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君の僕  作者: 藤
6/12

僕だけがいない

 人のそれとは明らかに異なる視線は、獣の物に似ていると思った。

 今までに勿論感じたこと等なく、幼い空色はこの視線に体が強張って行くのに自分では気付いていなかった。


 そんな空色の両肩に優しい温もりが触れた。

 後ろなんて見なくても、解る。心さんだ。


 無意識に戸惑いが出ている空色の肩に優しく手を置いて大丈夫ですよ…と空色にだけ解るように、心は頭に直接語りかけてた。 不思議と落ち着きを取り戻した空色は視線の主の顔を見る。 何故自分が獲物を見る狩人と同じ眼で見られなければならないのか解らなかった。

 解らない以上、黙ってそれを受け止めてやる事は出来なかった。


 その時、担任である女性の先生がガン垂れている一人の少年の頭を机とディープキスする程に強く打ち付けた。

 これには流石の心さんまで驚いた。

 普通なら額が割れててもおかしくない威力だったのだから。


「何しやがんだくそばばあ‼」


 その少年は、何事もなかったかの様な傷ひとつない外見のまま怒鳴りつける。


 それを聞いていた先生は、無言のまま今度は背後に回り回し蹴りを後頭部に寸分の狂いもなく入れてくる。


「誰がくそばばあ? 先生、良く聞こえなかったから教えてもらっても良いかしら?」


 先生、笑顔が怖いです。

 教室の誰もが思った事を空色も思ったが、やっとの事でその言葉を呑み込んだ。

 危ない…この先生もどこか得たいの知れない危なさを醸し出していた。


「お前だよ‼このくそばばあ‼ そんなんだから未だに独身何だろう⁉」


 どこからかプチっと切れる音がしたような気がした。

 その瞬間、ゴゴゴゴと地響きがあり、先生の髪が逆立った。

 まるで何時もの事の様に回りの生徒が机を片付け出して、教室の中央にスペースが出来る。

 このスペースは、もしかしなくても…リングだろう。

 其にしても何故見ている大人は誰も止めないのか?


 出来たスペースの中央にはガン垂れて少年と先生が向かい合って立っている。

 その姿は荒れ狂う広野で向かい合うガンマンの様だった。

 最初の一撃は少年からだった。

 と言うより、先生からは動こうとする気配がない。


 背中から羽根が生えると、宙を舞い上段から拳を振り上げる。 先生は、それを柳が風を流すような動きで受け流した。 素人の空色から見ても、当たり前だが力に差は歴然だった。

 この時の空色には解らなかったが、ここは姿が幼いから子供でも、ましてや弱くもない。

 現にこの少年事、烏天狗の疾風は人間の大人よりはずっと強かった。

 ただ、先生が強すぎたのだ。何度かの攻防の末、先生が動きを見せた。

 咄嗟に空色が走り出す。

 危ない‼…何故かは解らなかったそう感じたからだ。

 倒れいる疾風の前に庇う様に立ち先生を精一杯睨み付ける。 疾風からは空色が小刻みに震えているのが解った。


「……お前…」


 疾風が聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。


「空色君、そこを退いてくれるかな?先生、そこの疾風君に用事があるの」


 言葉こそ、声色こそ優しいが、その声がただ優しいだけでは無いのは、もう空色にも解っていた。


「嫌です‼…」


 精一杯両手を広げて震えながら強がる空色の前に、一部始終を見守ってきた心が出てくる。


「家の空色を脅すのは止めて頂けます?」


 心の声で空色から緊張が溶けていく。

 外野からすれば、何故に最初から止めないのか?と疑問が残るが、そこが心のブラックなところであり、止める必要がない、ここのルールなのだと知ったのは随分と後になってからだった。


 これが、俺と俺の大事な家族と将来に渡り一番の親友になる疾風、そして友達との激しすぎる出逢いだった。


 その一見があり、疾風に偉く気に入られてしまった空色だったが、なぜそんなに気に入られているのか、とんと解らなかった。 特別な事などした覚えが無かったから。

 妖怪である疾風と普通と人間である空色の感覚の違いだが、純粋な人間と接点がない疾風にとっては脳天を鈍器でかち割られる位の衝撃があった。

 タイマンに口を出すものは御法度、それも会って間もない奴が仲間でもない奴を守ろうとするなんて、妖怪の世界では有り得ないことだ。


 騒動があった日はそのまま家に帰り、夕飯の席で待っていた月さんに一部始終を話した。

 月さんは豪快に笑うと、少しの沈黙の後にぼそりと、


「……鍛えて見るか…」


 間違いなくそう呟いた。


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