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朝が来たら、また会おう。  作者: 柊 百世
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朝と、君隠し。

朝は好きだ。


朝は好きじゃない。


そう意見が別れるのが人間だ。


私は朝は好きだが、朝食は好きじゃない。

朝はなんだか食欲がないからだ。


朝の雰囲気は、澄んだ空気と子鳥のさえずりが

心地よく、そこに自分が立つだけで日頃のストレスなど一気に吹き飛んでしまうのだ。



これほど奇妙なものはない。


2014/5/28


今朝の朝食はパンだった。珍しく母親が起きてこないから、

不思議に思って部屋を覗いた。

びっくりしたよ。母親はそこにはいなかった。

それどころか家には僕1人だった。

ねえ、これなに??



パタンッ


私は勢いよく日記帳を閉じた。


今日は新学期が始まるから、急がなければ学校に遅刻してしまう。


今日という朝は、その時何かを消した。

何か が身近すぎること、ソレが私にとって大切になることなど、知る由もなかった。


今日から中学3年という肩書きを背負う。


校門付近で耳をすましてみると、

受験が始まる、修学旅行がある、なんてして同級生は皆同じ話題で煮えくり返っている。


その光景を横目に、ただ昇降口をめざし直進する。


ここまでが私の「朝」。

学校という区切りが始まれば、騒々しい教室に環境が変化する。そのせいで当然雰囲気も軽すぎて掴むことすら出来ず、クラスで孤立した存在に成り代わる。

そんなの朝とは呼べない。


「今年は_」


「みーもざっ!今年も同じクラスだね!」

「有華。」


今年は有華も同じだろうと独り言を呟こうとした時、ちょうど本人が来た。


「そうだね。」

なんて、愛想のない返事をする。

もともとクラスにも、学年にも馴染めず時には先輩か後輩かと間違われる始末もざらにあるのだから、こんな対人関係に特別愛想よくする必要もないだろう。

それに比べ彼女は俗に言う「陽キャ」。

愛想がよく、頻繁に笑顔が見られる。髪もツヤツヤで、話もおもしろい。


「春休み後だから、みんな可愛くなってるねー。中3にもなるとさすがに思い出残したくて、みんな恋人が欲しくなるのかー…?」

有華は周りを見渡しながら私にそう語りかけた。


言われてみれば、春休み前まではメガネだった女子がコンタクトに変わっていたり、男子の髪型がマッシュかセンター分けに統一されているようにも見える。


「受験が始まるのに。そんなこと考えてられるんだ。」


私の頭には勉強のことしか無いようだ。


「そっかぁ。受験生だもんね、あたしたち。ねえねえ、志望校決めた?あたしはあの駅近の高校に行きたくてさ。あっ…みもざは多分あんなとこより頭いいとこにいくよね……。みもざの学力、あたしも欲しいー!!」


つらつらと彼女は早口で私に向かってそう言ってきた。


「何のために勉強をするのか、分からない。だからモチベーションなんてないし、私もそこにしようかな。」


「ほんとに!?あたし、みもざが行く高校に合わせようかなって思ってたんだよねー!」


「そうなんだ。ほら、行くよ。ホームルーム始まっちゃう。」


颯爽と会話を終わらせ、人が消えてきた廊下を2人で並んで歩く。

この学校で過ごす今日は、これが最後。

なんなら最初である。


教室に入ると、2年間共に過ごしていたであろう人が沢山居た。

体育の組体操で一緒になった子、委員会が同じだった子。

部活でこの前表彰されていた子は、今年部長を務めるようだ。


その点私はなにもない。去年と同じように、席に座ってうつ伏せになるだけ。


別に人は怖くないし、フリなどではない。

会話をできる相手がいないだけだ。

陰キャなんかじゃない。


私の苗字は「浅瀬」だから、いつもデフォルトの席は1番前だ。

例年なら隣は「来栖」の有華だが、今年は知らなかった。


ちがう、知らない人じゃない。


「いない……。」


そこの違和感に強く胸を打たれた。

なぜ "いない" のか。

本来、「来栖」の次は番号順に見れば「喜田」なのだ。

そこの席に喜田さんは座っておらず、私の左斜め下に座っていたのだ。


それどころか、転校生も来る予定はないと先程女子たちが会話のネタにしていたはず。

なのに、そこに喜田は座っていないし、謎の1人分が存在していた。

座席表も間違ってはいなかった。


明らかに誰もいないのがおかしいのに、教室の生徒はそれが当たり前かのように過ごしている。


不審に思ったせいか、ホームルームの後もずっと、

その事が頭をぐるぐると巡っていた。


1時間目の数学が始まる頃、私はハッとした。


「いた。」


いたのだ。

隣の人、隣の男子が。

去年も、一昨年も、ずっといたのに。


「おはよう。」


彼は私を見てそう言った。

最初は分からなかった。私に挨拶をする人なんて見たことがない。


「…おはよう?」


2回目で気付いた。彼は私に言っている。


「……おはよう。」

すかさずそう返す。何故私は先程まで、彼を知らないような気分でいたのか。


"忘れていた"のではない。

いないと完全に認識していた。


このふたつはかなり違うニュアンスである。


彼は私の方を見て、ニコリと笑った後、再び

「おはよう。」

と、爽やかな表情で言った。


キーンコーンカーンコーン


「みなさーん、新学期だからって、授業はちゃんとするからねー!」


そう告げた数学教師、岬の言葉にえー、と文句が鳴り響く教室。

私の頭はそんなことよりも隣の男子でいっぱいだった。


何故。

センター分けじゃないから?

かといって、マッシュでもなく、ノーセットな髪型であるから……?


そんな甘っちょろい事に私は惹かれない。


彼は何者だ。

ほとんど初対面の女子中学生をここまで惹き付けるのだから、もはや相当の才能だろう。


私のタイプでは無いのに。


あなたは何者なんだ。


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