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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第二弾 贋作を愛した少年
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4


「とりあえず落ち着いて下さい 名前を聞いてなかったですね」


「……〝クロ〟」


「クロさんですね 改めまして 僕はチューです」


「……チャーさんですね」


「いえチューです…… こっちはハンネ」


「チャーさんとハンニャさん言いみゃーな? ちゃんと覚えたわぁ!」


「「 …… 」」


クセの強い言葉遣いでスムーズに会話が進まないチューとクロ

とりあえず細かいことは置いて本題に入ったのはハンネ


「絵が無くなったのはいつぐらいに気付いたの?」


「結構前だ いつもより開演時間が早まっとう聞いてただな

たーけぇ門が閉められたんでおかしなー思てたんよ」


「「 早めに閉まった? 」」


「んでウチも家の中へ帰らせりゃーてな

朝に気がつくと窓から覗ける絵がそっくり無くなっとったんだわ~」


「……」


おそらくクロが知っていることは全部聞けた


「それで絵を取り戻そうと街に?」


「当たり前だがねー!! 絵と言えば美術館って聞いとったが~ 一ヶ月前から見張ってたのよ~」


「一ヶ月前から?!! ご飯はどうしてたの?」


「〝イタスキャァ〟さんて園内で知り合ったイタチに 餌を恵んでもりゃーてました

夜な夜な彼は動物園を抜け出して来てな 日によって色んな餌を共有もうやーこにしよみゃぁた」


「イタスキャァさん……?」


またもイタチが会話の中に出てきたチューはそのイタチに興味を持つ

クロの情報から違和感を抱くハンネ やはりその日に限って早めに門が閉まった事を疑問視する


「動物園側に協力者がいるのかも……

美術館側のスタッフに買収されて 闇夜の内に絵を持ち出した……」


「動機は何だろうか?」


「予想の範囲だけど 本来仕入れる筈の別のジャッカールの絵を展示することが叶わなくなったとか

もしくはたまたま動物園に名画があることを知り 所有者が亡くなったのを良いことに横取りしようとした

前者が本当だったとして チケット完売の手前 後に引けず盗みに走ったという仮説も立てられるわね」


「……」


考えても答えにありつけないと判断したチューは とりあえずクロに提案する


「どっちにしても絵を人の手で管理されてない場所に放置しておくのは危険だ

ケースにも入れられてない裸の状態は 完成された一枚の価値を徐々に落としてしまうのも確かな話だ」


「……そしたらおみゃーは 盗人に渡すゆうだが?!」


「盗人と決まった訳じゃない だがこの絵を見に来た人達が後を絶たず美術館に集まってきているんだ

気持ちは分かるが 一旦ここは納得してくれないかい? 君のお母さんの形見を守る為でもある」


「……わかったよ 絵は消えて欲しくない」


チューは近くの電話の受話器を手に取り 警察に掛ける


『こちら警察署です』


「もしもし! 今街を騒がせているジャッカールの絵画を動物園で見つけたんですか……」


『……もしもし どうなさいましたか?』


「あっ……」


チューはうっかりと表情に出しながら

ゆっくりと受話器を一回寝かせ もう一度別の場所へと掛け直す


『もしもし?』


「もしもしミオお嬢さんですか?」


『チュー?!! もう心配したんだよ?!!』


「ご心配お掛けしました! それでですね 是非ともミオお嬢さんに協力願いたいのですが

……今から警察に電話して僕が言うことを伝えてくれませんか?」


『うんわかったよ……』


ミオが警察に絵の在りかを伝えたであろう数分後

サイレンの音を鳴らしてパトカーが動物園の手前に集まってきていた


クロは檻の中へと帰り チューやハンネと別れの挨拶を交わしている


「名残惜しいでもありますが…… まずは絵の状態と私達の安否を最優先しましょう」


「……」


クロの口数は減っていた

それでもチューは頭を下げてその場から離れることしか出来なかった


そして朝を迎え 案の定ジャッカールの絵は美術館へと運ばれていたのだった

ハンネは独自で調べてみると言い残して別れたきり連絡は無い

鳩時計の裏側に帰って来たチューも そのままベッドに潜るが寝付けないままでいる


ミオと両親は美術館側から日時の変更の知らせを受けて後日

元気の無いチューをミオの手で無理矢理連れ出され アオと共にまたあの美術館に向かおうとしていた




とある某所(普通の民家の二階の 飼い主が寝ている隣に置かれた机の上のケースにて)

向日葵の種をコップの端に刺したカクテルを受け取り モフモフの床材の上で寛ぐハンネ

彼女の知り合いが滑車を回して汗を流し終えると タオルを肩にかけて巣箱から頭をグリグリさせて出てきた


「贋作だな……」


「本当に?? ……私の口情報だけで判断できるの?」


「まずジャッカールの名画は国立の方に大半が展示されていることはハンネも知ってるだろ?

そのたった数枚の中でもサムサーラサンサーラは彼の遺作となり

唯一この世から姿を消した一枚でもある

おそらくそれを知った館内側が運良く動物園に飾られていた贋作に目を付けたのだろう」


渋い声で向日葵の種をかじる モフモフ隆々りゅうりゅうのお腹は光沢を纏っていた


「戦火の最中

自分の死期を悟った心情で描かれたこの名画は

紛失する前に見た者の全ての心に愛を与えたとされる伝説が残っている

ジャッカール本人が遠い昔に生き別れた恋人宛てにとも言われているが

そんな他人事で関係のない絵に万人が感動するという

なんともカタルシスを抱く感受性を与えられたらしい」


「ロマンチックと言いたいけど あの絵はそれほどラブロマンスは感じなかったわ

人数も多くて どちらかというと楽園に住む恵まれた生き物達って客観的に見てた……

自由という表現が口から出たわ その中に愛も含まれるんでしょうけどね」


「当事者にしか分からない人間の観点があるのだろう

言わばその時代を思わせる ある種の流行だ その時代を生きた人々にしか理解し難い想いが

あの絵から汲み取れた奇跡だったのだろう」



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― 新着の感想 ―
[一言] 「滑車を回して汗を流し」「タオルを肩にかけて」「渋い声で向日葵の種を囓かじる モフモフ隆々りゅうりゅうのお腹」 ↑え、何このキャラクター好き!!! 動物園もそうですが、いいキャラ多すぎま…
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