結
「力のねぇ野良猫共にお前は何をしてやれてるんだ?」
「貴方と同じくして暴力で支配しようとする野良猫達
私の思想に賛同して頂き 守る為に力を奮う過激派
それ含め私を神輿にして穏健派を掲げているのが先の集団です
この三大勢力がこれまた絶妙なバランスで成立しており
貴方が頂点に君臨していた時代よりは平和を維持出来ています」
「……」
「落ち着けば弱い猫達を一箇所に留めます
保証出来る安住の住処を用意する算段で今を動いてますから
餌を分け与えるにも方々に散っていては 仲間達の体力消耗も著しいですからね」
「……そうだな 遠い場所にいる子供一人一人にプレゼントを配るのは至難だったぜ」
「判って頂いているようで嬉しいです」
マダラは背中を伸ばして手を舐め回し
塀を下りては自分の行くべき場所へ去ろうとしていた
「戻って来ませんか? 今の貴方にならボスの座を返上します」
「……」
「何があったのか 姿を消してからこうして目の前に現れるまでのこの間
貴方は見違える程の成長を遂げていました
あの貴方が人を助け 人に幸せを与えるなんて……」
「今回はたまたまだ…… マヌケなトナカイが家に落ちて来なければ寝てたぜ!?」
「家ですか…… この場所は貴方にとって窮屈な檻では無いのですね」
マダラはミオの家を見渡す
野良にとって喉から手が出るほど欲っした夢の住処
「飼われる家というのは我々弱い立場の者が憧れる場所です
でも貴方にとっては世界が狭まるのと違いますか?」
「気に食わねぇよ…… だけどミオには恩を感じてる
強敵との喧嘩の果てに頭を打ってフラフラしていた俺を保護してくれた
そして前にお前と話した後に襲われた直後も含め
俺はミオに二度助けられたんだ デカい借りがある
……あとネズミ野郎」
アオの最後の一言は聴き取れなかったマダラだが
それでもまだ腑に落ちていない
「そんな義理人情に左右される猫だったのですか貴方は?
私の推薦がなければ 恐れられた貴方の居場所は野良の世界にはありませんよ?」
「勘違いするなって言っただろ?
戻るのも自由 留まるのも俺様の自由だ」
「何が貴方をそこまで引き留めているのかが気になりますね……」
その理由はアオにも分かっていない
だがマダラには一通り伝えておきたいという気持ちが今は在る
「ヘッ…… お前も小物じゃなくなったんだな?」
「??」
「この家にはいつでも食えるネズミが一匹いるんだ
どういう訳だかそいつはオシャレでキザで人間と仲良くなりたいらしい
汚ねぇ小ネズミが口ばかりは達者で それを聞いては呆れるんだがよ……」
「……」
「不思議なことに毎日がイベントでよ これが飽ねぇんだ
子供一人と動物二匹だってのに毎日話題が尽きない
かと思えばチューの知り合いのハリネズミがやって来たり
天井にアホなイタチまで迷い込んできて…… もうてんやわんやだ」
マダラが見上げる塀の上の野蛮な印象の強い野良猫は
そんな面影一つ残らず消し去って 嫉妬さえ覚えてしまう存在に
「暴力を無くせば見えてくるもんが沢山あった
勿論必要に応じて力を解放する時もあったが その時は不思議と感謝される
俺も段々飢えていたもんに貪欲になったのかねぇ……
周りを圧倒して得ていた立場からは絶対に手に入らなかった大事な宝物によ」
「っ……」
「誰にも言うんじゃねぇぞ…… 言ったら噛み殺すからな」
「……ハハハ
今の私なら貴方を簡単に勧誘出来ると思ってましたが浅はかでした
貴方の飼い主はさぞ 想像も付かない手で貴方を懐柔させたのでしょう」
「んなわけねぇだろ!! 俺はな……!!」
「分かりました……! それ程までなら私も諦めましょう」
マダラはアオに背を向け それ以上こちらを見ることはなく
「遠くからでも野良の世界を見ていて下さい
もう貴方の記憶にある景色は無くなるでしょうが……
戻りたくなるそんな理想郷にしてみせますから」
「おい待て!」
「何でしょう?」
「俺の名前はアオだ 次からはちゃんと名前で呼べよ」
「……承知しました」
少し顔がこちらを向いてるマダラは微笑んでいた
それ以上何も言わず粉雪に消える彼を
アオもまた満遍の口角を上げて見送っている
ーーあの臆病者がな……
家へと入るとさっそく出迎えてくれるのは
時計の針二本が頂点を指すと同時に出て来るホワイトレディー
そして彼女の十二回目の鳴き声と共に現れるチューだった
「やぁアオ君!! こんな時間まで何処に行ってたんだい?」
「話し掛けるなネズミ野郎 俺はまだ仕事の途中なんだよ」
「帰って来て早々ヒドい言い草だねぇ~~
いきなりミオお嬢さんに電話掛けたと思えば
いきなりテンザン君とコジマ君を丘の上に呼べだなんて……
一体何があったのか話しておくれよ~~
この雪路を頑張ったんだよ僕もさ!!」
「フンッ!!」
「……でもアオ君 なんか逞しくなったね!」
「冒険してるのは何もてめぇだけじゃねぇって事だよ」
プレゼントを持って二階を駆け上がり
ミオの部屋に辿り着いたアオに降りかかる多忙の蓄積
働き詰めのサラリーマンの辛さを味わうのも今日が最初で最後
そう安心を抱きながらもいざミオの部屋へ
「メリークリスマス ミオ……!」
スヤスヤ寝ているミオの枕元にプレゼントを置くが
野良の習性か 急激に中身を気になりだしたアオ
「ちょっとアオ君?!」
「隙間から見るだけだ 爪は立てねぇよ」
チューの説得も虚しく
リボンで縛ってある袋の穴から見えたのは
〝 今日は特別な日なの! アオにはデリシャス缶詰だよ! 〟
アオは何を見たのか
これ以上にない気持ち悪い顔をしながら頭を引っ込めた
「何が入っていたんだいアオ君!!」
「極上のチーズが入っていたぜ 良かったなネズミ野郎!!
これはご足労かけたお前への報酬とでも思ってくれ」
「……?? だけどそれだけじゃぁアオ君の愉快な顔に説明つかないよ」
「ヘヘッ!! ほっとけ!!」
アオは掛け布団の上で丸まり深い眠りに就く
チューは相も変わらず台所に向かおうとするが
いつも以上に安らかな彼の寝顔の真相が知りたくてウズウズしていた
奇跡は誰にでも平等に与えられる宝くじみたいなものだ
与える側が徳を積んで得るのか 日々一生懸命生きている人間がもたらされるのか
サンタはそれほど気にはしていない 幸せを運ぶのが当然だからだ
朝目覚めてプレゼントを開けるミオの燥ぎっぷりは
アオやチューにとって遠くで見守る事で十分に価値がある幸福感を得ている
そんな彼らにチーズと缶詰を配るミオもまたサンタなのだから
まさか彼女の足下で丸まっていた猫がプレゼントを運んで来たなんて
考えもしないだろう
おわり