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君の僕  作者: 藤
2/12

僕だけがいない

 止めようとしても流れ出てくる涙で視界が歪む。

 何で…涙何かが流れてくるのか分からないけど…止める事も出来なかった。


 変なガキだと思われてはいないだろうか?

 目の前の女性にはきらわれたくなかった。

 元々誰に何を思われたからってどおって事は無くて…気にしたこと何て無かったのに…唯一自分を見てくれた人に嫌われたく無いなんて…そんなに軽い性格を当時の俺はしていたんだろうか?


「………名を覚えておこう…空色、この世には縁と言う物がある。今日,こうして出逢ったのは…私と空色には縁が有ったと言う事だろう…」


「縁…ですか?」


「ああ…だから空色も私を忘れるで無いぞ?…さて、家まで送ろう…また、先程の様なアホに会わぬとも限らぬからな…」


 月がそう言うと光と共に角が消えていた。

 果たしてどう言ったトリックかは解らないが俺への配慮であったことは、当時のガキだった俺にも理解出来ていた。

 小さな気遣いが心地好い。

 俺と彼女はどちらとともなく手を繋いで歩いた。

 家までの道は子供の足でも遠くない距離だけれど…その時間がとても大事だった。


 家の前まで着くと運悪く母親が男を送るところに出くわしてしまった。

 ああ…タイミングが悪い。

 まあ、男に見付からなかっただけましだろうか?

 俺を見つけ先程の幸せそうな表情とは一変し醜く歪む。


「空色…あんた!!あれほど私に迷惑をかけるなって言ったでしょ!?」


 案の定怒り出した母親の言葉を月さんが制する。

 今にして思えばあの男とはよほど上手くいっていたのだろう。

 何時ものヒステリックさとは違っていた。


「子供をこんな夜中に家から出した者が迷惑等とよくも言えたものだ…こんなものは迷惑とは言わん 」


 あの日…あの時…月さんは庇うように俺の前に立っていた。


「なっ!!!何も知らない他人が偉そうに!!…そんなにこの子が気に入ったのならあげるわよ!!…私だって好きで育てているんじゃ無いんだから!!!」


 ああ…この人には知られたく無かったのに…。

 当時の俺は…間違いなく…あの人の前で母親を恥じていた。

 不思議と悲しさなんて無くて…ただただ…情けなかった。

 自分がそれだけの存在だとあの人に解られてしまうのは…。

 だが…そのあと聞こえてきた言葉は予想を裏切るものだった。


「なら……空色は私が育てても良いな?………後で後悔等しても遅いのだぞ?」


 断って欲しいのか…このまま俺を放棄して欲しいのか…感情が複雑過ぎて分からなかった。

 ただただ…貰うと言う言葉では無くて…育てると言う言葉を使った月さんが…有り難くも…悲しかった。

 自分の母親は俺を物としてしか扱ってはくれないのに…唯一人として扱ってくれた人が……人に見えて人ではアラザルモノ…。

 俺は…どうして産まれてきてしまったのだろうか?


「欲しけりゃやるわよ!!…こんな子!!!」


「大切な者を見極める事も出来ぬとはな…………書類上の手続きは追って別のものを出向かせる………邪魔したな…空色……私と一緒に帰ろう?」


 あくまで俺の意思を尊重してくれているのが赤の他人とは…。

 差しのばされた手を握るのに不思議と不安も迷いも無かった………でも………悲しかった。


 人には生きていく中で運命を自ら選ぶ時があると言う。

 ならば………母親に捨てられて…鬼に拾われたこの日が俺の人生のターニングポイントだったんだろう。


 俺は…自分から選んだんだ…母親よりこの人を…。

 だから……誰を恨むではない。

 自分で選んだ事だから…。


「さあ…帰ろうか…空色」


 俺に向けられた微笑みが…歪んでいきそうな感情に歯止めをかけてくれた。


「…はい、宜しくお願いします…」


「ソナタは賢いな…」


 繋いだ手とは別の手で頭を撫でられる。

 多分初めてで有ろうこの行為が、永久に俺を繋ぎ止める鎖になった。


 どれ程歩いたろうか?

 其ほどの距離では無かったと思うのに、今まで見たことが無いお屋敷が目の前に現れた。

 そう…文字通り現れたのだ。

 多分、月さんと一緒じゃなければ辿り着く事も出来ない場所にこの日本家屋は建っていた。

 だって…一度だってこの屋敷を見たことが無いから。

 自慢じゃ無いが…家の回り半径3㎞圏は俺の庭で、どの家に何人住んでるかすら、ある程度把握していた。

 其なのにこんなに目立つ家が解らない訳が無かった。


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