4
「うぅ~~ 寒ぃけどやっと終わる~~」
「これで九件目…… しかし最近の子を見てるとゲームが人気だよね~~」
「……ヘブシッ!! ゲームソフトは作れないのか?」
鼻をすすり上げるアオ
無理もない 服を来ていようと真冬の空をフルフェイスヘルメットも付けなければ
口の前は小さなツララ群の出来上がりだ
「海賊版ってことで捕まっちゃうよ……」
「そうか…… でもこっそりやれば金儲けが……」
「捕まるよ絶対」
「うす!」
「許可が取れたのは玩具まで
最近はハイテクな時代だろ? ボードゲームじゃない普通の玩具は売れないんだよ
だから支援って形で在り続けたのが近年のサンタ業なんだ……
ぬいぐるみやフィギュアだって人気の奴なんかは企業側が縦には頷かない
売れ残りの在庫処理にだけサンタって夢のある行事に混ぜる戦略で許可を下ろしてたからね」
「なんか段々サンタがいやらしい存在になってきたな」
「本当に欲しい最新の品が出せないのが廃れ具合の要因さ
昔は街中…… いや世界中から尊敬されていた筈なのに……
陸地の交通不便が解消されて 川下り船が無くなるあの現象と同じだね
子供の欲求にも世間の理屈や決め事が変わって どんどん古いやり方は不利になる一方なのさ」
勘違いかもしれなかったが ナカイの翔けるスピードは落ちていた
そんな平淡な雑談を遮る 地上より響く泣き声をアオは聞き逃さない
「だ…… た…け……!」
「聞こえたか?」
「えぇ…… 保育園がある方角ですな」
舵を切る様に方向転換
急な傾きにアオは姿勢を崩すが文句の一つも垂れる暇は無い
「あそこだ!!」
アオの危機を知らせるアラートが鳴り響く
泣き声の正体はナカイの蹄とソリが地に着地すると同時に
辿れる正確な方角を指し示せた
「ミオが通っている場所だ…… 誰か取り残されているのか?」
声を頼りに除雪されていない不愉快な足場を
蹄とニャンコの足跡を残しながら進む二匹
「たすけて…… たす…… たす……」
「冬季専用のスクールバスだ!」
ナカイからしてみればそうでもないが
アオ視点から見るそれは鋼鉄の送迎車が待ち構えていた
「女の子がいる…… 助けねぇと!!」
「吾輩達では力不足だ…… 大人の人間を呼んでこよう!!」
「俺達の声なんて届かねぇぞ!! 動物管理局が来て終いだぜ?!」
「じゃぁどうすれば……」
アオはナカイの背中を借りて
窓の向こうにいる女の子に必死で語りかけた
「おーい大丈夫かぁ?!」
「うぇええええ~~~ん!!!!
しゃべる猫怖いぃぃ~~!!!!」
「俺達は怖くねぇ!! 俺達はその……」
「うわぁぁぁあああああ~~ん!!!!」
「っ……」
〝 まぁ汚い言葉…… やり直し!! 〟
唐突にミオの言葉を思い出すアオ
助けたい相手に拒絶されては元も子もないと唇を噛み締め
「やぁ!! 君の名前は何て言うんだい?」
「……」
「俺…… いや僕の名前はアオって言うんだ!! 互いに自己紹介しようじゃないか?」
「グスッ…… バニラ……!」
「そうかバニラ!! 君を助けたいんだけどここの窓のドアを開けてくれないかい?」
「……うん 頑張ってみる」
バスの中に取り残された少女バニラは
弱々しい手で施錠しているレバーを上に上げて窓を開けた
視界に入らなかった巨躯のトナカイを前にしてさらに混乱し
バニラはそのまま気絶するがナカイが上手いこと背中に乗せる
「よし…… では彼女の家だが 取り敢えず吾輩の家で温めよう」
「そうだな…… お…… 俺の体も限界だだだ……」
「にしてもアオさんはあんな丁寧な口調が使えたのですね?」
「っ……!! ちょっとネズミ野郎の口調に似てたから思い出させるな……」
「??」
門前に置いて来たソリの場所まで走るナカイ
アオはバニラが振り落とされないように微力ながら抑える
少女を優しく板の上に乗せていざ出発と思いきや
「おいおい…… 聖夜の夜だからって野良のトナカイがいるかよ?!!」
「こちら交番前勤務の者です 巡回中に野良のトナカイを発見
至急大きな網と大型用捕獲棒を持って応援を寄越して下さい」
警官二人に見つかってしまった
言葉の通じない相手に万事休すの二匹は固まるが
「少女を引き渡して逃げた方がいいのではないですかアオさん?」
「俺もそう考えた…… だがバニラの容態は悪化している
いつからバスの中に閉じ込められていたのかわかんねぇし……」
警官が拳銃を構えて近付いてくる
フラッシュライトがバニラを照らした時は驚きの表情を見せた
「女児が何でこんなところにいるんだ?!!」
「応援をもっと呼べ!! この寒空の中で長時間いたら後遺症じゃすまないぞ!!」
事態は緊迫を増していた
「この状況で空は飛べないのかナカイ?!!」
「無理だよ…… 関係者以外のほとんどの一般人は空飛ぶソリを見慣れていないんだ!!
下手に動いて発砲されたらそれこそ本末転倒」
膠着状態が続けば続くほど少女の体力は落ちる一方
人間同士ならこんなことにはならかったのだろうが
人目引く状況でしかも銃を向けられては迂闊に動きが取れない
月が顔を出し 状況は悪くなる中で
その場の空気を打ち壊す流暢な言葉を放つ動物が塀の上より現れた
「おや こんな夜分遅く外が騒がしいと思い来てみれば……
貴方でしたか 名を持たぬボス猫さん」
「てめぇは…… マダラ!!!?」