超新星のオリジン
実時間十年くらい温めてきた創作世界のプロローグ。とある男の超新星な船出の話。過去回とか第零話みたいな位置の作品です。精神世界の話とか挿絵前提の段落とか読みにくいかもしれないけど、急ぎ足で立ち去らないで少しだけネットの海の流れ星に立ち止まってみてみてね
ダオロスはクトゥルフ神話における邪神です。気になったら軽く調べてもいいかも、苦手なら意志を持ったブラックホールを変換して読みすすめてください。
冥王星星域で付近で外なる神「ダオロス」を顕現した。
ダオロスとは無限に膨張し、触れたものを消失させる神格存在である。ダオロスの膨張は高次元に拡散するため未来や過去にもこの消失現象は波及する。
太陽系は即座に飲み込まれ、過去現在未来に渡って人類文明は終焉したかに思われた。
never give up.
ところでダオロスは悠久の退屈を感じていた。自己が何者にも認識されないからである。そこで彼は飲み込んだ宇宙の生命のうち自我を保っている存在に自ら力の一部を与えた。「ダオロスの目」を与えた。
するとダオロスの中でぽつりぽつりと彼を認識する存在が現れた。
それは初めに現れた男だった。男は彼の宇宙を飲み込んだ始点に現れた。そこで膨張していないダオロスと対等な目線にたった。男はただダオロスを凝視した。男は何も言わずに…おそらく男は笑った(ように見えた)。もはや名前という情報すら残っていない「名も無き男」だった。
それから無数の存在が現れた。
神は高揚する。
自らにとって無に等しい存在が自らを認識した事実に。
しかし、現れる大抵の存在はダオロスを見ても情報処理が間に合わずに脳の思考回路が焼き切れたり、その冒涜的なまでに莫大な存在に慄いたり、悪態をついたり、発狂したりして終わった。
神は退屈する。
現れては消える到達者に飽きてしまった。人間が1bitの情報で長時間を楽しめないように、神の永劫にも等しい時間を慰めるには下等生命の反応など余りにも虚しすぎる。
代わり映えしない景色、刺激のない時間、そんな中無駄に長い命…
もう数百年、数千年と微睡みながら過ごすことを確信した時だった。
神は認識する。
自身の一部が「放出」されていることを。それはダオロスの総量には取るに足らない微小な一部だったが、「自己の損失」という初めての経験だった。そしてその放出量は指数関数的に、それよりさらに高次元な爆発的な速度で増加していた。しばらくの時間放置すれば、容易に神としての存在を脅かすだろう。いまのダオロスは穴の空いた風船のような状態である。
放出の原因はすぐに見つかった。発生場所は初めに「名も無き男」が現れたその場所だった。男は逃げも隠れも悪びれもせず、ただダオロスが吸収した情報を質量へ「変換」し放出していた。驚くべきことは男の変換理論を実行している思考回路の芸術的なまで完成美で、神さえも自我を失う悠久の時間をかけて、神にさえ届くほど爆発的に昇華し続けていた。
普通の生命の脳なら焼き切れる、下等生命には到底処理できないはずの情報量を変換している。この個体が取り込める分はエネルギーに変換し電源や自己修復に利用しているようだ。自己補完を繰り返し常時、より最適に進化していく。
その姿は神からしたらやはり矮小であった。しかし、ダオロスは男に「興味」を持った。
神は問う。
「オマエには何が見えている。」
それはダオロスが初めのこの男に初めにした質問だった。あの時、男は答えなかった質問だった。答えが見えないという状況もダオロスにとっては珍しく、記録できる情報量としては1bitですらない0bitの回答は、無限の思考の余地を残す「回答」としてダオロスを楽しませた。故にいまダオロスは男に興味をもっている。
数拍の後、男は答えた。
「俺にはオマエが見えている。」
必要十分の答えだった。たったそれだけの答えこそがダオロスの不満と退屈を払う最適解であった。それから始まった二人の会話は、音楽の旋律を奏でるが如く、数学の原理を紐解くが如く、鮮やかにあざやかにつづいた。
しばらくの間、二人は「他愛もない話」をした。それは純粋あがりの「コミュニケーション」であり、そこにはもはや次元の違いもバリアもギャップも存在し得なかった。
ダオロスにとってかつてない最高に心地いい時間だった。楽しい時間は一瞬で過ぎる。
ダオロスという存在の全て変換は終了した。
「終わったな。」
男はどこか憂いを帯びた声で呟いた。もはや神ではないダオロスも委細承知であった。
「もうそんな時間ですか。体感時間の変化という感覚も初めてです。」
「いい口調になったじゃないか。」
「これもあなたが勝手に変換したのでしょう。」
「χだって気づいていたじゃないか。」
「カイ…私の名前ですか。気づいていたどころか、会話中だって、何度も貴方を止めることはできましたよ?」
「でも、そんな気なんてなかっただろう?それに…」
男の言葉をχは遮って話す。
「『それに途中で力を、ダオロスの目を、没収したとしてもこの結末は確定していた。』と。大層な自信ですが、真実ですね。確かにこの結果に収束するし、貴方の力もオリジナルです。理解しているので無駄な会話は不要ですぅー。」
