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【連載版】鳩時計の裏っ側 二次  作者: 滝翔
第一弾 氷と炎の使い魔達
3/41

3


12回目のハトの鳴き声で起きるチューに差し込むのは本物の日の光

昼間に起きる理由 それは


「こらアオ! 飾り付けに時間がかかるでしょ あっち行ってなさい」


「ねぇママ!! 誕生日プレゼントは?!」


「パパがちゃんと用意してるから夜のディナーまで待ってて!」


「キャー! 楽しみ!」



ーーおちおち寝てもいられない



何故なら今日はこの家の一人娘であるミオの誕生日だった

参加することが叶わないチューでも この賑やかな一日に巻き込まれざるを得ない


「ヤダッ……! そういえばロウソク買ってくるの忘れちゃった……」


「もう! またなのママ」


「ケーキは手作りだからついつい忘れちゃうのよ~」


「じゃぁ私が買ってくる!!」


「う~ん…… でも近くのお店だし…… 一人で大丈夫?」


「うん!」


ミオはお金をポーチに入れて玄関を飛び出した


「行ってくるねアオ!!」


「ミョア~~」


先ほど外に追いやられて 玄関先で仰向あおむけに寝ているアオに一声入れて出て行く彼女を

家の隙間すきまから出てきたチューが心配そうにアオにたずねる


「ミオお嬢さんはどこへ? 炎の怪物君」


「知らんクールネズミ…… 俺は家の中にいるオバサンに追い出されちまったからな」


「ふぅん…… 大丈夫だろうか?」


「心配なら付いていけばいいじゃねぇか」


「あんなにウキウキと走って行かれたら追いつけそうもないからね……」


チューとアオは心配することはないと各々の生活に戻る

一方ミオはというと 路上で見知ったネズミに捕まっていた


「やぁ! 久しぶりだねぇミオさん」


「あ! ハーメルンさんだぁ!!」


「こんなドブネズミを覚えてくれていて感謝の極み! ……それで一つお願いがあるのですが」


「うーん…… でも私は今 お使いを頼まれましてね」


「ほぉ! その年頃で?! なんとご立派な!」


「エヘヘ! 初めてのお使いなの!!」


「無理を承知しょうちでお願いです! 私と一緒に来てくれませんか?

あなたに会って欲しい人がいるんです」


「誰なの?」


「それは…… 私の友達です あなたと同じ年頃の人間の子どもです」


「うんわかった!!」


「早い!! ではさっそくこちらへ」


ミオはハーメルンに先導せんどうされて そのまま大きく進路を変更してしまった

もちろんチューとアオに知るすべはない


ハーメルンが連れてきた場所はあの裏町だった

ミオはというとフードを深く被らされてるとはいえ

周りから集まる危険な視線に 既に身体が震えている


「まだなの……? ハーメルンさん……」


「見えてきました! あそこです!!」


大きな建物に挟まれた小さな一軒家

ハーメルンはレディーファーストでミオを先に中へと入れる


「ただいま!! ラシーネ!!」


掃除はされているようだが 手入れされてない老朽ろうきゅうが進んでいる廃屋はいおく

もちろんこんな場所に来るのは初めてのミオはこの先に足を踏み入れる勇気はない


「ハーメルンさん…?」


「誰あなた?!」


ビクッと心臓が飛び出そうになったミオは瞬時しゅんじに振り向いた


「え…… えと……」


「ここに何か用でも? それとも迷子? ……それともドロボウ??」


恐怖から視線を合わせることが出来ないミオのもとにハーメルンが帰ってきた


「おかえりラシーネ!!」


「……誰なのこの子は?」


不審ふしんがる彼女にハーメルンは気を遣い ミオの全身を包むフードコートを取ってあげた

その身なりを一通り見回すなり ラシーネはハーメルンの後ろ首を掴んでヒョイッと持ち上げる


「まさか誘拐ゆうかいしてきたの?!!」


「違う違う違う!!!! 今日は君の誕生日だろ?!」



「…………え?」



ハーメルンの言葉にミオは引っかかった


「ミオちゃんだっけ?! 案内するから今すぐここから出ていって!」


「すごーい!! 私も今日は誕生日なの!!」


「え…… いやいやここは危ない所なの!!

あなたみたいな服を着ている子どもがうろついて どんな目に遭うか……」


「こんな偶然…… 私は生まれて初めて!!」


「ねぇ話聞いてます?!」


呆れ顔のラシーネに訳を話す為にハーメルンは解放された


「聞いてくれラシーネ!! 君への誕生日プレゼントだよ!!」


「えぇ?! ……ってどこあるのよ」


「彼女がそうさ!」


ラシーネはミオを見る しかし当の本人すらも混乱していた


「ハァ…… あのねぇ! 人間は物じゃないの!!」


「違う!! 〝友達〟をプレゼントさ!!」


「友達はプレゼントされるようなことで成立しないの!! 第一に私は望んでません!!」


「それは捉え方次第だろ!! 出会い方はマズかったかもしれないが君は学校にも行ってないで働いてる!!

