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「どうなってんだチュー!」
「美術館で警察沙汰となれば盗難ですかなぁ?」
鞄の隙間から見える範囲で現状を分析するチューは痺れを切らしたのか
「ミオお嬢さん! 僕たちを外に出して下さい!」
「えっ…… でも雨が降ってるよ?」
「構いません 僕もアオ君もすぐに屋根のある場所に移動できますので」
「わかった…… 遠くに行っちゃダメだよ?」
チャックを引いてヌルンと外に身体を出したアオの背中にチューがしがみついている
二匹は周囲から気にもされずに柵の奥へと侵入成功
館内の入り口を探している内に非常ドアの前へと辿り着いた
「こんな場所まで来て何をしようってんだぁ?」
「既にハンネが絵を見に来てるかもしれないからね 何かしら知ってるんだと思うんだ」
「ケッ!! こんなところまで来てあのハリ娘の顔を見なきゃいけねぇとはな」
「アオ君的にはミオお嬢さんとデート気分だったからね 悪いことをしましたよ」
「そんなんじゃねぇよ!」
どうやって美術館に入ろうか二匹は喧嘩しながら模索していると
そばに設置されているゴミ捨て場から声が掛かった
「結局見に来たのねあなた達」
「「 ハンネ! 」」
「どういうつもりチュー? 私の誘いは蹴ったのに雄猫とデートなんて妬けちゃう前に疑っちゃうわよ?」
「違う違う!! 僕たちはミオお嬢さんに誘われて付いて来ただけだよ」
「ふん~~ あんな幼い女の子にはホイホイ付いてって 大人の女性の誘いは断ったと?」
「大分勘違いされているようだねハンネ ……大体僕が美術館に来た理由は君なんだよ?」
「どういうことよ?」
すると三匹は何かに感づいて急いでゴミ箱の中に隠れる
蓋の隙間から警戒する彼らの先で 従業員達が煙草を吹かして非常口から出てきたのだ
「チャンス到来だぜチュー! 隙を見て中へ入ろうぜ!!」
「僕たちはハンネを探しに来たんだよアオ君 もう館内に入る理由は無いよ」
「っ…… そうか」
「あら…… 老若男女に加えて種族間を問わないバイセクシャル・チューさんは私をご指名?」
持ってきた小さい布きれで身体を拭いているハンネに チューは逃れられない汚名に冷や汗を掻く
「ハンネはここで何があったかは耳に届いているのかい?」
「まぁね…… 美術館のスタッフ達の話によれば カンガルーが例の名画を盗んでいったらしいわよ?」
「カンガルー? 野生なのか?」
「街中で野生のカンガルーなんて見たことないわよ だから最初は強盗団の名前だと思っていたわ」
「ふむ……」
「どうするの? スタッフ側は動物に美術品を盗まれたって警察に説明してるそうだけど
さすがに警察もそのまま鵜呑みにしてくれないから 外でお客さん達はまだまだ待たされるわよ
あなた達からミオって子に教えてあげて家に帰ったら?」
「そうだね すまないがアオ君 ミオお嬢さんにこの事を伝えて家族全員と先に帰っていてくれないか?」
「お前はどうするんだよ?」
チューはゴミ箱の中で見つけた 絵の修繕作業で使われていたであろう色の付いた布きれと
他に捨てられていた小型のバルブのハンドルと棒を全て組み合わせて傘を作り
「心当たりがある…… 僕は犯人を追ってみるよ」
「じゃぁ私も付いて行くわ せっかくの休日プランを台無しにしたカンガルーを見てみたいしね」
猫と鼠が二手に分かれて行動することになった
アオと別れたチューとハンネは引き続き情報を得る為
先ほどから灰皿の周りから動こうとしない従業員の話を聞くことに
「しっかしホントにカンガルーだったんですかねぇ先輩」
「配達業者の話ではだろう? 犯人と業者がグルだって線を辿ってもカンガルーはねぇだろう?」
「頭がおかしくなってますよねぇ どう見えたら人間をカンガルーと間違えるんでしょうね」
「じゃぁやっぱりカンガルーが盗んでいったんかなぁ~~ にわかに信じられねぇが」
「カンガルーはどっちに向かったって言ってたんですか?」
「このまま北に逃げてったってらしいぜ
……まぁこの雨で絵を盗まれていったんだ カンガルーに絵の保全なんて出来ねぇんだから
既に当の絵画もダメになっていると踏んだ意味合いで ジャッカールの絵はこの世から消えたって訳だ
俺らはお上からクビを言い渡されるだろうな……
館長が業者に全責任をなすりつけて相手会社も甚大な借金を抱えることだろう」
「保険は下りないんですか?」
「物が物だからなぁ…… さっき知り合いの画商と話したんだが
まぁ感情を表に出して〝ごめんなさいじゃ~すまされない!!〟って怒鳴ってたよ」
ある程度の愚痴を漏らしていた二人も中へと戻っていく
大した情報も得られない二匹だったが
「どうしたのチュー?」
「北には確か動物園があったよな?」
「確かに…… でももちろん警察も向かっているわよね?」
「館長の説明を聞いていた警察の反応からして総動員はありえないし
もし犯人がカンガルーだとして その動物園に絵を隠しているのなら たった数人の警官で探し出せるとは思えない」
「なるほどね…… だからって私達が行ってどうにかなるの?」
「動物園には何匹か茶飲みの知り合いがいる 実際に行って聞いてみよう」
チューとハンネは互いに気付いていない相合い傘で煉瓦の上を伝い
美術館のすぐ北側にあるという動物園へと赴いた