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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第一弾 氷と炎の使い魔達
4/41


食事を終えたミオは帰りの身支度を調えている

ラシーネはやっと女の子を家に帰せると思うと心にやすらぎを感じた


「楽しかったよミオちゃん」


「私も!! ……また来てもいい?」


「……ダメ ここはミオちゃんが来ていい場所じゃないから」


「イヤ!! また来る!!」


「これだけはちゃんと話を聞いて!! ここらは危ない所なの!! だから早く……」


会話を止めるラシーネ

徐々に大きく鳴る足音の集団が姿を現わす頃に

廃屋を包む炎がミオ達の逃げ場を封じる


「キャァーーー!!」


「ミオちゃん!!」


出口までもが燃えさかる炎でふさがれてしまった

そんな中 ハーメルンの前に放火犯であるネズミの一匹が出てくる


「久しぶりだねハーメルン・ペドフィリア 旅人を探すに一苦労だよ」


「誰なんだお前達は?!」


「遠い昔 小さな都市を追い出されたネズミ達を忘れたのかい? ハーメルンのホラ吹き事件……」


「っ!!」


「何が別の場所に移動して欲しいだ!? 人間にヘコへコして利用された裏切り者が!!

そのせいで環境が変わり いらん理由で死んでいった仲間がどれだけいたと思ってるんだ!!」


「それに関しては謝る!! 本当にすまなかった……」


「そして今度は人間の子ども…… それも女の子二人を誘拐とは

つくづくやってることがドブネズミらしいおこないだなぁ」



「私達は誘拐なんかされてない!!」



啖呵を切ったのはミオだった


「ハーメルンさんは私を友達へ出会わせくれた素敵なネズミさんなんだから!!」


「ミオちゃん……」


先頭に立つネズミは鼻で笑う


「こいつは名前が似合うほど 子どもへの愛情が異常なのさ

確か俺達を追い出すように頼んだ依頼主も幼い子どもだったなぁ!!」


「確かに…… ネズミに噛まれたことにより伝染病が広がってあの町は苦しんでいた

俺達ネズミには関係ないことだったが……」


「そうだよなぁ!! お前は〝優しい性格〟で有名だったんだもんなぁ!!

だけどその軽んじた正義感が俺達の仲間を殺した 偽善とは思わんかね?」


「……わかった 俺は罰を受けよう だけど後ろの二人の子どもは逃がしてやってくれ!!」


「……なぜ小屋に火を付けたかわかるか? ネズミは火事になったところで小さな隙間から逃げられるだろ?」


口角を上げるネズミの表情でハーメルンは悟った


「……まさか」


「俺達の大事な家族を奪った そんなお前の大事な物を壊してやるよ」


「やめろ…… やめてくれ!!」


「ネズミは放火は容易いが 鎮火するには少々ミニマムでな…… どうすることもできないさ

そしてハーメルン!! お前が外に逃げようもんなら私達が雇った野良ネコちゃんが腹を空かせてるぜぇ!!」


「悪かった…… 俺が悪かったから二人を避難させてやってくれ!!」


「……俺達がそういう状況になったとき お前は何も知らずあの町で楽しそうに笑っていたな」


一階の天井が崩れ始めた ミオとラシーネは火の届いてない隅っこでうずくまっている

ハーメルンは必死に頭を下げるが 他のネズミ達は耳を貸さずに避難しようとしていた


「助けてくれ…… 誰か……」


自分は無力だった また大切なものを失う過ちが彼にとっての一番応える恐怖

身体が弱いミオは泣くことと咳き込みで上手く呼吸ができていない


「助けて……」


ミオは最後の力を振り絞り 必死に叫んだ



「助けてアオ…… 助けてぇ!! チューさぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」



その時 扉付近の窓ガラスが勢いよく割れて一匹のネコとネズミが乱入してきた


「シャァァァァ!!!」


「「「「「 ヒィィィィィィ!!!! 炎の怪物だぁぁぁぁぁ!!!! 」」」」」


アオの登場でその場のネズミ達は悲鳴を上げる


「これは一体何が起こったんだい?」


「……チュー? チューじゃないか!!」


「あなた達は…… そういうことか……」


身に覚えのあるネズミ達 そして目の前で項垂うなだれるハーメルン

チューには奇しくも状況が理解出来た


「お前もこいつに恨みがあるよなぁ?! お前がこいつ殺したっていいぞ?」


「とりあえずミオお嬢さん達をここから脱出させようアオ君」


「チューだって恨みを持ってるだろ?! こいつは俺達の居場所を奪った」


「ドロボウを捕まえたときの連携で行こうじゃないか!」


「おい聞いてるのかチュー!! そいつは裏切り者なんだぞ!!!!」


「だからってやって良い事と悪い事があるだろ!!!!!!!」


チューの怒号は火の音をも圧倒する


「ハーメルンを殺して…… ご家族は帰ってくるんですか?!

