第4話 精霊
美と愛欲の神 ヴィーノスア様が登場します。
確か食べ物を抱えた残念女神… 果たしてどんな神さまでしょう~
精霊話と共にご注目ください~
「さてと、次は精霊についてだ。」
言うなりアポウロス様は展開していたホログラムを消してヴィーノスア様の方をちらりと見た。
どうやら神さまも役割分担しているらしい。人間味があって馴染みやすい。ヴィーノスア様は
食べている手を止め、ハンカチで口元を拭うと、ゆったりとした口調で微笑んだ。
(今の今までずっと食べてたんだろうか…)
呆れ半分だった怜だが、その目を見た瞬間その考えは吹き飛んだ。
「怜ちゃん初めまして、わたくしはヴィーノスア、ヴィーナと呼んでね ふふ。」
3柱が1神、美と愛欲の神ヴィーノスア様は美しかった。見た目もそうだが、どこか所作が
貴婦人という感じがして、慈愛に満ちた目をしている。この目で見つめられると不思議と安心する。
「怜ちゃんは、精霊というのを聞いたことはあるかしら?」
すっかり怜ちゃん呼びが定着しているのはさて置き、精霊は漫画やアニメでよく聞くので
存在すると言われれば、なんら不思議はない。魔法が存在するのだから精霊という存在は
すんなり受け入れられる。
「実際に見たことは無いけど、漫画とかアニメでなら聞いたことありますね。」
(魔法と精霊 同時に存在するのって、とんでもない世界線だな~)
ーーこの時、怜は知らなかった。真に世界に影響を齎すのは自分なのだということを。
「まず、精霊は基本属性7つに分けられます、無属性はありません。
精霊は魔力で育ち、基本的には精霊界と現実世界を行き来しています。
大量の魔力の集まる場所あるいは契約者の傍を好みます。精霊使いは精霊に魔力を与えることで
力を貸してもらうわけですね~」
カチャリ。 と音はしないものの、ヴィーナ様は何処からともなく現れた紅茶セットで
すっかりくつろいでいた。お皿には山盛りの見たことない、おそらく食べ物。 が盛られていた。
「それから精霊は魂の色を視ます。悪しき者は、契約は愚か近付けば魔力暴走を起こします。
精霊の悪戯ですわ ふふふ。」
(綺麗な顔でさらっと怖い事言ったな…これはあれだ、怒らせたらあかんタイプの女性だ)
怜は恐ろしく見る目が無かった。食べ物を沢山持ち歩いていた最初の印象から、ヴィーナ様が
一番安牌と考えていた。いまこの瞬間から、残念女神という認識を改めたのだった。
「それで精霊とはどうやったら契約出来るのでしょうか?」
怜は精霊が好きだった。
理由は簡単、契約は裏切らないからだ。聞いた時から是非とも精霊と契約したいと考えていた。
「ふふ、怜ちゃんはわたくしの加護で精霊を視る目をもっているわ。
契約したい精霊がいたら、魔力を与えて契約したいと願うの、
下級精霊まではそれで契約できるわ。中級精霊は…意思があるから相手が了承してくれたら
契約完了よ。上級は…怜ちゃんならひょっとしたら、ふふふ。」
【上級精霊は癖の強い子達ばかりだけど、怜ちゃんならぱぱっと契約しそうね~ うふふ
あの子達も、たまには住処から出て欲しいものだわ~】
魔力を与えて契約というのは正直予想通りだった。
ただ気になるのはどの程度魔力を与えれば契約出来るかだ。
アポウロス様に魔力操作を教わったお陰で、手に魔力を集めたり、
足に集中させたり、全身を魔力で覆ったり色々できるようになっていた。
僕は神さまの話を聞きながらひっそりと 否、ガッツリ練習していた。
ここで出来た方が遥かに時短で効率がいいと思ったからだ。
アポウロス様はそんな僕が面白いのかクスクス笑っていたが、何も言って来なかったので、
説明を受けている間はこうしてずっと魔力操作を練習している。
アポウロス様は加護で魔力量が多くなっていると言っていた。普通は加護なんて大それたモノ、
貰えないだろう。僕はアポウロス様の加護には期待しつつ、精霊との契約には大量の魔力が必要、と
頭の中にメモした。
「そうね、ある程度精霊力のある子達は自分の住処に居たりするわ。
空気の澄んでいる森や、自然豊かな土地で祀られていたり、
誰も近寄らない場所なんかに行ってみると、案外向こうから話しかけてくるわ。」
(契約したくば探せ、か。 とりあえず最初の目標が決まったな)
「契約というのは一体のみでしょうか?」
返答次第では、契約は慎重にしないといけない。僕の知っている漫画やアニメなんかは
複数契約して冒険してるイメージがあるが…
「ふつう(、、、)は一個体のみね、というか契約自体、膨大な魔力量が必要なの。
精霊階級が上がれば、求められる魔力も多いわ。契約者の魔力量が少ないと、
精霊も力を発揮出来ないからつまんないのよ~ 人族に精霊使いが少ないのは、
人族の持つ魔力量が少ないからなのよね~ その点、耳長族なんかは
個々の魔力量が多い、自然豊かな土地に暮らしていて精霊も住みやすい。
耳長族ほとんどが精霊使いで、一番精霊と近い存在と言われているわ。」
これには良かったと言わざるを得ない、僕はアポウロス様の加護があるし、
2体くらいなら契約出来ると信じる事にした。魔力量だって増えるかもしれないし、
仮に一体だったとしても、裏切りの心配が無い精霊は僕の安心材料になる。
そんな僕の心を読んだのか、ヴィーナ様は慈愛に満ち溢れた瞳で僕を見て微笑むと、
こっちこっちと手招きした。
「怜ちゃんにはわたくし達の加護があるわ。
心配せずとも、上級精霊とだって契約できる魔力を持っているのよ。」
ヴィーナ様の近くへ寄ると、ふわりと抱きしめられた。知らない花の香りがした。
花には詳しく無い、けどきっと僕の見たことない花だろう。控え目で独特な甘い香りが
僕を安心させた。
きっと、僕はこんな風に抱きしめられたかったんだ。ずっと寂しかった。
両親には褒められたことが無い、強がっていた自分はいつだって話を聞く側だった。
不意に一粒の涙が、乾いた僕の頬を伝った。
少しして、ヴィーナ様がクスリと笑った。
「ふふ、そんな怜ちゃんに、今から精霊召喚をしてもらいます。」
ヴィーナ様の一言により、僕の身体は色んな意味で衝撃が走った。
いかがだったでしょうか、女神さまの本質は意外だったのではないでしょうか~
次回『第5話 契約』
お楽しみに~