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「さぁ行こうぜナカイ!! 最後のプレゼントが残ってる!!」
「……そうだね!!」
ソリは地を離れ 二匹は再び夜空に見えない翼を広げた
周りの大人達は園長と両親の戦いを収める事に夢中になっている
飛び立つ瞬間 二階の窓を開けて手を振るバニラとバリー
そのバリーの別れ際の一言が この仕事のやりがいを感じれる本質なのだろう
「俺の大事なモンを届けてくれてありがとうな!! サンタさん!!」
やり遂げた達成感なんて言葉では抑えきれない
照れ臭くもあり 脇がこそばゆくなって寒さが倍増するアオ
だがソリを引くことの楽しさにプラスして 誇らしささえ感じる
それは空へと駆け上がる動作も相俟っての高揚
脳内の快楽中枢が刺激を受けに受け 快楽物質がドパドパだ
「……最近出来た仲間以外にありがとうって言われたの初めてだ」
「どうしたんだいアオさん?」
「無償で人を助けるなんざ柄でもねぇって思ってたんだ
前に俺の飼い主に助けられた時に心の中で呟いた「アリガトウ」って言葉……
暫くは一緒にいるだけで恩を返し ミオにだけ感謝されれば良いとさえ思っていた
ムカつくネズミ野郎にお礼言われるより百倍マシだと思えたからな」
「サンタは直接は無理でも 世界中からお礼の声は拡がっているんだ
特に昔は 朝を迎える時間帯には発狂の嵐だったよ」
「……良いもんだな お礼を言って貰えるって」
寒さに耐えようと何も考えず手綱を握るアオは
ふと自分が気になる記憶を 何を思う訳でもなく蘇らせていた
〝 統治国家ですよぉ!! 弱い猫にも均一に餌を分け与えるとか……
うぅ~~!! 思い出しただけでも毛が逆立ちますわ!! 〟
〝 野良の世界なんてそんな甘くないってのに……
自分もそういう立場だったのか躍起になってるっすよね~~ 〟
舎弟達が言っていたマダラの現在の状況
初めてマダラが野良の世界の頂点に君臨した話は
情報屋のハンネから聞かされた時だった
〝 マダラは穏健派よ
力ではなく話し合いで縄張りを守っているわ
今まで力では敵わなかったネコたちの支持を得てのし上がったのよ 〟
頭から又聞きで寄せ集めた情報が消えない理由
おそらくと言う他ないのだが アオは今 マダラと同じ事をしているのだ
相手の理解不能だった行いに理解が追いつく瞬間は
結局自分で見て聞いて 体験することに基づく
今回のサンタ業を経てアオは 無意識に相手の思想に寄り添っていた
シャンシャン♪ シャンシャン♪ シャンシャンシャンシャン♪
ソリは綺麗にミオの家の前の道路で着地して
アオは最後のプレゼントを持ち上げて我が家へと帰還した
「ではアオさん 名残惜しい聖夜を味わえましたが
そろそろ別れを飲み込む刻限のようです
そのプレゼントはしっかり宛先の子に届けて下さいね」
「わかってるぜ!!」
自分より少し大きな純白の袋を持ち上げると
今更な疑問に気付いた
「なんで俺…… こんな大きな荷物運べたんだ?」
「ハッハッハ!! アオさんは素質があるようですな!!
サンタに成り得る 奇跡をもたらせる偉大な素質が……」
「ハッ!!!! お前と今日は長い時間を共にした筈なんだが……
最後の最後まで謎だらけで終わるなんてグッスリ寝れねぇじゃねぇかよ
……なんで空を飛べるかくらい教えてくれねぇのか?」
「ではではさらばですアオさん!!
また来年 ご縁があれば会いましょう!!!!」
「近所なんだから会おうと思えば会えるだろうが!!」
ナカイはもう一踏ん張りと前脚を高らかに上げ
「貴方には沢山の奇跡を頂きました
プレゼントを望む者全てに配り この仕事への意義を思い出させ
果てには飼い主との仲が悪くなる方向から逸脱してくれた
アオさんは紛うことなき〝本物のサンタ〟でしたよ!!」
「おい!! 飛び方教えろナカイ!!」
「おっと客人ですよアオさん!
吾輩は邪魔なので退散します……
それではご機嫌よう!!!!」
逃げるように空へと走っていくナカイ
アオにとって飛んでる彼を見るのはこれが初めてだった
ソリを降りて判ることは
少しでも距離を置けばあの存在は自分がいる世界とは全く別の
神秘的で荘厳な生き物なのだろうと悟った
本当に次はいつ出逢えるのか 少し不安になるほどに
ーー帰りは一匹で大丈夫か????
そんな心配も加えて家に入ろうとしたアオの目の前には
先ほどピンチを救って貰ったマダラが玄関口を塞いでいたのだ
「マダラ……」
「……少し話をしませんか?
今の貴方になら塀の上から見下す必要もないと判断しました」
前に一度対峙した際は
塀の下と上といういつでも逃げられる距離でいた二匹の関係は
今回の一件を経て 庭のナカイがぶっ壊した雪だるまの見えるベランダにて
視界に丸々と大きく姿が入るくらいまで縮まっていた
「何の用だ?」
「私の勘違いでしたかね……
会えばお礼の一つでも期待していたんですが」
「あぁ勘違いだな…… 俺はいつでも猫界のボスに返り咲く気満々だぜ?」
「……そうですか」
少し哀しそうな顔を見せるマダラ
アオはそれに気付いてない訳ではないが目を逸らしていた
「昔一度…… 臆病だった頃の私は貴方に助けられているんです」
「覚えていねぇな……」
「でしょうね……
なんせ野良猫達に餌を奪われる私なんか気にも止めず
貴方はその襲って来た野良猫達と餌の取り合い合戦に夢中でしたから」
「っ…… それが野良の世界だ」
「でも感謝しました あそこで貴方が来なければ私も
私の大事な者達も殺されていたでしょうから……」