罪の無い人間の子どもを巻き込むことが 皆さんの望みなんですか?!

こんな火事まで起こして…… 後々反省したところでどうしようもないんですよ?!

それはハーメルンにも当てはまります 彼も取り返しのつかないことをしてしまった

だから皆さんもやるんですか? 事を成し終えれば満足ですか?

だったら私は同じネズミとして…… とても悲しいです」


「「「「「 ………… 」」」」」


「あなた達を追い出したのは元を正せば人間…… だけどそれは仕方ないと思います

〝世界を変えてくれる人間の大人達はもう 弱い生き物の声が聞こえないのですから〟

さぁ…… 早くここから出ましょう」


廃屋が崩れる頃にはミオ達は外に避難できていた

チューとアオの連携プレイにより 割られた窓付近の消火が成功


詳細を語るならば タライに水道から水を汲んで大勢のネズミにより窓辺に搬送

アオのバカヂカラによって火元を鎮火する

息が上がっていてもなんとか動けるラシーネはミオを担いで最後の力を振り絞った


「ハァ…… 良かった……」


泣き疲れたミオの顔を見て一安心のラシーネ そしてハーメルン


「そいつを許すのか? チュー……」


放火したネズミはチューに問う


「死んだネズミ達からは何も聞けない…… だけど生きてる僕達は許す選択と許さない選択ができる

僕がハーメルンと出会ったとき 彼は事の真実に深く反省していました

じゃあ許そうって簡単にはいきませんが 久しぶりに同じ時間を過ごして様子を見ようと判断しました」


「…………そうか」


「僕だって今はこちらのミオお嬢さんの家にお世話になっている

人間を恨んだこともあった だけど彼女と暮らす毎日は楽しくて仕方がない

どんな奴にも後悔を覚える歴史が刻まれる 一人と一匹の寿命は思ったよりも有意義さ

交わることで相手を信じる時もあれば見下す時だってある 時間が知りたいだけなら鳩時計が教えてくれる

……これは勝手なことであるのですが 皆さんにも彼を許す時間をもうけて頂いてもらえないでしょうか?」


「…………」


「亡くなった者は帰ってきません 弔いましょう そして乗り越えましょう」


その場で泣き崩れるネズミ達 その内の一匹がミオとラシーネの前へ



「本当に…… 申し訳ありませんでした」



「……次からはやめてよね!」


「怖かったけど許します!!」


少女二人の慈愛に心のドブが洗われたネズミ達

これで一件落着 そう簡単にはいかなかった


「おいまだかネズミ共!! 腹減ってしょうがねぇぞ!!」


別の建物から集まるネズミ達に雇われていた野良ネコがシビれを切らして出てきた


「ヒィ!!」


「どれだ!! 食っていいネズミは!!」


手足がすくんで一歩も動けないネズミ達

よく見ればネコは一匹ではなく数匹だったのだ


「ニャハハハハ!! 大漁ですね兄貴!!」


「あぁ!! こんなに大漁のネズミ…… 口約束でしまいにするわけねぇだろ!!

人間がいるのはちょっと引けるが食い荒らしちまえ!!」


怯えるネズミ達

しかし飼い主の危険を感じたこのおとこが二種類の間に割って入って来た


「んにゃぁ?! なんだお前も分け前が欲しいのかぁ?」


それはアオだった


「ネズミを見たら食欲が湧く気持ちはすごくわかるぜぇ!!」


「アオ君……」


「チュー!! 全員連れてそこから逃げろ!!」


「……ありがとう アオ君!!」


チューはミオの肩に乗り ラシーネはハーメルンを抱き上げて

周りのネズミと友にその場から走り去った


「何してくれとんじゃてめぇ!?」


「お前らには同情するぜ…… あんなに大漁のネズミを逃がしちまったんだから立ち直れねぇよな……

だけどな!! てめぇの飼い主が危ない目に遭ってるときにネズミ追っかけてるようじゃ

そんなの…… 男じゃねぇ!!」


「何言ってやがっ…! いや待て…… お前のその顔どこかで……」


野良ネコのボスがアオの瞳をじっと見つめる その身体には尋常ではない汗が


「どうしたんです兄貴!! こんなネコ一匹 数で圧倒でっせ!!」


「こいつは…… パ…… 〝パンダ〟だ!!」


「「「「「 ネコなのに?!!!! 」」」」」


ボスネコが叫ぶと同時にアオの眉間がシワを寄せる


「表通りと裏町に住むネコの頂点に立つ者の話をしたことあるだろ? それが奴だ!!

その腕っ節は百戦錬磨!! 近隣ネコちゃんをその力で全て従えさせる伝説の男!!

