第一話 目覚め
ここは、魔女の星。誰もが魔法が使えて、のんびりした世界です。
魔王も居ますが、勇者による討伐はありません。皆が平和です。
宮之前・紗耶香は冬山で滑落してあの世へ。しかし、なぜかミズホ王国の4女として転生しました。でも、病気で身体が自由にならない5歳の少女にです。毎日、侍女のイネの介抱もあって、リハビリに明け暮れ、1年後には歩けるようになりました。ゴムまりのような小さな身体を楽しみ、悪戯に明け暮れる毎日を過ごします。
そして、ある日、魔女の家から使いが来て、魔女見習いになり、4代目魔女に就任しました。
神様から使命を頂き、魔女として活躍しますが、のんびりと過ごしています。
農業が楽になる、収穫が上がる、おいしいものを作る。の3点を心にして、魔法を磨き、神様からの使命『皆を豊かにせよ』を果たすべく頑張っています。
目が覚めたら、見知らぬ天井が見えました。
身体を起こそうとしたら、動けません。言葉を口にしようとしても、「あああ・・」しか出ません。
ここはどこでしょう?。
私の部屋ではありません。
その前に、真っ白な世界で、男の子と女の子が、何か言っていました。
思い出せません。
叫びながら真っ白な世界へ落ちてゆく私。
夢なのか?記憶なのか?、定かではありません。
じっと天井を見ていると、何か思い出せるような記憶があるようで、無いようで。おぼろげながらある?。時々、走ったり、人と話をしたり、町を歩いたりしている夢?を見ます。
そして、先ほどから、頭の奥から声が聞こえてきます。
「あたしはサヤカ。3日前、死んだの。でも、神様があたしの身体を、あなたにあげてほしいって言われたの。こんな身体を?。寝たっきりの?。と思ったのに?」
(わからない。私はあの時死んだのでしょうか? ひょっとして、ここへ転生してきて、その前の人の声でしょうか? わからない)
「サヤカ、気が付いたか?」
そうだ。覗き込んだのは誰でしょう?。
その人の顔には悲痛と喜びが、交互に現れています。
「私・・・、どうか・・・・しましたか?」
話によると、3日ほど意識がなかったそうです。
頭の中では、曖昧な思いが巡るけれども、身体に力が入りません。
再び、うつうつとまどろみの中に入っていきました。
気が付くと、サヤカ・ミズホと言う少女と話をしていました。この身体の前の持ち主らしいです。そして、彼女と会話をしながら、日々が過ぎて行きます。
「サヤカ様の御髪がピンクがかった銀色になったことや、目の瞳が赤くなったことは、やはり熱のせいでしょうか?」とイネが呟いていた。
そんなある日、前世の記憶が少し戻ってきました。名前は宮之前紗耶香、15歳。
冬のアラフネ山に、友人のユズキとユズキのお兄様のアツシさんの3人で雪中を行軍していました。先頭は私です。真っ白な尾根で、突然の横風にバランスを崩したために、雪庇を踏んでしまったのです。落ちてゆく私に声を張り上げてくれた、ユズキとアツシさん。
そして、気が付いたら白い世界に立っていました。
しばらくすると、2人の子供が出てきて、
(すみません。宮之前・紗耶香様は冬山で滑落してお亡くなりになりました。神様があなたに、是非、力を貸してほしいと申しております。受けていただければ、魔女の星への転生となります。よろしくお願いします)と言った。
(ひょっとして、”転生きたーっ”って。まあ、よくわからないけれど、ゆっくり楽しめるのであれば、お受けしますと応えました)
そう? 私は、この世界に転生したのですか?。
”ゆっくり楽しめるのであれば”と言って、承諾した覚えがあります。
でも、この身体は厳しいです。
やせ細った手、動きの緩慢な足、寝返りも打てない力のない身体です。
でも、子供から人生がやり直せるのは、うれしいかも!。
神崎歴3505年の3月10日のことです。
私の世話をしてくれているらしい女の人の名前は”イネ”です。
床ずれしないように、再々身体の向きを変えてくれます。食事も、イネの手で口に運ばれ、何とか咀嚼して嚥下しました。大変ありがたいことだと感謝の毎日でした。
でもこの身体で生きるのはかなり厳しいです。
あの滑落から生還しても、まともに動くことはできないでしょうし、リハビリも並大抵ではなかったと思います。五体満足で転生なんて、虫のいいことを望んではいけません。転生させていただいた、だけでも感謝しています。
前向き一途な紗耶香です。
なので、手をにぎにぎや足の指をにぎにぎや、ちょっとでも動かせるところを、頑張ってみました。
そして、3か月ほど経って、やっと床から出られるようになりました。
今は不自由ですが、こんな若い身体がいただけるなんて、感謝です。
宮之前・紗耶香はサヤカ・ミズホの頃の記憶を探ってみましたが、確かに外に出かけたことや、側仕えのイネやお父様など、部屋にやってくる人以外の記憶はありません。また、部屋と部屋から見える庭以外のところの記憶もありません。誠に生まれてこの方、床に臥せっていたらしいです。
私は、人格がチェンジしていることを悟られないように、紗耶香は注意深く、サヤカ・ミズホを演じました。
午後は、縁側に置いた籐の椅子に座って、庭の景色を見ながらお茶とお菓子を頂くのが日課に入ってきました。まだまだ、足元がしっかりしていません。
侍女が居て、身の回りの世話をしてくれる。こんな生活は夢をみることもありませんでした。身体が少し動かせるようになったものの、この3か月で抵抗なく受け入れている自分に驚いています。
季節は初夏。
寝床から見られた桜の花も、今は散って若葉が茂っています。
そして、庭の池には、錦鯉が優雅に泳いでいます。
静かです!。
虫の声と、こすれる葉音や風のささやきだけ。
父親は、時々顔を出してくれますが、母親の顔はほとんど見ません。
「お・お・ サヤカ 元気になったか?」と
時々、てまりや人形を手土産にと、覗きにきました。がっしりした金髪の優しい顔つきの人です。
豪華な服をきていますので、お金持ちなんでしょうね。
「サヤカは可愛いなあ」と笑顔を寄せてきますが、ちょっと怖い顔です。
そんな感じなので、父親は足繁く私の部屋に通ってきました。
それに反し母親は、なぜか、お顔を拝見したことがありません。居ないのかな?
後で知ったことですが、体調がすぐれないので実家に帰っており、実家はサハラ王国で、ここから馬車で2か月ほどかかるらしいです。それと、爺様と婆様、その上の曽祖父様、曽祖母様もいらっしゃるらしいですが、もちろんお顔を拝することはありません。よく会う家族は、お父様と、次女のユキネ、3女のアンズでした。
池の周りは、いろいろな木が植えられており、池の面に垂れ下がっています。
今は、秋。紅葉が綺麗です。しばらくしたら、水面に小さなもみじが浮かぶようになります。
東半分は芝生になっており、何時か?走り回れることを楽しみに、毎日体力づくりに励んでおります。
西にある池の一角に、木戸があります。そこを開けると何が見えるのでしょう?
(お母さん『恵さん』へ。雪山で遭難しました。すみません。心配ばかりかけて、結局死んでしまいました。お父さん、『突風に気をつけるんだよ』って言われたこと、身をもって悟りました。でも『後悔先に立たず立たず』ですね。よくわからない世界に転生しました。親不孝の報いでしょうか?病弱で寝たきりの少女にです)




