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君の僕  作者: 藤
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僕だけがいない

 空色が台所に自分の食器を片付けに 行ったのを見計らって心が口を開いた。


「同年代の子供なら…もっと食べられるでしょう…今まであの子はろくに食事など…与えられていなかったのですね」


 悲しげに心は空色の向かった方向を見詰めた。


「これから嫌でも食べさせられるだろう?…心お前にな…」


 にやにや笑うその奥が…其だけの人では無いことも心には解っていた。


「そうですね…腕によりをかけなくては」


「これから先……あの子に与えるものは全て幸福のみだ…」


「何だか…私を拾って下さった時を思い出します」


 そう、心もまた月に救われた一人なのだ。


「お前の方が素直じゃ無かった」


 じと目で睨んでも何処か優しい。


「私達は…ずっと月様と伴に降ります」


 愛の告白にもに似た感覚で伝える。

 その愛情が…恋情では無いだけで…家族の愛情が其処にはあった。

 誰よりも孤独を嫌うのは月の方だったのだから。


「空色と心は良い兄弟になれるよ…面倒を……見てあげて欲しい」


 何処か遠くを見つめながら月は呟くように言った。


「ええ…あの子が私を必要としなくなる…その時まではあの子も守ります…」


 心は月が見つめた先が…まるで見えている様に見つめながら…答える。

 始まりは…突然の必然で…それが、まさか想像も出来ない未来を引き寄せるとは、誰が想像するだろう?


 何時だって日常は呆気なく音を起てて崩れて行く。

 それを良くするも…悪くするも…チャンスにするもしないも自分次第なのだ。


 そう、この時…確かに俺は掴んだんだ。

 未来を…。


 初めての事は過ぎ去るスピードが通常より速いものなのか?

 俺が貰われてから既に一週間が過ぎようとしていた。

 心さんの手伝いをしながら…月さんにからかうわれる日常は楽しかったが、二人は俺に学校に通うように進めてきた。

 二人との日常だけで…幸せだったけど、普通を与えようとしてくれたから…まだ側に居たいとは言えなかった。

 今までだって学校に通ってなどいなかったのだから…気にしてくれなくても良いのに。


 生まれて初めてのランドセルは真新しく…誰の物でもない匂いがした。


「月さん…これは………」


「…………ランドセルだな…」


 真顔で答えてくるところがまた悔しい。


「…………知ってます!!じゃなくて…」


「月様…可愛いからって空色で遊ばないでください……」


 呆れながら…心がたしなめた。


「心さん…」


 ちょっとうるってくる。

 何時も助け船を出してくれるのは心さんで、この時も

 心さんは助けてくれた。


「学校に通うのは空色の歳では当然ですからね…私に命じ用意させたのですよ?」


「!!!」


 今度は月が慌てる番だった。


「お前!!……心!!バラすなよ!?」


 目の前には顔を真っ赤しながら慌てている月さんがいる。


「二人とも…有り難うございます!!」


 床につきそうな程頭を下げて下を向いたのは 泣き顔を見せたく無かったから…。


 月にはガシッガシッと頭を撫でられ、心には背中を撫でられる。

 ああ…幸福はこう言う事かと気付いた。


「転入の手続きはしてきましたから…明日から通いますよ?…と言っても明日は理事長と校長に挨拶するだけですが」


 ここは月さんと親交のある人が運営している学校で、後から分かったことだが妖怪も半数は通っているのだ。

 だから、多少の融通を聞かせてくれたらしい。


 真新しいランドセルを背負って,これまた真新しく揃えてもらった洋服に身を包み心さんに手を引かれながら小学校に向かった。


 正直、不安の方が大きかったけど、表情には出さない様に頑張った。

 心配は…かけたくない。


「有り難うございます…」


 声が震えては居ないだろうか?

 そんな心配が頭を締める。

 嬉しくない訳じゃないんだ…そうじゃないけど、不安が離れてくれない。


 この場所を離れてしまって…それでもまだ…………ここに戻ってこれるだろうか?


「……空色が慣れるまで、私が送り迎えをしますね」


 頭を優しい温もりが暖めてくれる。


 気付いてくれた!!

 不安な心を理解してくれた事が素直に嬉しかった。


 月さんに撫でられ、心さんにいつの間にかこぼれた涙を拭いてもらい…不安な心まで拭い去られた。


「さて……心、空色。私は出掛けてくるぞ!!」


 不自然に立ち上がった月に動じることなく心は声をかけた。


「お戻りはいつ頃になりますか?」


 俺がまるで夫婦間の会話だと感じたのは数年が過ぎてからだった。


 夫婦がどう言ったものかなんて俺には解らない。

 俺の親は夫婦では無かったから。


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