
妖精の言うことも少し怖くなってきました。
「嫌だ!私はおうちに帰るの!」
かなちゃんがどんなに走っても妖精は空を飛んであっという間に追いついてしまいます。
そしてついに捕まってしまいました。
「もっと一緒に遊びましょう!あっちにはみたことのないお菓子だってありますよ!」
小さな体でひょいとかなちゃんを持ち上げます。
そしてどんどん高く飛んでいき、パフェの器の上に来ました。
下を見るとかなりの高さがあります。
「嫌だ、降ろして。」
涙目になりながら訴えても聞く耳を持ってくれません。
そして妖精は降りて行ってしまいました。
途方に暮れながら中を歩いているとどこかから声が聞こえてきます。
「助けてー」
それはどうやら隣の器からでした。
器から身を乗り出して見てみるとそこには自分より年下の男の子が大泣きしているのが見えました。
助けなきゃと思ってもどうしたらいいのかわかりません。
とにかく隣の器に向かうために道具を探します。
大きなサクランボを頑張って揺らしているとなんとか倒すことができました。
細い茎の部分につかまって慎重に滑っていきます。
隣の器はパンケーキが載っていました。
「おうちに帰りたい。」
泣いている男の子も同じことを言っています。
「どうしたらいいか一緒に考えよう。」
二人でパンケーキの上に座り足をぶらぶらさせながら辺りを見渡します。
でも周りはお菓子がたくさんあるだけ。
「どこかに扉がないかな?」
男の子も段々に落ち着いて来ました。
「一緒に探してみようか。」
お菓子の国はとても広く、なかなか思うようには見つかりません。
探していると和菓子のゾーンにやってきました。
見たことのあるお菓子もあれば、どんなお菓子か想像できないものもあります。
少し食べてみるとしょっぱいものや優しい甘さのものがあって、さっきの洋菓子とはまた違う味がしました。
「おいしい!」
男の子も一緒に和菓子を食べました。
しばらく和菓子のゾーンを歩き回っていると男の子が「あれ僕の家にある!」と言いました。
近づいてみてもやっぱり家にあるものと同じようです。
器をよじ登り中に入ると、そこにはみたらし団子が3本並んでいました。
自分の身長と同じくらいの団子が3つ串に刺さっています。
一つを一緒に食べるとやわらかくてほんのり甘くて二人とも笑顔になりました。
一つ目を食べ終わるとドアに繋がっていました。
「あれ?これ僕の家のドアに似てる…」
扉をそっと開けると「けんちゃん、けんちゃん?大丈夫?こんなに汗かいて。悪い夢でも見てるのね」と優しい女性の声が聞こえてきました。
「ママの声だ!」
けんちゃんは嬉しそうに扉の中に消えていきました。
「私も扉を探さなきゃ」
一人になると途端に寂しくなりました。
「早くおうちに戻らなきゃ!」
少し歩くと洋菓子のゾーンに戻ってきてしまいました。
何もかも大きくてさっきまで気が付かなかったけれどよく見てみると家で見たことのある器を見つけました。
でも器が深くて、なかなか上がれません。
辺りを見渡すと筒状のお菓子が立てかけられているのを見つけました。
押してみると簡単に倒れ、そのまま器に引っかかってくれました。
これなら坂道を登れば器に入れそうです。
焦る心と反対に坂道は長く、丸いため不安定で少しずつしか進めません。
それでもなんとか淵に着くことができました。
中を覗くとそこには大好きなプリンが入っていました。
大好きなプリンに囲まれて嬉しいと思ったのもつかの間、大事な扉が見当たりません。
それに、食べて探すには相当な量が入っています。
「どうしよう…」
ふと思い立ちさっき使った筒状のお菓子の場所に戻ります。
そして思いっきり手を伸ばしてジャンプしました。
下がやわらかく思うように飛べなかったけれど、何とか先端を少し砕くことができました。
その破片をボートのようにして、食べられない量は乗せていくことにしました。
進んでも進んでも量が多くて進んだ気がしません。
それでも少しずつ進めていくとドアの上の部分が見えてきました。
「あ!これうちのドアだ!」
一部分が見えてきたことでやる気になったかなちゃんはスピードが上がりあっという間にドアの半分まで来ました。
でもまだまだドアは開きません。
顔も体もべたべたになりながら食べ進めていきます。
やっとドアの全体が見えるようになりました。
ゆっくりとドアを開くと中から男の子の時と同じように優しい声が聞こえてきました。
「かなちゃん、すごい汗かいて大丈夫?悪い夢でも見ているの?よしよし…」
「ママの声!」
なんだかすごく久しぶりに聞いた気分でした。
嬉しくなってドアの中に走っていきました。
目が覚めるとそこはいつもの部屋でした。
「かなちゃん、起きた?すごい汗かいてたね。お風呂に入ろうか。」
お母さんの優しい声です。
「うん。一緒に入る!」
Fin.