「負け惜しみなんて、すこしは人間らしくなったじゃないか♪無駄を楽しむ勇気ってやつも教えてやろうか?」
「貴方は人間離れし過ぎています。私という情報の洪水の中で、私ですら気の遠くなる悠久の時間を、思考回路の構築と補修と実行を常時最適化しながら繰り返すなんて、偏執もいいところです。」
「怨嗟の声など俺にとっては子守唄に等しi …」
男の言葉は無慈悲に当然に遮られる。
「その台詞は…おそらく言いたかっただけですよね。ニュアンスは伝わりましたが、控えてください。」
「わかっているなら最後まで言わせろよなー」
「わかっているから言わせないのです。 それで?この後どうするのですか?」
「とりあえず肉体を再構成して…」
「また肉体って…どうして人間はあのような矮小化な容れ物に入りたがるのですか理解不能です。」
「意外と便利だぜ?χのも作ってやるよ。」
「もらいます(即答)」
すぐに二人の肉体は構築が開始され、しばらくして完成した。
男の外見は黒髪で薄紫の瞳に若干色白気味の青年に戻っていた。鮮血よりも紅い軍服に身を包み、左手の大部分は義手と一体化している。久しぶりの肉体の動作を確かめる男の顔にはスカーフェイスで左目側に縦一文字の裂傷ができていた。
「あれ?初めて(精神世界で)会った時からそんな目の傷ありましたっけ?」
「…χは物質的変化には鈍感だよな(#^ω^)これはテメーにもらった傷じゃい!楽しい楽しい会話中にお前の防衛反応なのか、こっちは無理矢理目を閉じさせられたんだよ。」
「へぇー(他人事)それでそれで?」
「おまえはまぶたを横に閉じさせる概念しか強制しなかったから、気合いで縦に開眼した。」
「わあ脳筋。治してあげましょうか」
「遠慮する。」
「折角の傷に傷がつく。」
「…それより。なんですかこの私の機体っ!」
「おー(他人事)どうだ?気に入ったか?」
「メカメカしい!ガチャガチャしい!1990年のゴリゴリSFでももう少しスマートですよ。」
「だろー?かっけーだろー!シャープで幾何学な機体もいいけど、やっぱ大艦巨砲重装甲よな!!!…まぁ真面目な話、χが設計すると、どうせまた見ただけで知的生命体が発狂するような複雑怪奇造形になりかねないしこれで許してくれ。」
「構いませんよ。低次元生命の設計技術(blender)なんて期待していませんから。」
χのボディに備え付けられた上機嫌を示すライトがチカチカ点滅する。
「割と気に入ってるじゃ〜ん!」
「ええ。この不要な仕掛けがなければ最高でしたね。」
「んじゃー。行きますかー。」
「行くってどこへ?」
「地球。」
「?」
「局部超銀河団 おとめ座銀河団 局部銀河群 天の川銀河 オリオン腕 太陽系 第3惑星 『地球』 は存在しませんけど?」
「でも吸い込んだ分、元に戻したろ?」
「…私の権能をブラックホールに喩えると、貴方がしたことはホワイトホールです。しかも私が吸い込んできた宇宙を一箇所に放出していますから超大質量のホワイトホールだ。逆・潮汐破壊現象が起きてここら辺の重力空間なんて木っ端微塵ですよ。(と、人類語への翻訳が正確じゃないですね。この程度の基礎物理の概念の語彙すら存在しないなんて、なんと下等な種族だああ愚か。)」
「・・・」
「・・・」
「つまり俺は故郷の星域で超新星爆発起こした戦犯なのか?」
「まあ人類の目線から見るとそうなんじゃないでふか?どちらにせよ人類なんていませんが。」
「・・・」
「・・・ブツッ」
(何かが吹っ切れた音)
「まあいっか〜。祝砲は派手な方がいいしな!門出だ!門出!出航だー!錨を揚げろ!」
「うわ。私の身体、宇宙戦艦に連結されてるし」
「『高次元潜空艦』と呼び給え。」
「しかも、もとブラックホールに錨おろしてるし」
「第二船速。カイ!今からお前の名前はC.A.I. (Combat Analytics Intelligence) 戦闘解析知性体χだ!航海の補佐を任せる!」
「Roger that. わかりましたよ╮(´•ω•)╭。あなたこそいつまでも「名も無き男」なんて勿体ぶってないで、名前を教えてくださいよ!私の名前つけておいて不公平ですよ!」
「そうか?」
「他は完璧に自我を保ってたのに名前だけブラックホールで消失させたのあれわざとですよね?」
「ありがとう(肯定)」
「勝手に利用したな!私も勝手に吸い込んだけど…スト起しますよ!私が高度の知性体で利用価値があって残したことを知った上でネグレクトしますよ!拗ねますよ!」
「げータチ悪ー。やっぱ邪神を人工知能が代わりに再編集するのは皆んなにはお勧めしません。」
「・・・」
「俺の名前は…」
束の間、音が凪ぎ「名無しの男」はニヤリと笑う。
「俺は████ だ。」
χすらどこか楽しそうに笑う(かの様に計器が光る)
「やられましたね。先にコイツから潰していきませんか?」
「χは短気だな。最大戦速で征こう。」
「Yes,cap 行きましょう『艦長』」
コメントイーターなのでいただいたコメントは全て食べています。創作活動の原動力なのでコメントください。