パンダの由来は白と黒の世界で唯一のネコの中のネコとしてこの町に君臨し続けているからだと」


「……うるせぇ」


「〝パンダを見かけたらすぐ逃げろ それはもはやネコではない〟

て…… てめぇら油断するなよ!! 何がそ起きても都市伝説レベルの厄災が目の前にいると思え!!」


「パンダパンダうるせぇ!! 二度と言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


数匹のネコに物怖じしない一匹の怪物は竜驤虎視りゅうじょうこしごとく猛威を振るい

その晩 どさくさにまぎれてまた一つ伝説を刻んだのであった




一方 チュー達はというとネズミ達に改めて謝罪されて別れた

ミオ宅に着いたミオ本人はもうヘトヘトの状態の筈だったが

ラシーネにおんぶされながら寝てきたのですっかり元気


「助けに来てくれてありがとねチューさん!!」


「礼には及ばない 無事でなによりさ!」


「ラシーネちゃんも…… 今日はすっごく楽しかったよ!!」



「……ごめんね 危険な目に遭わせてしまって」



ミオの顔を見れないラシーネにミオが飛びついてきた


「ちょっ!! ちょっと!!」


「ねぇ! 次はお人形さん持ってくからまた遊ぼうね!!」


「いや…… 私とミオちゃんは住む世界が違うの…… だからもう遊べない」


「えぇそうなの?! ラシーネちゃんってお姫様だったの?!」


「逆!! 何見てたの!?」


「…………それなら意地悪言わないで一緒に遊ぼうよ」


「いやね…… 何て言えばいいんだろう…… チューさん助けて!!」



「何も悪いことないだろ? ここに君がいることに近隣住民が迷惑するというのなら

遊び場を変えればいいだけのこと 河川敷とかそれこそ裏町で安全な場所を探すとかさ!!」



差別が生んだ感覚の上で中々納得できないし解決にならないと分かっているラシーネはさらに困る


「ねぇラシーネ!! 私達友達でしょ?!」


「うっ……」


「絶対また会いに行くからね!! 裏町に忍び込んでも行くからね!!」


ミオはラシーネの金髪を掻き分けて 頬に別れのキスを告げた

家の前では案の定 両親に説教されている

しかし母親もちゃんとお使いのルールを言ってなかったのもあり

怒るよりも無事に帰ってきたことに安心と反省を交えてミオを抱きしめている


チューとラシーネは各々すぐに帰らず

遠い場所からミオの誕生日パーティーを眺めながら一息ついていた


「ありがとう…… チューさん」


「ハハ…… たくさんの者達からお礼を言われるのは恥ずかしいな」



「本当に助かったよ…… ありがとう」



ラシーネの懐から出てきたハーメルンも深々とお礼を言った


「これからどうするんだハーメルン? 旅に出る予定なんだよね?」


「…………」


即答しないハーメルンにラシーネは人差し指で頭にデコピンをお見舞いした


「勝手に旅に出ることは私が許しません!」


「えっ?」


「今日中に新しい住処すみかを探さないといけないからねぇ~~ 働いてもらうよ~~?」


「ラシーネ……」


「ミオちゃんって友達ができたけどさ…… 普段の生活にあなたがいなくなったら寂しいじゃん」


「……ありがとう ありがとうっ! うぅぅ……!!」



「良かったなハーメルン!」



ハーメルンはラシーネの肩に乗り 一人と一匹は仲睦まじく裏町に帰ろうとしていた


「あっ!!」


チューは何かに気付いた 


「ラシーネ!!」


チューに呼び戻されたラシーネはミオ宅を見る

家の窓越しに家族に囲まれたミオが間違いなくこちらを見ていた

そんなミオは口でパクパク何かを伝えようとしている

それはラシーネはもちろん チューとハーメルンの心にも響く



〝 ラシーネ!! 誕生日おめでとう!! 〟



「友達かぁ…… おめでとう ミオちゃん!!」


ラシーネは手を振って思いを伝え返す

そんな彼女はチューさんにある質問をしてみた


「チューさんはミオちゃんの何なの?」


「僕かい? 僕もアオ君もあの家で居座らせてもらってる……」


チューは鼻で笑った しかしそれは幸せを意味している



「ただの使い魔ペットさ!」



それぞれ別れを告げ チューは気付かれないように家の中へと入る

賑やかなダイニングをBGMに薄暗い廊下を走っていく彼は

鳩時計へ辿り着くと同時に帰ってきたアオ君の安否を確かめて中へと入っていった


「やぁホワイトレディー!!

今日はネズミにとってスケールが大き過ぎるアヴァンチュールな一日だったよ」


「………………」


「生きていられたことを神に…… いや…… 友と仲直りさせてくれたつがいの女神達に感謝を!」


我慢しても襲ってくる欠伸と眠気に逆らえないチューは早々に自分の部屋へと戻る




ーー今日の出来事は本を作れるな だけど誰にも言えない秘密の冒険さ

だから僕らの物語を知りたい者はけして…… 〝鳩時計の裏っ側〟を覗いちゃいけないよ


だが約束がやぶられようとも今日は 良い夢が見れるはずだ!





おわり


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