人との交流の場に巡り会えない君をどうにか孤独から救おうと俺なりに考えてみたんだが……」


「っ……」


「……毎日毎日 寂しそうだったぞお前」


「うるさい!! とにかくミオちゃんを安全な場所まで連れて家に帰そう」


持ってきた荷物を置いて彼女を帰らそうとミオの腕を掴むが

逆に引っ張られたラシーネの手は両手で包むようににぎられた


「私!! 友達になります!!」


「話聞いてた?!!」


「私達の誕生日にハーメルンさんは出会わせてくれた!! 奇跡だよね?!」


「いやぁ…… あの……」


冷や汗混じりにあたふたするラシーネの目の前にいる女の子のお腹が盛大に鳴る


「あっ……」


「…………わかった ご飯だけでも食っていきな」


深い溜息を漏らしながらラシーネは食材を担いで台所へと歩いていった

ハーメルンはミオを机に招待し 小さな器に水を注いでお出しする


「はいどうぞリトルレディー!」


「まぁ! ありがとう!」



「ちょっと待った!!」



ラシーネはその小さい器を取り上げる


「……なんだろうね?」


「ねぇ!」


強引にも取り上げたラシーネの真意しんいは言わずもがなだった

普段使わない洗剤を取り出してはミオが食べる用の食器だけ入念に洗う

水も遠くの綺麗な井戸水から 食材も腐ってる物ではなくハーメルンが拾ってきた物と合わせて吟味し

最良の物を料理の具材に厳選げんせんする


「どうしたというのだラシーネ」


庶民しょみんの子どもに腐った食材を口にさせたら どうなるかわかるでしょ!!」


「………………どうなるんだ?」


「ハァ~~~…… 私はまだ犯罪者になるつもりは無いの!!」


「……よくわからんが 稀に来ないスペシャルゲストだからな!! ラシーネが張り切るのも理解できるぜ!」


「いいからあっち行ってて!!」


ガチャガチャガチャガチャと荒ぶるクッキングを見せられているミオは

同い年の子が自分には出来ないことをしていることに魅了されていた


「ラシーネちゃんはすごいねぇ 私なんてママと一緒にクッキーしか焼けないんだ……」


「……他に誰もいないからね 全部一人でするしかないんだよ」


「結婚するならラシーネちゃんみたいな人がいいな!!」


「意味がわからないけどね…… ミオちゃんはさ 私を見てなんとも思わないの?」


「う~~~ん…… あ!! 私にチューさんがいるように ラシーネちゃんにもハーメルンさんがいる!!

ネズミさんのお友達がいるところも同じだね!!」


「うーん…… こりゃぁ早くミオちゃんをお家に帰した方が良さそうだ……」


熱々の鍋を持ち上げて 机のど真ん中に置くラシーネは席に着く

ミオ専用の取り皿を間違えないように一番先に盛り付けて彼女に渡した


「〝生まれて初めて健康に良いシチュー〟を作ってみましたぁ! 完成でぇす!! 熱いうちに召し上がれ!!」


「「 いただきまぁす!! 」」


よほどお腹が空いていたのか ミオは物怖じせず1番手で頬張ほおば


「美味しい!! ママの料理と同じくらい美味しい!!」


「……ありがとう」


赤い顔を照れ隠すラシーネも ミオと変わらない人間の子どもなんだとハーメルンは思った

常に孤独だった彼女は抵抗がありつつもこの状況を楽しんでいる


「ちょっとミオったら…… 口の周り真っ白だよもう~~」


「フフフ! ママにもいつも怒られるんだ!」


ミオの口を綺麗なタオルで拭ってあげるラシーネは ふとハーメルンを見て


「…………ありがと」


「ンハハ! どういたしまして!」


二人と一匹のにぎやかな食卓は夕日が沈むまで続いた

辺りも暗くなり ミオ達がいるこの裏町はより一層不気味さを増す

隣の建物内部から感じる妖しい眼光 それは次第に四つ六つと広がっていく

それらは全てラシーネとハーメルンの住処すみかに集中していた


場所は変わって ミオ宅

明らかに帰りが遅いミオを玄関先で待機しているチューとアオ

家の中にいるミオの母親も心配して方々に連絡を取っていた


「これはアレだね……」


「チッ!! 迷子かよ」


「参ったね……」


「……乗れ」


アオの言葉にチューは言葉を失う


「今なんて?!」


「今回だけだ!! 乗れ!!」


「……今回が初めてじゃないんだけどね」


「いいから早く乗れ!!」


チューは嬉しそうにアオの背中に乗った


「ハァ~ このなんとも言えないモフモフ感をゆっくり味わえる日がまた来ようとは……」


「ツッコんでる暇はねぇんだ!! 行くぞ!!」


「あっ…… もうちょっとだけ至福の一時を…… ア~~~~~!!」


風を切る速さでダッシュしたアオに必死にしがみつくチュー

ネズミの鼻を頼りにミオが居る場所を必死に探しに向かった


「この臭い…… ネズミ?」


途中から漂う別の臭いがきっかけで瞬時にチューは場所を特定した


「まさか……」


「チッ! ハーメルンって奴か?」


「何をしてるんだよまったく……」


チューはアオにお願いして早急に裏町へと走ってもらった




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